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プロローグ

新連載です!!

 ――私は魔女、と呼ばれている。


 (秘密が多くて不思議な薬を売っているような女なんだから、自分でもそう呼ばれるのは納得してるし、不満はない。それに魔女って聞こえは悪いけど、この呼び名は結構気に入ってる。だって、魔女って呼ばれるってことは、それがなんであれ、そう呼ばれるだけの力があるってことでしょ? ……でもね、それはそれ、これはこれなのよ)


 リジェは内心顔をしかめ、両耳を塞いでしまいたい衝動にかられながら、後ろに立っている男を睨みつけた。


 幸か不幸か、リジェはローブで顔を隠しており、男はそのある人物(・・・・)のことを考えていたのか、男がリゼが睨んでいることに気づくことはなかった。


 そして、そんなリジェの心情はつゆ知らず、男は淡々とした口調で飽きもせずに続けた。


 「彼女は誰もが見惚れるほど端麗な外見を持つだけでなく、天使かと思うほどに心優しい、純粋で愛らしさも持ち合わせるまさに完璧な方だ。きっと18歳になった今でもそれは変わっていないだろう」


 誰がその『天使かと思うほどに心優しい』と表現された人物が、今男を憎しげに睨んでいる本人だと思おうか。リジェは口を引きつらせながらも、なんとか平静を装う。


 「……えー、整った外見に、優しい18歳の女ね。どこにでもいる」


 ああ、耳が腐る…私ってばなんでこんな事してんだろ――と、リジェは棚に並べてある薬を整理しながら思う。その次の瞬間、どういうわけか、リジェはこれまでにないほどの殺意を感じ取った。


 リジェは何度も命を狙われた経験があるが、ここまでの殺気を放つ人と対面するのは初めてであり、本能的に身構える。

 

 「…お前、何様のつもりだ? 不敬にもほどがある。殺されたくないならば口を慎め」


 ドンッ、とカウンターを叩き、呑気に棚の薬を整理しているリジェの背中を睨む男は、今にも殺しにかかりそうである。しかし、そんなことで臆するリジェではない。


 (いや、私がそんなに失礼なこと言ったわけ…? そもそも、どうして私は自分を貶したことで殺されそうになっているのよ…)


 「…へえ、そう。恩返しと言ってここを訪れた人が、その恩人を殺そうとするなんて。王女もあんたから逃げて正解だね」

 「…本当に殺されたいようだな。俺がお前を殺せないとでも?」


 臆すことなく平然と言い返すリジェに対し、男はギリッと歯ぎしりをする。それと同時に、カチャッという音が響く。その音を横目で確認したリジェの目には、件の柄に手をかけた男が映っていた。


 そして、とても冗談には見えない様子を見てもなお、リジェは薬の整理をしている手を止めなかった。


 はっ、私を殺す? 出来るものならやってみなさいよ――と悪態を付きたいところを、リジェは己のためにもかろうじて我慢した。


 断固として動じないリジェを見て、男はチッと納得がいかないような顔で舌打ちすると、剣から手を離し、煽るように言う。


 「やはり魔女だから感情もないのか」

 「……は?」


 その瞬間、リジェの頭の中で、何かがぷつりと切れた。何がとは、言わずもがな。


 (私は魔女だけど、そう呼ばれるだけの力もあるけど…! 魔女だからって、人の心がないわけじゃないんだから!! 何が楽しくて自分の惚気を、しかもよく知らない男から聞かないといけないわけ!?)


 「今すぐ私の店から出ていきなさい!! この変態ロリコンが!!」


 ――…一週間前


 「お姉さんお姉さん、お姉さんは魔女なの?」

 「なの?」


 天気の良い平日の午後。日常通りリジェは鼻歌を歌いながら店に並べる薬を調薬していると、店を訪れていた主婦の連れ、五歳頃の女の子の双子たちが興味津々な様子でそんなことを聞いた。


 リジェは可愛らしい双子を微笑ましい思いで薬を作る手を止めると、カウンターに頬杖をついた。


 「どうしてそう思うのかな? おチビちゃんたち」


 おチビちゃんと呼ばれたのが気に入らなかったのか、双子はぷぅと頬を膨らまし、同時にそっぽを向く。


 (そっくりだなぁ)


 内心、そう呟きながら双子を見守っていると、双子の内の一人が口を開いた。


 「だって、みんながお姉さんのこと魔女だって言ってたんだもん」

 「もん!」

 「…へぇ」


 みんなが、か。そろそろ潮時かもしれないな――そう思いながら、リジェは双子の期待通り、魔女らしくニィと口角を上げた。


 「じゃあ、私は悪い魔女に見える? それとも良い魔女に見える?」


 双子は、想定外の質問だとばかりに二人で顔を見合わせる。そして、リジェをちらちら見ながらこそこそ話を始めた。

 

