第七話
更新が遅れて本当に申し訳ないです!!
魔晶石は希少で美しい石として有名だが、広く知られていない特別な点がある。それは、ブランシャの王族が持つ異能を溜められるという点だ。石に溜めた異能は限りはあるも、人を問わず自由自在に扱うことができる。
これは知る人ぞ知っていることだが、広く知られていない理由は、ブランシャの王族の身の危険を少しでも減らすためだ。
というのもおよそ百年前、新しく発掘された魔晶石のその特別な能力は、揉め事から紛争、紛争から多くの命を奪う戦争にまで発展した。争いの原因には、ブランシャの異能も少なからず関わっている。
国民の敵意が王家に向けられることを危惧したブランシャの王族は、偽の事実をでっち上げた。
『人々は、その月の欠片よりも美しい見た目に魅了され、その石を巡って争った』ーーと。そうして石に付けられた名前が、『魔晶石』。人を魅了する、まさに魔性の石だから。
このような経緯あって、現在では王家と公爵家が残った魔晶石を管理しているのだ。
(…昔は、こんな石ころなんかの為に、どうして人の命を削ってまで争うんだろうって思ってたけど…今ならわかる)
探知機を前に冷や汗をかきながら、リジェは無意識に首もとの魔晶石を触る。リジェがこの石を常に身に付けているのは、他でもなくその能力が必要だからだ。決してディランから貰ったからではない。
ブランシャの王族は代々異能を受け継いできた。様々な異能があり、複数受け継ぐ王族もいれば一つだけ受け継ぐ王族もいる。ブランシャの王族は皆異能を受け継ぎ、赤い瞳を持つのだ。
リジェの父ーー現国王は認識阻害の異能を受け継いでいため、リジェは魔晶石を通してその異能を利用している。
リジェは今初めて、魔晶石をつけていることを後悔した。元々、国王からも忠告を受けていたのだ。魔晶石を使うには危険も伴うと。
(まあブランシャの王族の気は特別だから、石が私の肌に触れている限り探知機が反応することはないだろうけど)
そんなことを思っている隙に、ディランは突然歩く速度を速め、近くを歩いていた通行人に話しかけた。
「金髪碧眼の美人で18くらいの穏やかな女性をこの近辺で見かけなかったか?」
いきなり早口かつタメ口で話しかけてきたディランに対し、通行人ーーそばかすにオレンジ髪の若い男は戸惑う様子を見せる。リジェは呆れた目つきで、その光景を見守る。
「えっと…そのような方は見かけていませんが…あちらの方は?」
若い男はそう言って、リジェを指差した。
ーーそうだった。いくら認識阻害の異能を使っていても、見た目の特徴は同じだったんだった。
言動の意味を理解したリジェは、否定するために口を紡ぐ。
「いや、私はーー」
「何を言っている。彼女とは似てもつかない」
リジェの言葉を、思わずというようにディランが遮る。偶然ディランの目に付き巻き込まれた哀れな若い男は、強く否定され肩を落とす。
「…あ、そうですか…」
リジェがディランに呆気に取られているそのうちに、若い男は居心地の悪そうに会釈をし、その場を後にしていった。
(に、似てもつかないぃぃ!? 全くバレてないのはよかったけど、あんたにそんな風に言われる筋合いはーー)
「どうした。腹でも下したか?」
いつの間にかリジェの正面に立っていたディランが、リジェの顔を覗き込みながらそう言う。
「…は。デリカシーのかけらもない。そんなんじゃ、例え王女が見つかってもあんたにはなびかないんじゃ?」
煽り文句を並べるリジェを前に、ディランはふ、と余裕の笑みを浮かべ、顎をわずかに持ち上げる。
「根拠のない戯れ言だな」
リジェは張り合うように、余裕の笑みを返す。
「根拠ならあるけど」
(まあ、本人だし)
「…ほう、言ってみろ」
当然本当のことを言うつもりがなかったリジェは、適当に話を取り繕うことにした。
「生憎魔女は秘密主義なもので、教える訳には」
どうだ、とリジェは勝ち誇った笑みを浮かべる。けれど、ディランは黙り込んだままリジェの顔をじっと見つめるだけだった。
想像とは違う反応を見せるディランに、訝しげに思い始めたころ、ディランがぼそっと呟いた。
「…ようやくお前になったな」
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