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第五話

 「さて、これですべきことはわかったよな?」

 「…」


 足を組み、勝ち誇った笑みを浮かべるディランを、リジェは思いっきり睨む。


 (とりあえずは大人しく騎士についてきたけど、どう行動するべきかな)


 そう思考し、リジェはディランの執務室だと思われる部屋を見回す。牢獄じゃないだけマシかと思いながら、リジェは座っているソファーの上でふんぞり返った。


 「権力乱用もいいところね。私を呼び出すのに騎士まで使うなんて」


 リジェの口調が普段と違うことに気づいたのか、ディランが少し動揺したのを、リジェは見逃さなかった。そしてニンマリと口元を緩め、立ち上がりながら己のロープをとって見せる。


 金髪碧眼の美人。まさに王女の特徴と同じでも、ディランが気づく様子はない。それを横目に確認すると、リジェは高圧的な口調でディランに言葉を放つ。


 「残念ね、あんたの指示に従う気はさらさらないの」

 「…ほう? それはお高くとまっていることで」

 

 ディランの挑発的な態度にリジェはイラつくものの、そこで感情を露わにするのもしゃくに障るので、余裕を取り繕う。そんなリジェはつかつかとディランの座る席へ近寄り、バンッ、とディランの顔の横に手を突いた。


 「でも、私から提案はしてあげる。あんたに雇われてやってもいいよ」


 リジェは口に弧を描き、見下ろすようにディランを見つめる。するとディランは、ゆっくりと口を開いた。


 「…お前」

 (ん? 怒った?)


 ディランが怒りで追い出してくれることを望んでいたリジェは、内心期待する。しかしディランはリジェの期待とは裏腹に、面白そうに口元を緩めた。


 「さすがに、不敬ではないか?」

 (こいつ…完全に楽しんでやがる)


 心の中で舌打ちをするも顔には出さず、リジェは言葉を返す。


 「そんなもの一々気にしていたら、一生私を雇えないと思うけど?」


 それもそうだな、と言いながら、ディランは数枚の書類を引き出しから取り出し、リジェに見せつけるように持つ。


 「では契約しようか?」


 勝ち誇った笑みを崩さないディランに反発心を抱き、契約時にとんでもない条件をリジェが突きつけるのは、これより少し後のことだった。


 そして悩む素振りも見せず条件を受け入れるディランに、リジェは更に反発心を募らせることになる。


 ◇◇◇


 「リジェ様」

 「……」


 サーシャに責めるように名前を呼ばれ、リジェは目を逸らす。しかしサーシャの視線の圧に耐えかね、肩をひょいっと竦めた。


 「……はいはい、私が悪かった。これでいいでしょ?」


 当たり前のように悪びれず、来賓室のベッドの上に乗っかるリジェにサーシャは小さく息をつく。そんなサーシャに納得がいかないリジェは、ぶつぶつと言葉をこぼした。


 「そもそもあいつが失礼だったから私もそれを返したわけで、元はといえば大半があいつのせいなのよ。それに結果として公爵家から大金を巻き上げられたんだし、近くで公爵の監視もできる。あいつは何もかも怪しすぎるから丁度よかったじゃない。むしろ万々歳ーー」

 「カシアード公爵の潔白は既に国王陛下が証明されていますが」

 「…」


 無念が滲むリジェの視線を冷たく受け流し、サーシャは続ける。


 「なによりも、カシアード公爵の想い人はあなた様です。今は国王陛下の認識阻害の異能のおかげで気づかれていませんが、いつ限界が来るかわかりません」


 つらつらと説教を並べるサーシャに、リジェは顔をしかめる。


 「想い人と言っても、どうせ私の容姿とか優しさに惚れたんでしょ。上辺の私しか見てない奴が私の正体に気づけるとは思えないけど」


 当時、三人の王女の中でも一番評判が良かったのは、第三王女であるリジェだった。第一王女は『責任感があるが男勝り』。第二王女は『顔が広いが毒舌』。第三王女は『優しくて綺麗』として貴族と国民の間では有名であり、当然ながら、リジェに好感を持つ年の近い貴族の子息は数多に存在した。


 (当時のことはあんまり覚えてないけど、王女としての私があいつ(カシアード公爵)に会ったのは多分過去に一度だけ。しかもその当時私は五歳、あいつが十歳の時だったはず。…うえっ、考えただけでも吐き気がする)


 寒気に腕をさすりながら、リジェはこれから続くであろう長い説教に、遠い目をしたのだった。

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