第六話
「なんで私が、こいつの護衛をやってるんだか‥」
肩を落とし、気だるそうにリジェが言う。背後で護衛をしているリジェが、そんな不満をこぼしている姿をディランは半眼で見やった。
「それは以前説明したはずだが」
現在キース町にて、リジェはディランの視察の護衛を強要されている。強要--と言えば語弊があるが、それがリジェにとっての認識だった。
「はいはい、あんたが第三王女を探していることは内密だから、急に薬師を雇ったとなれば怪しまれかねないんでしょ。そこで私を直属の護衛として側に置けば、怪しまれない」
「…一応俺の話は聞いていたようだな」
私をなんだと思っているのよーーとリジェは文句を言おうとするが、足を止めたディランの言葉に遮られる。
「それより、お前は言葉遣いを学んだほうがいい。雇い主への態度がなってない」
本気で心配しているような眼差しで見てくるディランに、リジェはイラついた口調で答える。
「あいにく私は両親以外に敬語を使わないの」
「なるほど、だから薬屋をやっていたわけだ」
顎に手をあてそう言うと、再びディランは歩を進めた。リジェもその後に続く。しかしリジェは内心、ディランの背中を睨みながら叫んでいた。
(こいつ…!! 人をイラつかせる天才なんじゃないの!? いや、天才って呼ぶのも癪に触る! ただのバカだね!! 薬屋の何が悪いわけ!?)
今すぐ声に出して叫んでしまいたいものを、一目を気にしてぐっと抑える。
(今騒ぎを起こしても、私が危うくなるだけ)
そう己に言い聞かせ、リジェは自分の首に掛かっている、チェーンに通した指輪をぎゅっと握った。
その後歩いて数分が経ち、リジェの怒りも収まった頃、ディランがあるものを内ポケットから取り出した。
「…それは?」
訝しげにリジェが尋ねると、ディランはあっさりと答える。
「探知機だ」
「…探知機? 何を探知する気?」
「魔晶石、とは知っているか?」
知っているも何も、割と有名な石だーーと、リジェは思う。魔晶石とは、もうこの世に3つしか残っていない、特別な石である。現在はカシアード公爵家とブランシャ王家が一個ずつ管理している。残りの一つは、叔母上が他国へ嫁ぐ際に無断で持ち去り、そのまま行方がわかっていない。
カシアード公爵が今更魔晶石を探す理由とは何だろうか、とリジェは思考を巡らせてみるが、結論には至らなかった。しかし公爵の性格を踏まえて考え始めると、それらしい理由をリジェは思いついた。
「まさかあんた、こんな町中で新しい魔晶石を発掘する気? 欲深いのかバカなのか」
「違う」
即答され、少しばかり自信があったリジェは舌打ちをする。そんなリジェをよそに、ディランは言う。
「彼女が持っているんだ。そして以前、この辺りで反応があった」
「あー、なるほど、彼女が………………は? え?」
「この探知機は、公爵家が管理していた魔晶石にしか反応しない。そして幸いにも、公爵家の家宝である魔晶石を俺は彼女に渡していたんだ」
内容が理解できず、リジェは目を点にする。
(彼女って私? 魔晶石? こいつから渡された? そういえば今私の首にかけているのも魔晶石…? ……!? やばっ、ずっと道具として使って来たから忘れてたけど、これって昔こいつから貰ったやつだったんだっけ…?)