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緋奈と雛と、君の刃  作者: 夏川はち
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彼女について

 彼女に近づいた者は殺される。

 そんな噂を聞いたのは始業式の直後、校内に植えられた桜の花が散っていく様を見上げている最中のことだった。誰が発端なのかは知らない。けれど、その話を僕が耳にする頃には同級生のほとんどに広まっていて、恐ろしい女生徒がいたものだと感心した。

 この噂の中身はというと、中学生の頃に彼女に告白した、あるいはちょっかいを出した者の大多数が行方不明となり、そのうちの何名かは死体となって発見されたとかなんとか。そんな、いつも通りの与太話だった。


「おい、聞いたか?」


 朝、教室へ入るとまず聞こえてくるその一言。声の主であるクラスメートの星野はいつも、彼女に関する話題を僕の元へ持ち込んでくる役割を担っていた。

 そして僕は、早くホームルームにならないものかと内心でため息をつきながら投げやりに聞き返すことを日課としていた。


「なにを」


 星野は窓際最前列の席に腰を下ろす彼女に視線を向けると、僕の耳元へ顔を寄せてくる。


「あいつ、来月にドイツの軍人と結婚するらしいぞ……あと、殺人症候群とかいう病気らしい」

「ああ、そう」


 また彼女の話か。『殺される噂』から僅か三日である。彼女の噂は頻繁に聞くが、ここまで間髪入れず耳にするのは珍しい。先月は確か……アメリカの大富豪の息子と結婚するという話だった。


「そんなふうに流せる男はおまえくらいだよ九堂(くどう)


 確かに、星野の言うように彼女に興味を持たない男子生徒は見かけない。彼女はそれほどに有名人で、数多の噂を風のように着こなしている。これまでに囁かれてきた根拠のない噂話は数知れず、入学してからの一年間、彼女の話題は尽きることがなかった。

 すでに成人しているとか、日本人とどっかの国のハーフであるとか、小学生の頃に町の不良をばったばったと薙ぎ倒したとか……そういうのは、かわいいほうである。

 主に彼女を取り巻いているのは、悪い噂だ。それこそ人殺しであるとか、性行為の回数が数え切れないとか、夜な夜な男を誘惑しに町を徘徊しているとか……実は男で、去勢しているなんていう話もあった。まあ、事実かどうかは誰も知らないが。

 ついでに言うと、入学式の翌日から『聞いたか?』の嵐だった。常軌を逸した数の噂だ。

 とにかく。彼女のことを知らぬ生徒は、おそらく一人もいない。そんな存在だった。

 彼女の名は、久森緋奈(ひさもりひな)。今日も今日とて、彼女の風は絶えない。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。

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