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某国の姫の手記・魔王城での生活②(お昼時)

暮らしは②で締めるつもりでした。

長くなったんです。お昼時が。

時は過ぎて今は昼、一番お腹が空く時。勉学に没頭していた私の意識は、看守さんやほかの方によって牢が叩かれる音により引き戻されることが多々あります。えぇ、お察しの通り食事の催促です。皆様は捕虜に食事を作れと言うのはおかしいと思うでしょうが、私はもう慣れました。

彼らの要求通りに食堂に赴けば、件の料理長は簀巻きにしてそのあたりに捨てられていました。これもいつものことなので料理長をまたいで厨房に入って受け取り口に立った瞬間、小さな歓声が沸きました。お察しの通り、これは今日は料理長の無力化に成功しておいしい食事にありつけるという歓喜の声です。なお、料理長の無力化に失敗した日は比喩表現抜きでお通夜の空気感が流れ、いつも見える方のうち数人の姿が見えなくなります。四天王の方々とか、ジナジュールさんとか。

彼らの期待を一身に受けて厨房のスタッフたちに指示を出したり手を動かしたりして調理を行っていく。


「ホリョヒメサマーッ! スープできあがりましたーッ!」


「ありがとうございます、リークさん。でしたらエドさんのお手伝いをしてあげてください。時短と称してドラゴンブレス使って食材を消し炭にする前に」


「あいあいさーッ! エドォーッ、今回もドラゴンブレス禁止だってよーッ! 料理長の時とは違うからなァーッ!」


小柄なゴブリンのリークさんが、これまた小柄なワイバーンのエドさんにパタパタと指示を出していくのと入れ替わりにラミアのシルカさんが指示を仰ぎに私のもとに訪れました。彼女は花嫁修業の一環でこの厨房に2週間ほど前から勤めてくれている稀有な方だったりします。そちらの才は料理長のおかげであんまり伸びていませんけれど。


「ホリョヒメさま、ディグラントオニオンをみじん切りにしましたわ。次はどうすればよろしいので?」


「ありが…粉微塵ですね…?」


「あら、みじん切りってこういうことじゃないのですか?」


料理長ったらまた適当なことをと私は思わず眉間に指を当てる。その辺りに転がっている料理長は良くも悪くも栄養にしか目をやらない方で、 最終的に例のソースをかければ栄養補給としての食事が完成すると考え食感などははなから度外視し、結果魔王軍兵士たちをの空気感を通夜にしているのがという困った方なのです。その調理方針の伝播を放置していると、彼女のような大雑把な調理方法しか知らない方が徐々に増産されていき最終的には厨房が大惨事に発展することになってしまいます。初めてこの厨房に立った時はどれだけ苦労したことか…。またあんなことになる前に、災いの芽はここで摘んでおかければならないと感じた私は彼女にとある提案をしました。


「…よければ今度一緒にお勉強しませんか? 時間なら腐るほどある訳ですし」


「まぁ、よろしいのですか!? あぁ、助かりますわ!」


「うふふ、喜んでいただけて幸いです。あ、シルカさんはスープの盛り付けをお願いしますね」


「承知いたしましたわ、先生!」


ふんふん、と鼻歌交じりで上機嫌にスープの盛り付けに取り掛かるシルカさんを微笑ましく見つめ、そのほかのスタッフにどんどん指示をしていって食事を作りきる。

そうして。


「さぁ、皆様! 食事が出来上がりましたよ!」


私がそういうと、食堂からすさまじい量の歓声が上がりました。どうやら午前中の鍛錬が済んだ魔王軍の兵士たちがいつの間にか食堂に大挙していたらしかったです。いつも通りではあるものの、この光景には毎度少しだけ驚いてしまいます。けれど、本番はこれから。そう私が覚悟を決めた瞬間、ドドドという重い足音ともにカウンターに魔王軍の兵士たちが押し寄せてきました。


「ステーキ定食!」「オニオンスープセット!」「…水」「(書き起こせない声)」


「わーッ! いつも通り並べってーッ!」


「皆様落ち着いてくださいましーっ! 料理長の時はちゃんと並んでるじゃないですかー!」


リークさんとシルカさんの悲鳴が隣で聞こえるけれど、その時の私はというと。


「シルバさんアルトさんユークリッドさんオルトワールさんそれぞれステーキオニオン水焼肉承知しました! …あら、お水? まぁいいでしょう。はい、ただいま!」


一気に注文を処理し、どんどん盛り付けをして行列を捌いていました。後々他の方に話を聞いてみるとその時の私は四天王達にも勝るとも劣らない気迫を出していたそうです。…敵とはいえ、一騎当千の将に勝るとも劣らないと謳われるのはちょっとだけ気分がいいですね。


「オニオンスープセットとステーキ定食ゥ! 勇者に次こそ勝つために、まずは美味い飯は欠かせはせぬぞォ!」


「エビピラフ! …あれ!?違う日だった!? オニオンスー…品切れ!? もう!?クソ、なんでもう売り切れているんだい!?」


「くっ、料理が美味しい…。でも、私のほうが料理だって絶対上だわ! ちゃんと作れば絶対美味しいの作れるもの!」


…その比較対象がご飯狂いになっていることを除けば、ですけれど。

そんなこんなの激動の昼食時を終えると、今度は後片付けのターンとなりますが、こちらは数が多い以外は特に言うことはありません。強いて言うなら簀巻きにされて未だ解放されていない料理長が恨みがましい目でこちらを見ている、ということくらいです。…っていうか毎度怖いです。冗談抜きで呪われそうなのです。

食堂係なのは百歩譲っても良いとして、毎度それで呪われそうになるのは嫌です!

勇者様早く来て!

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