女神「あらあら、寿命前に死んでしまうなんて……デスペナですね」
チート転生があるなら、逆があってもおかしくない
「ちょっと待て!」
雲の上みたいな空間で、俺は思わず叫んでいた
目の前の女神っぽい女が恐ろしい事を言ったからだ
「え?待ちませんけど」
「いや待てよ!デスペナってなんだよ!」
そうこの女、俺が寿命前に死んだからって、デスペナを課そうとしているのだ!
「デスペナとはデスペナルティの略で、死んだことに対する罰則です、因みに和製英語で、本来の意味は死を与える刑罰で死刑ですね」
「知ってるよ!俺が聞きたいのは、他人の過失で死んだのに、なんでペナルティがあるのかってことだよ!」
「クレームは受け付けません、そういうルールですから……それとも、賽の河原で石を積む方がいいですか?」
「ぐっ……」
それを出されると弱い……あるんだよな、早く死んだら罰って教え
それ以前にこの女聞く耳持ってないし、素直に罰を受け入れるしかないのか
「あなたのデスペナは『超ブラック企業勤務』です、今度は寿命まで死んじゃダメですよ」
「おい待て!それ無茶だろ!」
「だから待ちませんて、では行ってらっしゃい」
ちょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!それは嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
最後の叫びは声にならず、俺は転生した
───
──
─
で、またこの空間に来た訳だが
当たり前のように、女神っぽい奴がいる
「勤続五年で死ぬとは情けない、デスペナですね」
「ふざけんな!」
死んでここに戻った瞬間に思い出したけど、こいつ本当は邪神かなにかだろ!
サビ残パワハラ休日出勤上等な職場で毎日深夜まで仕事してたのは、全部お前の差し金だろうが!
あんな職場で寿命まで生きれるか!
「ふざけてなんかいませんよ、後一年で寿命だったのに不甲斐ない」
「え?俺の寿命あと一年だったのか!」
てっきり老衰での死亡しか許さないと思ってた
「人によって寿命が違うのは当たり前じゃありませんか」
「そんな当たり前は聞いたが事ない!」
たまに居るよな、自分の知ってる事は他人も知っていて当然だと思ってる奴
「言い訳は聞きませんよ、さて次のデスペナは『飯マズ』です、今度こそ寿命まで生きて下さいね」
「待て、その飯マズは人を殺せるレベルなのか!」
「だから待ちませんて、では行ってらっしゃい」
説明しろよぉぉぉぉぉぉぉぉ!
心の中で絶叫しつつ、俺はまた転生した
───
──
─
三度目だよちくしょう!
「十歳で死ぬとか、舐めてるんですか?」
「転生先の家族全員が味覚音痴なのに生き残れるか!」
「だからって生のジャガイモを食べて死ぬとか、あなたアホでしょ」
「まだ生のジャガイモの方がうまかったんだよ!」
転生前は飯マズと聞いて、お米を洗剤で研ぐタイプと一緒に住むのかと思っていたが、実際は料理は出来るけど味覚音痴な家庭だった
家族の中で俺だけ正常な味覚って、地獄かよ!
砂糖が大量に入ったカレーって食った事あるか?……凄いぞ(真顔)
カレーだけは裏切らないと思っていたから、ポッキリ心が折れたわ!
「ハァー……そんな我が儘ばかり言ってると、いつまでもデスペナ転生を繰り返すことになりますよ」
「お前のデスペナが鬼畜なせいだろうが!少しは加減しろ、この邪神!」
「カッチーン、この麗しい女神を邪神呼ばわりする人には、特別なデスペナを与えてあげますね」
「ちょっ待てよ!」
「だから待ちませんて、次のデスペナは『事故物件』です、では頑張って寿命まで生き延びて下さいね」
「へ?待て、それは流石に洒落にならないだろ」
「待つ気はありませんよ、では行ってらっしゃい」
事故物件って、前の住人が死んでたりする曰く付きの物件だよな
特別と言うからには、間違いなく憑かれるのか!
