九章
「行って来ます、メグ」
そう言って笑うロイ様に、私は口角を上げて見せる。
「お仕事頑張って下さいね」
大丈夫よ、メグ。
私は今日も、笑える。
ロイ様の頼もしい後ろ姿を見送り、自室に戻る。
焦げ臭かった部屋も、今では元通りだ。
ロイ様との関係も、元通りだろう。
あの日、同じベットで眠った日。
私はロイ様に酷い事を言ってしまった。
好きでもない私を、国の為抱こうとして下さったのに。
あの方が触れた唇の感触が忘れられない。
ああもう本当に。私は早く死なないと。
「メグ様、お時間です」
ユーリの声が扉越しに聞こえる。
仕事の時間だ。
白い手袋を外し、机に置く。
「今行きます」
今日も私は、人々の痛みを取り除く。
この城で、何度も治癒魔法を使う内に判明した事がある。
それは、例え外傷的な怪我でなくても、治せるという事。
機能力が低下した臓器に近い位置に手を置けば、病をも治せる。
私の力も捨てたものではない。
城の隣の屋敷が、私の仕事場として与えられていた。
広くはないが、居心地の良い空間だ。
「あなたは、ロイ様の側にいつ頃戻れるの?」
横を歩くユーリに問いた。
「私ではご不満ですか?」
「そうではないけれど」
失礼な事を言ってしまったかしら。
ただ、ユーリはロイ様の右にいるのが似合うから。
なんて、言えない自分が情けない。
「今日も沢山の方があなたの魔法に縋りに来ていますよ」
「そんな言い方しないで下さいな。ただ彼等は、少し、お金を持ち過ぎているだけなのだから」
ユーリと私は顔を見合わせ、共犯者の様に笑う。
私の魔法は、本当に、彼等の為に使うべきなのか。
お金があれば、医者にかかれるのに。
最終手段として私を頼ってくれるならともかく、擦り傷なんかで来られると、少し捻くれた気持ちになってしまう。
でも良いの。
私はロイ様が属するこの王家で、使い潰されて構わない。
どうせ、その前に自ら死ぬのだから。
早くロイ様を幸せにしたい。