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2−5 異世界女ゾンビは美しく強い







「……こんなところまで来られる方がいらっしゃるとは。しかも人間……ですか。いつ以来のことでしょうかね」


 目の前ですっと立ち上がったのは、これまでの人生でお目にかかったことのないようなとんでもない美少女だった。


 いや、前世の幼馴染の愛奈、皇女のベル、エルフメイドのリリー、それから『アマゾネス』のチームメンバー……揃いも揃って美少女・美人ではあったのだけど、彼女たちにはどこか人間だと思えるようなところはあった。


 だけど、目の前の彼女の美しさは、芸術彫刻として造られた人工物であるかのように完璧すぎるもの。


 そして、闇のオーラを纏う漆黒のワンピースに包まれた青白すぎる肌と生気を感じない灰色の瞳──それらは、彼女がこの世に属する存在ではないことを伝えてくる。


 でも……それでもいいから、彼女を自分のものにしたい……という強い願望を感じてしまうほどの美しさを持つ少女だった。


「……ってかこの人、喋ってる……喋ってるよっ!」

「はい……もちろん喋るくらいのことは、できますが?」


 不思議そうに首を傾げる美少女だけど、『アマゾネス』に嵌められてダンジョン下層に転移してから僕が見かけたのは、奇声を上げながら襲いかかってくるゾンビたちだけ。


 彼女もゾンビなのかもしれないけれど、言葉を交わせる存在に久しぶりに会えた、ってのは普通に嬉しいことだった。


「あっ、あのっ、僕、決して争いに来たわけではなくてっ、この先に通らせてもらってダンジョンから脱出したいだけなんですが……通らせていただくことはできませんか?」

「それは……難しい、ですね」

「な、なんでっ?」

「私の部屋を抜けた先にはこのダンジョンの管理者であるファルメントドラゴンキングが待ち受けています……」


 ファルメント、ドラゴン、キング、だとっ……ごくっ……


 …………って、あれ?


 それって、もしかして、そんなに強くないんじゃ?


「そして、そのファルメントドラゴンキングに挑む価値があるかを決めるのが、ダンジョンの守護者たるこの私の役目。私を倒せとまでは言いませんが、貴方にこの先に進む価値があると私に認めさせる必要があります……ここまでたどり着いたからには、それなり以上に武勇には優れているのでしょうが……」


 いやー、そんなことはないんじゃないかなー……?


 僕なんかでも下層をあっさり抜けられるようなダンジョンだ。『穢れダンジョン』なんて呼ばれて忌み嫌われていなかったら、もっと次々と攻略されているんじゃないだろうか。


「……だからといって素通りさせるという訳にはいかないのです。ファルメントドラゴンキングの強さは別格。この私と戦って、ファルメントドラゴンキングと戦える力があることを証明してみなさい」

「で、でも、喋れる普通の人と闘うだなんて……」


 これまでのゾンビはあからさまにモンスターすぎる見た目をしていたわけだし、向こうから勝手に襲いかかってきてもいた。


 だから、それを屠ることに抵抗なんて感じなかった。


 だけど……今の僕の目の前にいるのは、肌が青白いだけの美少女だ。


 とてもじゃないけど、この彼女を攻撃するなんてできるわけがない。彼女の顔が僕のパンチで弾けとんだりしたら、トラウマになること間違いなしだ。


「くくっ、この私を『普通の人』と呼びますか……面白い人だとは思いますが、それでもルールはルールです。もしこの先に進みたいと言うのであれば、私と戦ってもらう必要があります。もし、引き返す……というならば後を追ったりはしませんが」

「……そう。ところで一つ質問してもいい?」

「はい」

「ここってこのダンジョンの何階層か教えてもらっても?」

「はは、そんなことも覚えていなかったのですか。普通の人間ならば1階層ごとに苦労しながら降りてくるもの。階層を忘れるなんてありえないはずなんですがね……ですが、そのくらいならば答えるにやぶさかでは有りません。ここはこの世界に五つある世界の支配者がための超S級ダンジョンの一つ、『深淵の腐海』の99階層となります」


 ……世界の支配者? 超S級ダンジョン? 『深淵の腐海』?