ホラー映画にハッピーエンドはないんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
恐怖に震えながら、俺は転生した
───
──
─
そして四度目だよ、こんちきしょう!
「まさかの入居半日とは、最短記録を狙ったのですか?」
「狙うか!玄関にトラックが突っ込んで来て、奥に逃げたら風呂のボイラーが爆発炎上して、慌てて窓から外に出ようとしたらラジコンヘリが頭に突き刺さるなんて、狙っても出来ねーよ!」
事故物件て、事故に巻き込まれる物件かよ!
転生前に幽霊とか出たら嫌だなーとは思っていたけど、連鎖的に事故が起こるなんて無理ゲーだよ!こっちはハリウッド映画の主役でもなんでもない、しがない一般人なんだぞ!
「やれやれ情けない、たかがラジコンヘリくらいで死ぬとか、異世界に転生したら生き残れませんよ」
「お前の導きでだけは、絶対に異世界には行きたくない!」
デスペナ異世界転生とか、産まれた日に死ねるわ!
「へーこの女神様にそんな口をきくんですか……次は異世界転生にしましょう、お約束な中世風で」
「絶対に行きたくないって言ったよな!だいたいデスペナ付きで人権も何もない時代に産まれたら、普通に遺棄されそうだわ!」
「そこは大丈夫です、異世界転生自体がデスペナですから」
ニッコリ微笑む女神の言葉に、背中が総毛立った
「待て、それってどんな異世界なんだ!」
「だから待ちませんて、では行ってらっしゃい」
頼むから止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!それ絶対にヤバい世界だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
叫びは声にならずに、恐怖とただ死にたくないという想いだけを残して、俺は転生した
───
──
─
五~度~目~だ~よ~……クソったれ!
ああああああああああああ!後は悠々自適な老後だったのに、何かっこつけてんだよ!何が「お前らは先に行け……ここはワシが食い止める」だ!
ここの記憶が残っていたら、絶対に助けなかったのに!
「凄い、最高記録です!まさか五十歳まで生き残るとは思っていませんでした」
「自分でもびっくりだよ!まさか魔物がいる世界があんなに恐ろしいなんて思ってもいなかったよ!」
想像してみてくれ、魔物が実際にいる世界を
そこら辺にいる猫や小鳥や虫が凶暴化して人間を襲う世界を
トラック並みにデカい生物が居て、人間に襲いかかる世界を
木の柵どころか城壁すらも壊すんだぜ、一般人が老衰まで生き残れると思うか?余程恵まれてなかったら無理だよ!
俺は村に産まれたけど、住居等の生活基盤は全部地下だった、畑仕事は命懸け、いつ魔物が襲ってくるか分からなかったから人生ハードモードだったぜ!帯剣しながら農作業するとかアホかと!
このまま農民やってたらヤバいと思って、早々に自衛出来る手段を習得するのに邁進したわ!
「まさか冒険者になって頭角を表すとは、この女神の目を持ってしても読めなかったです」
「どこの曇り眼なリハクだ!……必死だったんだよ、何故か『絶対に死んでたまるか!』って想いだけは残ってたからな」
「いえそうではなく、あなたみたいな状況に流されまくる人がよく冒険者になったなーっと」
「そっち!言うに事欠いて、そっち!」
「そしておめでとうございます、今回は寿命まで生き残れたので、デスペナはありません」
「そーかそーか、次のデスペナは『ありません』か………………マジで!」
「マジですよ、正確には寿命プラス五時間でした……たった五時間とはいえ、運命を乗り越えたのには驚きましたよ」
「……よ……」
「よ?」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やっとデスペナ転生から解放された!これで……あれ?……えーと、普通に転生するのかな?」
思わず素に戻った俺の疑問に、女神は今まで見た事がないような優しげな微笑みを作った
「いいえ、次はあなたの記憶を残したままの転生です、ひとつだけですけど望みのチートも授けますよ」
「え?……何の冗談」
この女神がそんな大盤振る舞いをするなんて信じられない、つーか裏がありそうで怖い
「冗談ではありませんよ、そういう賭けなのですから」
「賭け?誰と?」
「ふふふふふ、不思議に思いませんか?何度も転生したのに、何故あなたの人格は最初に死んだ時のままなのでしょうね」
「それは……言われてみればおかしいな」
この人格は最初に日本の社会人として生きていた時の人格だ
今まで何度も転生したけど、それは記憶を無くしての転生、当然環境も違うからその人生毎に人格や性格は違う
特に前世の異世界なんて、モラルも何もない社会で生きていたんだ、自分で言うのもアレだけど、現代の常識と照らし合わせたら時代錯誤も甚だしい性格だった
「ここに来る度に、保存していた人格に記憶を統合させていたんですよ、感謝して下さいね」
「何の為にだ……嫌な予感しかしねー」
「おやおや嫌な予感とか心外ですね──あなたの提案でやった賭けなんですから」
「はぁっ!?ふざけるな!そんな賭けをやった記憶はないぞ!」
だいたい問答無用で転生させてる癖に、賭けなんてやる時間はねーだろ!