 「んー、なんか、思ってたのと違うねー」

 「ねー」

 「いじわるだけど、お母さんのほうがこわいよ」

 「うん。お母さんすごくこわい」


 こくりと頷きながらお互いの意見に納得すると、双子は再度リジェに向き直り、キラキラと目を輝かせた。


 「お姉さんはお弟子さんなんだね!」

 「…うん?」


 こっそり盗み聞きをし全ての会話を聞いていたリジェだが、予想外の突飛な言動に不意をつかれ思わず顔を手からずり落ちらせると、目を丸くする。


 「お姉さんはお母さんのお弟子さんだったんだ!」

 「そうだそうだー!」


 興奮した様子でカウンターの反対側にいるリジェに向かって乗り出す双子に、リジェは思わず吹き出す。


 「ぷはっ、あははっ…やるねえ君たち、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。ああそうだ、少し待ってて」

 

 いきなり笑い出したリジェに双子は首を傾げるが、リジェは気にせず後ろを振り返り、棚の前に立った。


 「確かここに…」


 ごそごそ一番下の棚の瓶を漁り始めると、「あった」と上機嫌でつぶやき、一つの瓶を手に取る。瓶の蓋を開けると、リジェは青色の飴玉を二つ取り出すと、瓶を元の場所に戻す。


 そして、リジェはリジェのその行動を不思議そうに見ていた双子の前に屈み、視線を合わせた。


 「残念だけど、私はあなた達のお母さんの弟子じゃないよ」

 「えー、なんでー?」

 「なんでー?」


 リジェは不満そうに口を尖らせる双子に、しょうがないなぁと眉を下げ、「でも!」と一声を上げる。


 「笑わせてくれたお礼にご褒美をあげるよ。ほら、手を出してごらん」


 双子は少し警戒するようにじっとリジェを見つめたが、ご褒美という言葉に心を惹かれたのか、大人しく従った。

 リジェは差し出された二人の手の上に飴玉を一つずつ乗せ、ニッと笑う。


 「はい、魔法の飴玉だよ。これを食べたら、一年間はどんな病気にもかからない」


 魔法の飴玉、と聞き、双子はぱっと顔を上げた。


 「わぁぁ! 本当に魔女だったんだ!」

 「本当だった!」


 ワクワクした様子で飴玉を観察し、パクリと口の中に飴玉を放り込む。それと同時に、女性の声がリジェを呼んだ。


 「リジェさん、お会計を…あら? あなたたち、リジェさんと話していたの?」


 その女性の存在に気がつくと、双子はすぐに女性のもとに駆け寄り、興奮気味に話しかける。


 「おかあさん! きいてきいて! お姉さんは本当に魔女なんだって!!」

 「魔法のあめももらったの!」


 双子の話を聞き、双子に母と呼ばれた女性――主婦は、「まあ」と声を上げ、リジェに向かって軽く頭を下げる。


 「ありがとうございます、娘たちがお世話になってしまって…」

 「いいよ、私が好きでやっただけだから」


 リジェが気にするなと手をふれば、主婦は何を思ったのか、不思議そうな面持ちになりながら、手に持っていたかごをリジェに渡す。


 「やっぱり、なぜリジェさんが魔女と呼ばれているのか理解できませんね」

 「…ハハ」


 (…あながち間違ってはいないからね)


 すると、会話が途切れたところで、双子が待ってましたと言わんばかりの勢いでよく喋り始める。


 「おかあさん、ほんとーなんだよ! このあめも本物の魔法のあめだよ! だって、お姉さんがくれた魔法のあめはおかあさんがくれるあめよりもあまいもん!」

 「あまいもん!」


 口を開けて証明しようとしている双子の頭を、主婦はなだめるように撫でる。


 「はいはい、そうね。ちゃんとリジェさんにありがとうを言ったの?」

 「ありがとー!」


 双子が、声を揃えてお礼を言う。


 「どういたしまして。…はい、合計2ゴールドと1シルバー。毎度あり」

 「魔女さんバイバーイ!」

 「バイバーイ!」

 「また来るんだよー」

 

 双子と主婦が見えなくなるまで手を振り、リジェはまた新しい薬を調薬し始める。


 (ただであの飴をあげたことを知られたら、後でサーシャに怒られるだろうな)


 当然、サーシャの怒った姿を予想するリジェの思考に、後に起こる出来事の心配などは一切なかった。

読んでくださりありがとうございます。ブックマーク、評価、感想をくださると嬉しいです。

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