第四話
『今すぐ私の店から出ていきなさい!! この変態ロリコンが!!』
そう言ってディランを店から追い出したのが昨日のこと、リジェは少しも後悔していなかった。
「つまり、ただの平民だと思われているリジェ様が公爵に暴言を吐いただけでは飽きたらず、店から強引に追い出したのですか?」
「そうだけど」
サーシャが呆れ顔で、全く悪びれずに答えるリジェを見つめる。
「目を付けられたらどうするのですか」
「どうにかなるでしょ」
不安そうな表情を浮かべるサーシャを尻目に、リジェは勢い良くカウンターに突っ伏した。
「はぁぁぁ、暇すぎる。昨日のことが印象的すぎて、全てが暇。これも全部あのディランとかいうロリコン公爵のせいだ」
あの時も感じたけど、ほんと気に入らない。私の正体なんて、誰が教えるもんかーーそう一人ごちりながら、後ろで気配を消して立っているサーシャに尋ねる。
「サーシャ、知ってたんでしょ? 公爵が私のことを今でも探していることも、この町に来ていたことも。だからあの時私を引き止めた。どうせ父上の命令だろうけど」
「…」
サーシャは口を噤む。その沈黙をリジェは肯定と取ることにし、不満顔でぶつぶつと続ける。
「まったく。いつも仏頂面なくせに、なんで変に過保護なの? サーシャも真面目に命令に従ってないで、教えてくれたって良かったのに」
まあ、無理もないかーーそう思いながら、リジェはサーシャをジッと観察する。
(なんせ、『影』の団長だしね)
ブランシャ王家の秘密部隊『影』の団長、サーシャ。貧民街でかろうじて生きていた彼女は六歳で運良く、まだ王女として暮らしていたリジェに拾われ、今では才能を開花させ大出世した。そんな過去を持つサーシャはとりわけリジェと王室への忠誠心が高く、リジェも信頼している。
(けど今みたいに、何も教えてくれないのが問題よ。情報を知りすぎてしまう私に対する、サーシャなりの配慮なんだろうけど)
そんなことを考えていたその時、チリンと、ドアについているベルが鳴る。
「いらっしゃーー……!?」
ドアを見たリジェは、思わぬ光景に目を見開いた。
(騎士が何でここに…なるほど。鎧が黒いとなると、カシアード公爵家の騎士か。にしても、こんなに数がいるのにサーシャが気づかないはずが…)
リジェは先程までサーシャがいた場所に振り返る。が、そこにサーシャの姿はない。
(…この人数相手じゃ、とりあえず身を隠すのが得策だと判断したのね。はあ、敵意はないようだけど…)
数人の騎士を連れ、先頭にいる一人の男が手に持っている巻物を取り出す。
「魔女リジェに告ぐ。公爵様の命により、そなたをカシアード公爵の専属騎士に命ずる」
「………」
数秒の時間を要してようやく男の言葉の内容を理解したリジェは、カウンターを思い切り殴り、心の中で叫ぶ。
(あのクソロリコン!! ほんと頭おかしいんじゃないの!?)
その様子を影からこっそり見ていたサーシャが、言わんこっちゃない、とリジェを呆れて見つめていたことを、リジェは知らない。
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