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某国の姫の手記・魔王城での生活①(午前の部)

ごきげんよう皆様、姫です。

本日も快晴(魔王城はいつも暗雲に包まれているので推測ですけれど)、本日は勇者様が宿で爆睡していることにより動きが無いらしいので魔王城での1日の過ごし方についてをここに記そうと思います。

ここ5年ですっかり馴染み、私室と言って等しい独房で目を覚まして外で控えている看守さんを呼ぶことから私の1日が始まります。看守さんに頼み込んで融通してもらった時計によれば、 大体朝6時ほど。これは王国に居た時からの習慣で、公務処理などに追われた結果生まれたものですね。

それから看守さんに頼んで外に出してもらい、厨房へと赴くのです。これについては2年ほど前からできた習慣ですが、自分の朝食ついでに5年6ヶ月という月日の末に仲良くなってしまった魔王軍の皆様にふるまうために(厨房の料理人の必死の懇願により50食限定で)調理しています。これが意外と好評なようで今朝ふるまった際にも、


「捕虜の姫サン、今日の焼き魚も旨かったぜェ! また明日もよろしく頼むよォ、頑張って早起きするからさァ!」


「くぁーッ、これこれーッ! っぱ姫サンの料理は力が漲るぜっ、これで今日の巡回業務も頑張れるぜぇーッ!」


「…オデ、コデ、スキ。ヒメサマ、オカワリ。…ダメ? ナラ、ガマン、スル」


「ほう、噂に聞いてはいたが中々美味だな。これが我が隊にあれば私も勇者相手に敗走などという無様を晒すことなど…。いやしかし美味いな…」


…とまぁこんな具合に好評でした。ちなみにうっかり寝坊してしまったとか、鍛錬に打ち込んでいたとか色んな理由で食べられなかった方々の反応はというと。


「ギャーッ! 姫サマモーニング売り切れてるーっ! クセェ飯ヤダーッ!」


「…これもまた、鍛錬…ッ! …はむっ、うぼえぇぇ…」


「ヒメサマモーニングを。…え、品切れ? いや私、仮にも四天王だし特別扱いで出してくれても…ルールは絶対? いやだから私、四天…なんですって!? 負け犬は魔界料理でも食ってろ!? ウワーッ、臭い苦い不味い料理もどきなんてわたしは絶対にイヤだァーッ!」


…御覧のとおり、阿鼻叫喚でした。料理人や食堂に居た兵士から話を聞くと、どうやら大変不器用なゴブリン料理長が問題らしくほかの料理人が普通に調理した料理したものに特製ソース(栄養は満点らしい)をかけて味を全部台無しにするらしいのです。私も調理許可を得るまでの3年間あの食事を口にしていましたが、魚とピーマンとイチゴと砂利と腐った牛乳をごった煮にしたようなとんでもない味で…うぅ、思い出すだけで吐き気が…。

…ところでこの件についてですが。人に仇なす魔物たちに利する行為をしてしまってよいのか、と思う方もいるでしょう。実際私もそう思わないこともないですからね。

ですが、なんだかんだでこの5年間6カ月もの間彼らにはよくしてもらっているのです。いくら人を傷つける魔物たちであれ、受けた恩を忘れるほど誇りを捨てたわけではありません。

それに、どれだけ人を傷つけたとしても最終的に勇者様には痛い目にあわされるのが目に見えていますから。それがいつなるかは皆目見当つきませんけれど。

さて、話を戻しましょう。朝食を摂った後には大体の場合とある方との一幕があるのです。今回はその一例を記すとしましょう。


「捕虜だって言ってるのに、相も変わらずお慕いされてるのねぇ? オ・ヒ・メ・サ・マ?」


「…ありがたいことに、そうなっていますね。ジナジュール親衛隊長様」


ジナジュール・エルロンデ。各地に派遣された四天王と同格という実力を持ち、魔王軍全体から見ても魔王に最も信頼されている兵士だと思われる、デーモンの血を引く女戦士。彼女はプライドが高く、人間の身たる私の存在を疎ましく思っていると公言して憚らなく、どうやら周りにも「自分はあの捕虜を嫌っている」というスタンスであることを喧伝しているらしいですが。


「まったく。捕虜の癖にとんでもなく親しまれてて素晴らしい求心力だこと、私の次に兵士諸君に慕われてるじゃない。しかもこの魔王城においてただの人間の癖に美貌を保ってる…どころか日に日に綺麗になっているじゃないの。いやまぁこのジナジュールには劣るけれど。劣るけれど!」


「…そうですね。私自身国に居た頃は両方ともあると自負していましたが、ジナジュール親衛隊長殿を見ているととても勝っているとはとても思えませんもの」


「んふふ、当然だわ。このジナジュールはあらゆる物事においてもっとも優れているもの! まぁ貴方も人間の割には大したものだとは思うわ。このジナジュールの次という枕詞がつくけれどね!」


…お分かりいただけたでしょうか。彼女、私を貶めるかとおもいきや私のことを美しいとしれっと褒めてくださっています。それに対して私が卑下した際には、あくまでも自分の方が上だというスタンスこそ崩さなかったけれど迂遠な言葉で「そんなことはない」と告げてくださっているのです。

というか、傍から見るとこれはむしろ仲が良く見えるのではないでしょうか。ここ数年顔を合わせる度に似たような会話を人目を気にせずしているからか、ジナジュール親衛隊長が私のことを嫌いという度に生暖かい視線がジナジュール親衛隊長に飛ぶのです。ちなみにそれが本人にばれたが最後、地獄の特別訓練が開幕します。

何故私がそんなことを知っているかというと一度だけ、


「毎回私に話しかけていただけるあたり、実は貴女は私のことそんな嫌いじゃないでしょう?」


と聞いてみたのです。そうしたらですね、


「…えぇ、嫌いじゃないわ。むしろ大好き! …だから、親睦を深めるために魔王城35週のロードランの後、それから模擬戦でもしましょうか」


…魔王城ロードランでデストラップを死ぬ気で掻い潜って35週を息を切らしてクリアの後、この親衛隊長に手加減抜きで殴りに殴られました。死ぬ程痛かったです。五発ほど強烈なのを叩き込んでやり返しましたけど、あの模擬戦で骨の一本くらいは逝ったと思います。捕虜なのに…。


と、こんな具合に対応を間違えれば大惨事になるジナジュール親衛隊長との一幕が過ぎた後、お昼まで私は勉学に勤しむことにしています。学ぶことは数あれど、ここ最近は特に力を入れているのが魔法ですね。上手いことやれば脱走できるのではないかと思われるやもしれませんが、やたらと緩い雰囲気が漂うこの城の名は魔王城。精鋭たちが揃う魔王軍の本拠地であるからして、仮に私が魔法を覚えたとて簡単に制圧出来るという腹積もりなのでしょうね。

それは間違いではありません。なぜなら今の私では看守さんにすらギリギリ勝てませんし。

それに、私自身魔法が完璧に使えたとしてもここで出来たとある目的を果たさなければ脱走する気はありませんもの。

待っていなさいなジナジュール・エルロンデ…! 褒めていただいたのは嬉しかったですが、それはそれとしてあのときの雪辱を晴らして差し上げますからね…!

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