【四コマ漫画風短編小説】先生、結婚してください
四コマ漫画風に小説を書くと言う試験的小説です。
何故そんなものを書いたのか? そこにネタがあるからです。
ギャグですのでお気軽にお楽しみください。
【恋物語は突然に】
放課後の生徒指導室。
黒髪の女子高生が、男性教諭と向き合っている。
「聞きたい事がある、という事でしたね。何ですか」
「はい、あの、真剣に聞いてくれますか?」
「勿論ですよ」
「茶化したり誤魔化したりしないでくださいね」
「心配しないでください。ちゃんと聞きますから」
「じゃあ先生と結婚する方法を教えてください」
「ごめんなさい。よく聞こえなかったので、もう一回お願いします」
【答えを聞かせて】
「ちゃんと聞くって言ったじゃないですか」
「耳を疑う質問に、聞き間違いかと思いまして」
「だから先生と結婚する方法ですよ」
「聞き間違いであってほしかったです」
「じゃあオッケーですか?」
「答えを求めるのが早過ぎませんか」
「授業では早く答えると、先生褒めてくれるじゃないですか」
「この問いには即答しちゃいけないと思います」
【断る理由】
「何をそんなに考える必要があるんですか。新居は先生の家で良いですし、式は私の卒業を待ってからになるでしょうから急ぎませんし、子どもの名前は十月十日あるんですから今でなくても」
「考えているのは角の立たない断り方なんですけど。流石に即答は申し訳ないかな、と」
「そんな日本人的な思いやりなんて要らないですよ。今この場で『はい』か『いえす』で答えてもらえれば十分です」
「断ると言う選択肢が無いのは何故ですか」
「断るんですか? 花の女子高生の求婚を何故?」
「花の女子高生だからですよ。生徒と結婚なんてしたら僕クビですからね」
【私なしにはいられなくしてあげる】
「万が一クビになっても、私が養いますから安心してください」
「無茶苦茶言いますね君」
「定期試験の後、父とお酒を飲みながら、
『点数が良ければ簡単すぎたかと不安になるし、悪いと教え方が悪いのかと不安になる。仕事が辛い。働きたくない。部屋の隅の綿ぼこりになりたい』
と愚痴っていたじゃないですか」
「酔った上での戯言です。お仕事楽しいです」
「棒読みになってますよ。可愛いお嫁さんと自由を手に入れましょう」
「例え仕事が辛かったとしても、自分の生徒と結婚した上にヒモになるとか、男の尊厳に関わります」
「先生、尊厳でご飯は食べられませんよ」
「今まさに人の飯の種を奪おうとしてる君が何を言いますか」
【収入の名は】
「大体高校生の君に、大の大人を養える財力があるとは思えませんけど」
「ふふふ、逆です。女子高生だからこそ需要が高まるものがあるんですよ」
「……それは一体?」
「動画投稿です。広告収入と投げ銭で、結構な収益があるんですよ。これとアルバイトを合わせれば……、って先生? 何を落ち込んでるんですか?」
「ちょっと待ってくださいね。教え子を信頼しきれなかった自責の念に耐えていますから」
【ネットの現実】
「しかし動画配信とは。顔出しとかしてませんよね」
「ご安心ください。この通り、バーチャルキャラで行っています」
「安心はしましたけど、バーチャルキャラでは女子高生と言う特徴は活かせないのでは」
「本物にしか出せない女子高生感が人気の秘訣です」
「ふむ。なになに……。
『おっさん頑張ってるな』
『お前みたいな突き抜けたおっさん嫌いじゃない』
『おっさんが今時の女子高生を調べて演じてると思うと興奮する』
……これらのコメントについて一言」
「大事なのはコメントの内容ではなく投げ銭の額です」
「その歳でプライドをお金に変える痛みを知らなくても」
【誰よりも側に居たから】
「全ての問題が解決しましたので、れっつ結婚」
「むしろ問題が増えている気がするんですけどね。そもそも何で僕なんかと結婚したいんですか」
「生まれてから一番長く一緒に居て、一番安心出来る存在、それが先生です」
「叔父さんの事も思い出してあげてください」
「父は仕事人間ですから、いまいち印象が薄いんですよね」
「あぁ、それで私を父親に見立てて、お父さんと結婚する、と言う娘の心理ですか。可愛いものですね」
「パパって呼びますよ」
「発言を撤回させてください」
【君の良いところ】
「私はちゃんと先生が好きなんです。優しいですし、真面目ですし、頭も良いですし」
「面と向かってこんなに褒められるのは、複雑ですけど悪い気はしないものですね」
「私服はダサ可愛いですし、未だにコーヒー飲めないのも可愛いですし、泣ける映画で必ず号泣するのも可愛いですし」
「おっと雲行きが怪しくなってきました」
「一人暮らしが長いから家事全般得意ですし、趣味が仕事ですから散財の心配もないですし、彼女がいた事がないから浮気の心配もなさそうですし」
「ここまで言われたら頭に拳骨の一つくらい、世間様は許してくれるでしょうか」
「その全てが可愛くて愛おしいと言っていますのに」