それ以前に会った記憶もない、こんな濃いキャラは会ったら忘れるわけがないからな!
「いいえ賭けましたよ、あなたが記憶しているよりも、一つ前の前世でですけど」
「待て!俺はデスペナ転生前にも転生してたのか!」
「待ちませんよ、ええ、ここで私に会うなりチートと異世界転生を要求して来ましたからね」
「何やってんだよ俺!」
「同じ事を言ってくる子供ならたまにいるので、無視するのですけど……二十歳越えた男に言われるとイラっとしましてね」
「勘弁してくれ俺!」
「私の出した課題をクリア出来るなら、異世界へチート転生させてあげると持ち掛けたんです」
「もしかしなくてもその課題って、デスペナ転生で寿命を全うするだよな!ふざけんなよ俺!」
「やれやれ、その程度なら簡単にクリアしてやるよ、とあなたは言ってましたよ」
「その時の俺を殺したい!もう死んでるけど殺したい!」
「まさかクリア出来るとは思っていませんでした」
「おい聞いてるか過去の俺、クリア出来ない課題を出されてたぞー!」
「流石に可哀想に思えて来たので、異世界転生をデスペナにしてあげたんですよ、感謝して下さいね」
「それが一番難易度高かったけどな!」
こいつ相手に賭けをするとか、その時の俺の正気を疑うぞ!
「因みにその人格も一応保存していますけど……統合しますか?」
「絶対にノー!消してくれ、跡形もなく消してくれ!」
そいつのせいでデスペナ転生を何回もさせられたんだ、何が悲しくて統合しなければならないんだよ!
というか、一番最初に死んだのもデスペナのせいだよな!矢鱈とトラックに轢かれそうになってたのは、こいつのせいだよな!つーか轢かれたよ最後!
「さて、それではそろそろチートを選んで下さい、私も暇ではありませんからね」
「この混乱している状況で選べとか、鬼か!」
「選ばないなら私が勝手に選びますよ」
「分かった選ぶ!考えるから少し待ってくれ!……ハッ!」
言ってからしまった!と思ったが、もう遅い
女神はニヤリと微笑んで、何時もの言葉を口にした
「待ちませんよ、あなたのチートは『無限の魔力』です」
「ちょっ、勝手に選ばれた!」
「転生先は前世と同じ異世界です、せいぜいチート転生を楽しんで寿命まで生き延びて下さいね」
「待て!それは本気で待ってくれ!」
「だから待ちませんて、異世界転生までが賭けの対象だったのですから、では行ってらっしゃい」
ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!その異世界だけは止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!そこはお前デスペナって言ってたよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
絶叫と共に薄れ行く意識の中、今世では絶対に老衰まで生きてやると決意して、俺は転生した
「相変わらず楽しい人ですね……今度来た時にはボーナス特典とか言って、無理矢理チート転生させるのも面白いかもしれませんね」
俺が消えた後に女神が微笑んだのを、俺は次の転生で知ることになる
うちの親父が大の甘党で、カレーに砂糖を入れた事があったんですよ……親父だけ美味しいと言ってました(無表情)