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異世界『アンチ』チート  作者: hkn
第1章 弱くてニューゲーム
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NEW GAME

車に轢かれててっきり死んだと思ったところに光明が差してきた俺は、喜びながら目を開いたのだ。


さて、ここからはあまりに長いクセに進展のない話をしなくてはならないので、現在に至るまでの話をかいつまんでいこうと思う。


この時俺の目はろくにものを見ることができなかった、耳も遠くなっていて、事故の後遺症だと思った。

世界はぼやけて白黒に見え、体はうまくうごかない。

ひどく絶望しながらも、その現実を受け入れることができなかった俺は、なんとか少しずつでもリハビリのためにと手足をぎこちなくとも動かす練習を繰り返した。

耳はよく聞こえないが、周りの人間の声があわただしいように聞こえた。


そしてその日のうちに重要な要素に気づいた。

誰かが俺を抱き上げた、かなりの勢いで抱き上げられた。

それも抱き上げられたときの感触からするに、両腕で抱えられている。


とんでもなく妙だ、背中にまわる腕が異常にでかい、俺は成人男性で身長は平均的な値なのに、そんな大きい腕なんて存在するわけがない。

頭を抱えられている腕の感触と自分の首の動きも違和感がある、首にろくな力がかからないのだが、これはもしかしたら事故の後遺症なのかもしれない、しかし、頭の裏に回った腕の感触も異常に大きく感じた。

この時俺は結論を出さなかったが、それも数か月経つまでの間に確信を得ていった。


そう、数か月後には自分の視力は加速的に回復していった。

とは言えど、まだ目はぼやけているのだが、耳も最初よりよほど聞こえるようになっていた。

自分が抱き上げられるときの感触、触られたときの相手の手の大きさ、自分の声、そして何より与えられる食事。


まったく信じられない話だが、俺は赤子になっていた。


赤子というのは生まれてすぐは視力も聴力も非常に弱い、てっきり後遺症だと思い込んでいたんだが、回復していく視界の中で確証を得た。

最初はぼやけたものが見えていただけだが、それが顔だと気づくまではそれほどかからなかった。

自分の扱われ方、かけられる声のトーン、食事に与えられているのは母乳だ。


非現実的すぎる、信じられる訳もないが、信じざるを得ない事だ。

生まれ変わり?前世来世だとか意味不明すぎるものを信じることがすぐにはできなかった。

しかし、信じる信じないに関わらず、現状そう考える以外にないのだ、もっとも高い確率で考えられることがそれだ。


そしてそこからさらに数か月、自分の知識から察するに6ヶ月ほどたった頃だと思われる。

数メートルほど離れたところまで比較的しっかり見えるようになっていた、自分の周りの人間の表情もわかるし、耳もほぼちゃんと聞こえると言って過言ではない。

体を動かすのはできるだけ常に行っていたからか、思い通りに動かせるようになっていた。

とはいっても赤子の活動能力しかなかったが。


俺はこの時点まででいろいろな仮説を立てていた。


自分の手を見たとき、見慣れた自分の手ではなかった。

どうみても赤子の手だった、小さくて指も短いのだ、もう自分が赤子になってしまったということだけは確定だった。

生まれ変わりの肉体であることが確定したところで、次のステップへと移行するべきだ。


俺がこの体になってから得た情報で重要な情報がある。

一つ目は視覚、肉体の成長と共に良くなっていく視界に入るものは妙だった。

自分の面倒を見てくれている人は主に二人いる、一人はおそらく母親だ、長くて綺麗な金色の髪をしていて、その顔立ちはよく整っている。

妙なのは親の目と服だ、母親の目は緑色をしていた、服も見慣れない布の衣装を着ている。

服に使われている布の網み目はやや粗く、おそらく機械を使って作られた布ではない。

もう一人は乳母だろうか、母親のいない時に面倒を見てくれている人なのだが、この人に至っては髪の色が赤だ、その目は深みのあるオレンジ色をしている。


やや難しい話をするが、人間の瞳の色は遺伝子で決まる。

メラニン色素と「レイリー散乱」という二つの要素でブラウン・イエロー・ブルーの三つに色が分かれるのだ。

だが、母親の瞳の色はあまりに度を越えた緑色をしている、乳母の瞳もイエローやらブラウンでは説明がつかない程にはっきりとした発色だ。

頭髪もメラニン色素で色が決まる、母親の金髪は違和感のあるものではないが、乳母の髪の赤色は異常だ、あの「赤毛のアン」だって茶髪の延長線上だというのに、まるでマニパニで髪染めたのか?と思うほどの赤色だ。

