⭕ トイレで、かくれんぼ 2
「 ………………だ…誰…なの?
花子さん…?? 」
「 花子さんじゃないよ。
2年3組、出席番号19番、トヨガ アリコ。
同級生でクラスメイトですけど〜〜。
ツユキ ミサヨさん 」
「 トヨガさん……?
本当に?? 」
「 そうだよ。
明日の朝まで1人で個室に居るつもりなら、アタシは1人で帰るけど? 」
「 ──待って!
いか…行かないで!!
今直ぐ出るから! 」
個室の鍵を外した私は個室のドアを開けた。
怖いけど声の主を信じて個室から出ると、確かにクラスメイトのトヨガ アリコさんが居た。
「 …………本当にトヨガさんだった……。
良かったぁ〜〜〜。
ドアがノックされたから花子さんに見付かったのかと思っちゃった…… 」
「 この旧校舎に花子さんなんて居ないから 」
「 えっ……そうなの? 」
「 日本中に何れだけ旧校舎が現存してると思ってるの?
旧校舎の女子トイレに花子さんが居たら、日本中が花子さんだらけになっちゃうじゃない 」
「 あ……そう言われてみれば……。
でも、トイレで繋がってる──って言われない? 」
「 ツユキさん…、それ本気で思ってる?
旧校舎のトイレは全部ボットンベンだよ。
繋がってるわけないじゃない。
ちゃんと現実を見ようよ 」
「 そ……そうなんだ… 」
「 早く出よ。
長い間使われてなくても臭いし 」
「 そ……そうだよね…。
トヨガさん…来てくれて有り難う…。
…………アライさん達は帰っちゃったのね…… 」
「 7人が笑いながら楽しそうに旧校舎から出てくのが見えたから、もしかしたら──って思ってね 」
「 そうなんだ…。
私…騙されちゃったのかな… 」
「 かもね。
明日から夏休みだってのに、最後の最後に嫌がらせされるなんて、気に入られてるよね 」
「 アライさん達に気に入られても嬉しくないんだけど… 」
「 確かにね。
でも、心配しなくていいんじゃないかな。
2学期に会えるか分からないし 」
「 どういう事? 」
「 旧校舎って空気が澱んでるか怪奇が起き易い場所なのね。
女子トイレには花子さんは居ないけど、別の怪奇が居るの。
アライさん達は自分達で作った『 花子さんと “ かくれんぼ ” 』に対して自分達からルールを破った。
だから、ルールを破ったアライさん達は怪奇に憑かれてる状態なの 」
「 怪奇に憑かれてる?? 」
「 そう。
だから、2学期にアライさん達から何かされるかも──って不安がる必要はないよ 」
「 トヨガさんは何でそんな事…… 」
「 アタシの親戚にオカルトライターが居てね、受け売り 」
「 オカルトライター?? 」
「 うん。
UAって名前のオカルト雑誌に記事を掲載してるの 」
「 へ…へぇ…… 」
「 マイナーなオカルト雑誌だからね。
あんまり知られていないの 」
「 トヨガさんは夏休みはどうするの? 」
「 心霊スポット巡りかな 」
「 心霊スポット巡り?? 」
「 うん。
雑誌に【 心霊スポット検証 】っていうコーナーがあるんだけど、夏休み中はオカルトライターに協力する事になってるの 」
「 そ…そうなんだ…。
怖くないの… 」
「 怖くない……わけないよ。
でもね、アタシは見えないし、感じないから、平気かな?
鈍い人って怪奇にも鈍感だから 」
「 そう……なんだ… 」
「 宿題が少ない高校で良かったよ。
バイト代を稼げるんだからね 」
「 そうなんだ… 」
「 ツユキさんは夏休みは予定あるの? 」
「 うん。
7月中に宿題を終わらせて、8月は遊び倒そうと思ってるの 」
「 へぇ、いいんじゃない。
楽しい夏休みを過ごしてね 」
「 有り難う、トヨガさん。
トヨガさんも充実した夏休みを過ごしてね? 」
「 うん。
有り難う、ツユキさん。
もう誘われても旧校舎に入らない方が良いよ。
大分、老朽化が進んでるし、崩れたのに巻き込まれても助けてもらえないんだから 」
「 そうだよね…。
もう、旧校舎には近付かないようにする! 」
「 その方が賢明だよ 」
「 じゃあね、ツユキさん。
アタシは此方だから 」
「 うん。
トヨガさん、本当に有り難う。
バイバイ!
2学期に会おうね 」
「 うん、2学期ね 」
私はトヨガさんと校門で別れて最寄り駅の細葉田駅へ向かって歩いた。
細葉田駅へは徒歩で10分ぐらいの距離にある。
帰りに手前の駅に降りてア◯メ◯トに寄ろうかな〜〜。
ツユキさんと校門で別れたアタシは自宅に向かって歩く。
アタシの自宅は高校から徒歩20分程先にある高級住宅街の中にある。
防犯設備が整っている門を通って高級住宅街へ入る。
10分ぐらい歩くとアタシの自宅が見えて来た。
頑丈な門を開けて敷地内に入ると、庭の手入れをしている義兄さんが「 オカエリナサイ 」と声を掛けてくれるから、アタシは笑顔で「 ただいま 」って返事をする。
義兄さんは日本人と外国人のハーフで庭師をしている。
庭師の師匠は現役バリバリの祖父で兄弟子は叔父さん。
アタシの父親は庭師じゃなくて陰陽師。
母親は祓魔師。
2人の実姉も祓魔師で、2人居る実兄の長男は1級建築士でバリバリ稼いでいて、もう1人の次男は陰陽師。
アタシも卒業後は『 祓魔師か 』なんて言われてるけど、祓魔師になるつもりなんて更々ないから、卒業後は実家を出るつもりで居る。
取り敢えず、親戚のオカルトライターの手伝いでもしようと思ってる。
見えるアタシには持って来いなバイトなのよね。
正規で雇ってもらえたら有り難いんだけどね。
玄関から家に入るとアタシは2階にある自分の部屋へ向かった。