 もしかして彼女は、いわゆる中二病ってやつを患っている感じのあれなのだろうか?


 ゾンビ界でもそういうのってあるのかな?


 この楽勝すぎるダンジョンが、彼女が言うように大層なダンジョンなわけがない。


 ともあれ……


「引き返すってのは無しだね。僕には99階も上れるだけの食事がないよ……それに、ダンジョンの途中が塞がれてるって聞いてるし……」

「そうですか……それでしたら必然、私と戦っていただくことになりますね」


 どうしようか……戦いたくはないけれど、それしか方法はないのだろうか?


 整った容姿をしているけれど、肌の青白さを考えれば彼女もよわよわのゾンビ系モンスターではあるのだろう。


 そう考えれば、まあ普通に戦って負けることはないはず。


 だけど……彼女が他のモンスターのように、僕の攻撃で砕け散るところは正直見たくない。


 だったら……


「……条件を決めて、勝負をする……ってのはどう?」

「条件……ですか、その条件次第ですが……」


 彼女は面白いものでも見るかのようにこちらを見てくる。


「そうだな……お互いに好きな方法を使って、攻守交代しながら1分間ずつ攻め合っていく……ってのはどうかな? どの段階でも、相手が負けを認めたら勝ちってことで……」


 普通の戦闘をしたならば彼女を傷つけてしまう。


 それだったら普通じゃない攻め方をすれば良いだけ。


 僕には一つだけ思いついたアイディアがあった。


「そうですか……普通の戦闘をするのとさほど変わらないような気もしますが……貴方がそれで満足されるというのならば良いでしょう。どんな攻撃でも受けきってみせましょう……」

「そう、良かった。それじゃあ君に先行は譲るよ」

「……よろしいのですか……本気でいきますよ? 私に先行を譲ってしまったら、貴方の攻撃の順番が回ってくるとは思えませんが……」


 舐められたとでも思っているのか、彼女の僕に向ける視線は冷たいものだった。


 そんな視線だってこれだけの美少女からだと思うと心地よかったりもするわけだけど。


 変な趣味に目覚めないようにしないとな……ただでさえ『アマゾネス』の奴らによってそっち系に調教されかかってたんだし。


「……うん、大丈夫。まあ僕にも考えがあるんだよ……それじゃ、いつでも始めていいよっ」


 そういう僕の前でストレッチのような準備運動を始める美少女。


 そんな姿も様になっている。


 あ、そういえば、せっかくだしさっき覚えた《ゾンビステータスアナリシス》でも使ってみるか。


 僕は彼女に向けて覚えたてのスキルを放ってみる。



「……《ゾンビステータスアナリシス》」





***********

名前:ルーナ・オリジン

種族:ハイヒューマンエンシェントノーブルゾンビ

称号:超S級ダンジョンの守護者

装備:堕ちた聖女の黒衣

LV:10241

HP:1252000/1252000

MP:7809200/7809200

攻撃力: 35082

防御力: 15024

魔攻力: 55920

魔防力: 18302

素早さ: 42086




スキル:

《ステータスアップ・ハイヒューマン》《ステータスアップ・エンシェントノーブルゾンビ》《神聖魔法無効》《闇魔法無効》《炎魔法無効》《物理攻撃半減》《魔法攻撃半減》《ダークフィスト》《ダークフレア》《ダークミスト》《ダークソウル》《ダークイレイズ》《アブソリュートガード》


***********






 へえ、ハイヒューマンのエンシェントノーブルゾンビねえ…………って、待て待て待て待てっっっっ!! この子のステータスやばぁっっ!!!


「では、いきますよっ!」

「ちょっ、まっ……」

「待ちませんっっ!!」


 僕の目の前には、既に握り固められた彼女の拳が迫っていたのだった。







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