他には父親と思われる男がいるが、彼は白髪に青い目をしている、たまに乳母に連れてこられてくる娘は乳母に似たワインレッドの髪をしている。


だが、ここまでの要素ならばまだ、ギリギリ説明がつかないでもないと言える、とは言ってもかなり厳しい言い訳のような説明になるのだが……。


そこさらに追い打ちをかけるのは二つ目の聴覚だ、聞こえてくる言語が知らない言語だ。

まず最低でも日本語ではない、いくらはっきりと聞き取れなくとも日本語ではないのはわかる。

英語やロシア語でもない言語だ、自分の知っている言語じゃない。


俺が立てた仮説は、一つ目が「ここは時代が進み、何等かの理由で文明が後退した世界、あるいはそういう地域」だ。

この仮説がもし正しければ、戦争や病気、または予想がつかない何かしらの理由で文明が大きく後退してしまったと考えられる。

根拠は服装や建物に使われている建材だ、服装は現代的ではないし、木造建築な上に家具までその多くが木製だからだ。

彼らの髪の毛や目の色も、人間の進化の過程で髪色や瞳の色にも幅が出たのかもしれない。


二つ目は「ここは自分の知っている世界とは違う世界」という仮説だ。

仮説を立てておいてなんだが、あり得ない仮説だと思う。

しかし現に俺は生まれ変わって赤子になっている、その時点で十分にあり得ない現象が起きているのだから、この仮説が真実である可能性は0パーセントとも言えない、やや思考放棄ぎみだが。


いずれの結論であれ、これからここで生きていくうえで必要になるのは「言語」だ、会話が成り立たなければもうどうにもならない。

ぼんやりした音ながらも周りの人の声をよく聴くようにして、はやく言語を理解する必要があるだろう。

この時点で俺は「言語」の習得を開始した。


時は飛んでさらに数か月、視力と聴覚と自分の運動能力から察するに10ヶ月から1年程度だろうか。

俺は既にいくつかの単語を覚え、つかまり立ちにチャレンジしていた。

親に行動範囲を決められていたので柵の中でしか活動できなかったが、ゼロからスタートした赤ちゃんが自然に成長していくのと違って、俺は前世の記憶があるので早期から体を動かしていた、早くまともに歩くことができるようになって、色々な情報を集めるためだ。


何ヶ月か前の事だが、両親は一生懸命に俺に話かけてくるようになった、もちろんずいぶん前から話かけはされていたが、特定の単語が頻出するようになった。

俺に子育ての経験はないが、この行為が「パパ!パパって言ってごらん!」「ほらママだよ、マ~マ」と催促されているのはわかる、俺はうまく回らない呂律で復唱を繰り返し、あるとき上手く発音できた時に両親が大喜びしていた、ふたりが顔を見合わせて喜んでいる姿は微笑ましかった。


乳母は赤髪の娘を連れてきて、俺を構うように言い聞かせて子供用の柵で囲まれた場所に俺とその娘を入れて置くようになった。

娘はおそらく3歳か4歳くらいで、走ったり運動したがる年頃のようだった。

せいぜい短距離しか歩けず、基本つかまり立ちの俺と一緒に遊ぶには運動能力があまりに合わないようだったが、この子なりに面倒を見ようとしてくれているのは分かった、手を取って一緒に歩いたり、一方的だが話しかけてくれたりした。


そこからさらに時が経った現在のことだ。


俺が生まれた時は外の景色が真っ白だったので冬生まれだろう、この冬は3度目だ、俺はだいたい2歳ほどになった。

必死になってみんなの会話を聞いていた俺は、既に日常会話の単語はほぼ理解し、文章もちゃんと構成できるようになった。

人の名前も覚えたし、周りの人と会話できるようになると、得られる情報も格段に跳ね上がった。


俺の名前はアルカ、父親はクラントールで母親がフィアだ。

あの赤髪の乳母はカーナで、俺をよく構ってくれた乳母の娘がリナというらしい。


成長して既に歩き回れるようになったし、目も耳もかなり鮮明になった。

食事は既に大人と同じ内容の物を食べている、もちろん食べやすいように小さく切られ柔らかくなったものを食べているが、やはり母乳と普通の食事では栄養が段違いだ、出来る限りたくさん食べて早く大きくなるのだ。