「可愛いって言えば何でも褒め言葉になるのは小学生までです」
【民法第731条】
「歳の差を考えましょう。僕三十一ですよ」
「私は明日十八になります」
「そうでしたね。おめでとうございます」
「先生、日本では十八歳になったら結婚出来るんですよ」
「令和四年四月からは改正されるようですが、現在の民法では女性は十六歳で結婚できます」
「えっ……! じゃ、じゃあ私は二年もの時を無駄に過ごしたと……?」
「愕然としてるところ申し訳ないですけど、二年前でも結果は変わりませんから安心してください」
【歳の差なんて】
「なら今から二年分の時を取り戻しましょう」
「立ち直りが早過ぎますね」
「前向きな事は若者の一番の力と教えてくれたのは先生です」
「タイムマシンが欲しくなります。そもそも歳の差十三をどう考えているんですか」
「大丈夫ですよ。八十年もすれば差なんて無いも同じです」
「百二十一歳と九十八歳は、ギネス的な意味で結構な差では」
「干支で考えれば一個差です」
「同じ干支なら同い年理論は、若者が使って良いのかどうか」
【日付に例えてあげる】
「先生は三十一歳。十二月なら大晦日。年末です」
「何ですか急に」
「そして私は十八。十二月十八日と言えば、年明けまで二週間を切る時期。年末と言われる時期です」
「まぁそうですけど」
「同じ年末なら大差はないと言う事です」
「何に例えようと、単位が年というのは覆しようのない事実ですからね。そもそも何で十二月に例えたんですか」
「だって女性の歳はクリスマスケー」
「それ以上はいけません」
【近過ぎて遠くて】
「何でこんなに若くて可愛い女の子からアプローチされてるのに、反応が薄いんですか」
「いとこで同じマンションに住んでて、生まれた時から面倒見てて、今更何の反応を求めているんですか」
「成程、保護者目線になってしまっていると」
「そうです。やっと分かってもらえましたか」
「ならば私を嫁にやりたくない気持ちになってますよね」
「一瞬安心した自分の愚かしさが恨めしいですね」
「結婚すれば嫁に行く事はないですよ」
「間違ってるような合っているような」
【頑張りの結末】
「私は小学生の頃から先生が好きです」
「知ってます。毎日のように『おにぃとけっこんする』と言われてましたから」
「先生に見合う女になれるよう、頑張ってきました」
「中学生の時に振る舞われた、プロ顔負けの手料理には驚きました」
「先生ともっと側に居たくて、勉強を教わりに行きましたよね」
「あっという間に教える事なくなりましたけど」
「そして先生の勤めるこの学校に首席合格。私偉いですよね?」
「その熱意に若干の恐怖を感じていました」
【あなたをずっと見つめてる】
「私はずっと先生を見てきました」
「恐怖が更なる加速を始めたのですけど」
「先生がうちのお隣のお姉さんに、彼氏がいるのを知らないでラブレター書いていた時も」
「教えてくれたら良かったのに」
「小学生の私でもやらかしだと分かる、女の子に贈る自作の歌を練習していた時も」
「それは止めるのが優しさでしょう」
「先生の事が大好きな女の子がいる事も」
「『それは私です』というオチですか?」
「流石先生」
【大声出しますよ】
「仕方がないです。ここまでしてもなびいてくれないなら奥の手です」
「何をする気ですか」
「ここで大声を上げます。嫌なら結婚してください」
「……脅迫で得たもので、本当に幸せになれるとでも思っているのですか」
「あくまで首を縦に振らない気ですね。良いんですか? 『私は先生に結婚を迫っているのに、教師と生徒という立場にこだわって拒否するんです』って叫ばれても」
「君の素直さと正直さは、子どもの頃から変わらない素晴らしい美徳ですね」
【焦る理由】
「随分焦ってますね。何があったんですか?」
「……明日十八歳の誕生日だからという理由以外はありませんよ」
「嘘を吐く時の癖が治ってませんね」
「何の事だか分かりません」
「そうですか。ではあまりやりたくはなかったのですが」
「な、何ですか」
「身体に訊く事にしましょう」
【運営さん来ちゃらめぇ】
「君はこうすると途端に大人しくなりますね」
「はぁ……ん……。せんせぇ……、らめぇ……」
「駄目ですか? やめますか?」
「やらぁ……、やめないれぇ……」
「やめてほしくなければ正直に話してください」
「はなひまふ、はなひまふから、もっろ、もっろひてぇ……」
「分かりました。では……」
「あっあああ! これ好きぃ! もっろ! もっろひてぇ!」
「頭撫でてるだけでこの有様」
【事後】
「はぁ……、幸せ……。先生の手に撫でられると、安心して力が抜けちゃいます……」
「そうですか。僕は君の防御力に多大な不安があるんですが」
「不安があるなら結婚して側に置けば安心かと」
「自分の人生を投げ打ってまで守る義務はないんですけどね」
「私がこんな風になってしまうのは、先生に撫でられた時だけなんですからね」
「それなら良かった。私の心配も軽くなりました」
