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某国の姫の手記・始まりの章

やれることが多いと何となくはまっちゃってメインが進まないことがありますよね

 ごきげんよう皆様、私はとある国の姫です。暇なので日記を記すこととしました。

 突然ですが、ある日私は魔王に拉致されました。

 突然のことで何が起きたのかさっぱりわからず、気づけば魔王の乗る飛空艇の中に押し込められてしまいました。

 けれど、完全に連れ去られる前に私は昔身分を隠し何度か遊び、姫として身分を明かした後にも勇士として良くしてもらった彼に叫びました。

 『助けて』、と。

 連れ去られる間際、遠ざかっていく祖国で最後に見た「彼」…勇者様の瞳にはたしかに決意の炎が宿っているように見えたのです。

 拉致されて魔王の本拠地に連れて行かれる最中だったけれど、しかし私は恐れなかった。

 何故なら、彼ならば絶対に助けに来てくれるから!


 …そう思って、はや5年と2ヶ月の時が過ぎました。

 えぇ、私の居住地は未だ魔王城ですとも。

一年とは十二ヶ月であることは、ほんの4年と6ヶ月前に魔王軍の尖兵であるスライム(当然ながら人型ではない)とすら共通認識であることが発覚しています。

 なので、不覚にも拉致されてしまった身ながら私は思ってしまいました。


「…いくらなんでも救出遅くありませんこと?」


 いえ、過酷な旅だということは私とて重々承知しています。しています、が。

 城下町を出て最初の村から10分の川へ行くのに3日、挙げ句川で釣りするのに丸々2週間潰すのは話が違うでしょう?

 私一応拉致されていますのよ? 武力行使で押しかけてきた魔王軍に成す術無く拉致されていますのよ? 普通に考えて一刻の猶予もないとお考えにならないのかしら?

 万が一私にもしもの事があったら父様にどう説明なさるおつもりなのですか貴方は。釣りにハマっていたら姫様は姫様だったものにされてしまいました、とでも言い訳なさるおつもりで? 仮に私が父様の立場ならば極刑不可避ですよ間違いなく。

 お前は何を怒っているんだ、仮に村を出て10分の川で釣りに飽きるまでの日数はたかだか2週間と3日じゃないか、許してやれとお思いの方がもしもいらっしゃるならば、私はその思考を改めさせる義務があります。

 こちらの勇者様、父様に言われて旅に出る…前に何故か宿屋で一泊しているらしいのです。

 更には城下町を出て最短ルートで行けば1日足らずで最初の村に着く筈が、何故か色んな場所へ寄り道して魔物の殺戮行為や何故か色んなところへ無造作に置かれている宝箱を漁りまくった結果城下町から最初の村までに10日が過ぎているようなのです。

 ついでに最初の村でのトラブル(村人達の個人的なもの含む)を解決していった結果、最初の村での滞在時間はなんとたっぷり2週間とのこと。

 …えぇ、釣りに飽きるまでで累計1ヶ月と2週間が過ぎています。このペースで行けばそれはもう5年たった今でも魔王城に軟禁されもしますって。

 これらの情報は密偵から魔王軍本部に報告があり、そして私にはお喋りな看守さんが話してくださりました(これももう大分前のことですけど)。

 この看守さんは実は良い方だと思っておりまして、その理由の一つが私がこの魔王城に拉致された直後は魔物らしく、


『へへ…助けなんて来ねぇゾォ…! 大人しく魔王様の贄となるのを待ちなァ!』


 と仰っていたのが今では顔を合わせる度に、


『…今日も生きてるか。うん、まぁ…代わり映えのない日常だが、強く生きろよ』


 と私に労いの言葉を掛けてくれるようになったからです。

 もう一つの理由はといえば、この方に申し出れば私は監視付きとはいえ出歩くことが許されるからです。理由は独房篭もりは身体に堪えるだろう、とのことで3年と半年前に魔王から無理やり許可をぶん取って来てくださいました。ね? 多分この方良い方でしょう?

 この待遇について、お前は捕虜だろう、いくらなんでも緩すぎるとお思いの方々が一定数居るでしょう。実際私もそう思います。

 ですが仕方無いじゃないですか、拉致ってきて5年間魔王は未だに私に何もしないのですよ?

処刑や何かの儀式の生贄にすることはおろか、性行為でさえも、なんならまともに私と話すことすら無いのですよ?

 ここまで来ると、私やこの看守を始めとした末端の魔物達でさえもこう思うのも無理はありません。


 やたらとスローペースで冒険を進める勇者も勇者だが、5年という月日が流れてなお計画が全く進まない、というか進めようとすらしない魔王も魔王だ、と。

 末端がこう思っているということは、幹部たる四天王たちもそう思っているということでもあり、事実敗走した四天王二人の内一人は魔王への愚痴をこぼしているのを何度か見かけたことがあります。


『さっさと計画を進めないからこういうことになるのだ』


と。

 ちなみにその方は勇者様が到着するまで小国相手に侵略行為を行い膠着状態に陥っていました。軍勢的にも練度的にも圧倒的に魔王軍の方が上だったそうですけれど。

 その辺りはおいおい記していくものとして(もう大分前のことなのでちょっと怪しい部分もありますが)、とにかく魔王軍内部からも不満が出ているところはあるようですね。このまま自滅してくれれば話は早いのになぁとずっと思ってはいるのですが、こういった不満が出始めてからかれこれ2年近く経っているのでそちらは望み薄でしょうね。

 …あぁ、もう勇者様じゃなくてもいいから誰か助けてくれないかしら。というかもうこの際助けてくれなくてもいいから魔王城を永住の地にしようかしら。そんな事を考えながら、私は今日もすっかり慣れてしまった魔王城の牢獄のベッドで眠るのでした。


Nの月 M日目 拉致されて5年2か月 XX国 姫 ここに記す


本日の勇者様に関して受けた報告: 3人目の四天王の待つ国…の前に広がる草原の前で薬草と魔物狩り(とある村人の依頼らしいです)

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