既に子供用の柵は取っ払われており、活動範囲は家の中全域になった。

運動能力は日に日に増している、いまだに家の外には出してくれないが、はやく外に出て運動をしてもっと体力を増強するのが現在の目標だ。

本当は文字も勉強したいところだったのだが、この家には本のような文字が書いてあるものがないので現在は諦めた。


今日も俺は一日家の中を歩きまわり、自分の知らない物を探してうろうろし続けた。

子供部屋のベッドをよじ登ったり椅子によじ登ったりして、体力増強に励んでいる。

そうしているうちに窓の外が暗くなってきた、父親のクラントールは日が沈むまで外にいるようで、まだ外から帰ってこない。


「お母さん、お腹がすいた」


俺は毎日一日通して室内で運動をするので、毎日物凄い眠気に襲われて気絶するように眠るし、父親が帰ってくるまで夕食はないのだが、その前にお腹がすいてしまうのだ。

リビングの椅子に座って絵を描いている母親のフィアは、絵筆を目の前の机に置いてこちらに向き直る。


「もうお腹がすいたの?アルカはたくさん歩き回るから、お腹が空くのが早いのよ」


やさしい微笑みを浮かべながらそう返事をするフィアは、絵の具のついた手を布巾で拭く。

フィアは絵を描く仕事をしている、描き終わった絵を見せて貰ったことがあるが、絵の腕はかなり高いようだ。

自分の知っている絵の具とは違うようで、キャンバスの作りは布張りの木枠でよく知っている物なのだが、描かれた絵は光の当たり方で小さくキラキラして見える、まるでラメ入りの絵の具を使っているようだ。

フィアの描いた絵は出来上がり次第、父親が朝出かけるときに普段の荷物と共に持って行き、売って代金を持ち帰ってくる。


「お父さんはいつ帰ってくるの?」

「そうね、今日もたぶん日暮れ頃だと思うわよ。それまで我慢できそうかしら?」

「う~ん……」


我慢できないわけではない、いくら子供とはいえ中身は大の大人だ、お腹が空いたぐらいで駄々をこねる訳にはいかない。

だがお腹は相当すいている、日暮れまで待つのも辛い。

そういう時には決まって、とても小さなクッキーのようなものを少しだけくれるのだ。


「我慢できそうもないのね?しょうがないんだから」


フフッ、と小さく笑いながらフィアは立ち上がった。

一緒に隣の部屋の台所まで行き、俺では届かない高さの棚の上にあるお菓子をひとつだけくれた。


ほんのり甘い味がする干された実の入ったクッキーもどきは、そんなわけで俺のライフラインなのだ。

このクッキーもどきに入っている実の名前を知りたかったのだが、聞き覚えのない名前の実だった。

甘みの強いレーズンのような感じだ、糖分は疲労回復にピッタリなのだ。



たった一個の貴重なクッキーもどきをチマチマと食べていると、玄関のほうから物音がした。

まだ日暮れにはやや早いのだが、たぶん父親が帰ってきたのだろう。

クッキーもどきをほおばりながら玄関を見に行くと、中途半端に開いたドアからクラントールが顔を出していた。


「お!アルカ!ちょっと母さんを呼んできてくれ……い、急いでくれると嬉しいぞ、父さん重たい物担いでるから……」


よく見るとやや汗ばんだ顔をしている父親の後ろには、何か見慣れない陶器のようななにかがチラリと見えた。


「わかった、いま呼んでくる!」


短い足に出せる最大速度で走り、台所で夕飯の準備をしているフィアを呼びに行く。

台所でトントンと野菜を刻んでいるフィアに「お父さんが玄関まで来てって行ってる、重たい物を持ってきたって言ってた」と伝えると、フィアは一瞬表情を強張らせた、すぐに取り繕うように俺の頭を撫でながら微笑んだ。


「ありがとうアルカ、お父さんとお話があるから、お部屋で良い子にして待っててね」


玄関まで慌てるように駆けていく母親の背中に、生まれ変わってからいままでの間に感じた事のない不安を感じた。

アルカくんは前世の世界では「疑問に思ったことを放置できない性格」だったので、マンガやゲームのような創作物にも現実的な根拠を出来る限り求めて調べる人だったみたいです。


赤ちゃんの視力や聴力は、生まれたてのころはすごく低くて、成長とともに成熟してくらしいですよ。

視力は生まれてすぐは低くて、視力の向上と共に赤色の波長のものから色を認識できるようになるみたいです。


アルカくんも「異世界転生して赤子になったのに、すぐにものがちゃんと見えてる状態が変」って思って調べたことがあるみたいです……。

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