「そこは責任を取るべきところでは」
【明かされる真実】
「では訊きましょう。何故急にこんな話をしだしたのですか」
「……話したら、また撫でてくれますか?」
「可能なら金輪際お断りしたいところですけど、またこんな無茶されても困りますし、良いですよ」
「……先生、お見合い、するって、聞いたから……」
「えっ、そうなんですか」
「何で先生が驚いているんですか」
「何でも何も初耳ですから」
【解かれた誤解】
「昨晩両親が『あいつもそろそろ身を固めさせないと』とか『良いお見合いの話があるのよ。前に話したら乗り気だったし』とか話していたので、話が進んでいるものかと」
「全く知りませんでした。叔母さんには『お見合いとか興味ある?』って言われたので、『こんなのに嫁に来たいという奇特な方がいたら』と社交辞令を言った位ですよ」
「それで両親が勝手に思い違いをしたと」
「血は争えませんね」
「ちなみにここに一人奇特なのが、先生の了承を待っていますけど」
「社交辞令の意味を今一度考えてください」
【次の一手】
「つまり先生はお見合いの話を知らなかった」
「はい」
「現時点でお見合いや結婚をする意思はないと」
「まぁそうです。納得してもらえましたね」
「はい。先生は現在フリーでノーマーク。落とすなら今だと」
「安心して手を控える結末を期待したんですけど、私も学習しませんね」
「先生の性格からして、ここで手を引いたら保護者に逆戻りですから」
「一貫して保護者目線ですからね? ちょっとぐらついた的なイメージの捏造はやめてください」
【プレゼント】
「再度の確認になりますが、私明日誕生日なんですよ」
「はい。おめでとうございます」
「プレゼントはファーストキスがいいです」
「人の唇が未使用だと決めつけないでいただきたい」
「えっ、先生、経験あるんですか」
「三年前、海で溺れた人の命を救うために、僕の初めては捧げました」
「それがカウントされるなら、私が小学生の時、お昼寝していた先生にキスしたのを初めてにしてください」
「おっさんに捧げたのではなくて、良かったようなそうでないような」
【諦める事を諦めて】
「今回の事で先生が手強い事はこれでよく分かりました」
「ここまで明確に拒否してるのに、手強い止まりという認識が既に恐ろしいです」
「まずは教師と生徒という関係を解消しないとですね。卒業か退学か退職か免職か、どれにしましょうか」
「平和な選択肢が過半数を取れないなんて」
「あ、見合いの話はちゃんと断ってくださいね。ウチの両親、話を聞かないで強引に進める事があるので、押し切られないように気を付けてください」
「本当にそうですね。大変よく分かりました」
「何で私を見ながら言うんですか」
【振り返れば彼女がいる】
一ヶ月後。
料亭『虹久』入口。
「先生、やっぱりお見合い、断りませんでしたね」
「えっ君が何故ここに。まさかお見合いをぶち壊しに来たんですか」
「そんな事しませんよ。今日のお相手は私ですし」
「えっ」
「お見合いを断るよう言えば、私を諦めさせるために受けると思っていました」
「罠だったのですか。相手は来てからのお楽しみと言われて若干の疑問はあったのですが」
「両親は説得済み、学校にも話は通して卒業まで清い交際をする事を条件に了承をもらいました。ではお見合いを始めましょう」
「外堀の埋め方がえげつなくないですか」
【決意】
彼女の行動に、僕は己の甘さを恥じた。
あの時泣かせてでも強く拒絶しなければいけなかったのだ。
嫌われようとも、生涯恨まれようとも。
それを厭うが故にこの状況が生まれてしまったのだ。
だから僕は決意した。
彼女の幸せのために、徹底した対応を取る事を。
【幸せは誰の手に】
「先生、ご飯出来ましたよ」
「ありがとうございます」
「おうちで先生と呼ぶのは何だか変なんですけど」
「君の呼び名候補が酷いのですから仕方ないでしょう」
「『ダーリン』『マイスイートハート』『旦那っぴ』のどれですか?」
「全部です」
「結婚するまで『あなた』はとっておきたいですし、難しいですね」
「感性がぶっ飛んでるのかまともなのか判断に困りますね」
【未来を信じて】
僕が結婚するかもと言う不安から出たこの騒動。拒否すれば反発するのは当然の事。
ならばいっそ婚約を受け入れ、一旦通い妻のようなこの状況におけば落ち着くはず。
満たされれば結婚への興味も薄れるだろうし、婚約も円満に解消出来るだろう。
「先生、卒業式が結婚式場に早変わりプランを考えているのですが、時間的に白無垢とウエディングドレスのどちらかしか着れないと思うんです。どちらが良いですか?」
「僕と卒業生にトラウマを刻み込む計画はやめてください」
ベストな判断のはずなのに、悪寒がするのは何故だろう……。
読了ありがとうございます。
あれこれ拘ったせいで、短編にも関わらず一週間くらいかかってしまいました。テンションフラットなツッコミって難しいですね。
お楽しみ頂けましたら幸いです。