表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

七章

「うちのお姫様は、どうやらこの城を燃やしたいらしい」


部屋の扉が開かれ、ロイ様が入ってきた。

私は俯いてしまう。

本当に、何をやっているんだ。


「帰って来たらメイドが血相を抱えてメグが鍋を爆発させたと言う。怪我はないかい?」


「私は大丈夫です。お部屋を汚してしまってすみませんでした」


薬草が飛び散った部屋は今、ハンナ達が綺麗にしてくれている。

何をしているんだろう。私は、ここで。


ロイ様と私の寝室。

大きなベッドの上に、私は腰掛けている。

普段使われないこの部屋で、本来であれば初夜を迎えるはずだった。

けれど、私とロイ様はその一線を超えていない。

私の役割は、王家の跡取りを産む事なのに。

ロイ様は、それを自分のせいだと思っている。

他に好きな人がいる、自分のせいで、私が拒んでいると。

でもそうでは無い。

私は元々、ロイ様の子供など産めないのだ。

私の身体は、見た目も中身も、欠陥ばかりだから。


「しかしこの部屋もたまには使わなければならないだろう。丁度良かったのかもしれないね」


ロイ様が私の隣に座りながら言う。

核心に迫られているようで、私は身をすくめた。


「それよりロイ様。お出掛けはどうでしたか?」


分かりやすく話を変える。

これ以上、惨めな気持ちになりたく無い。


「ああ、久し振りにゆっくり話せて、楽しい時間を過ごせたよ」


「今日はどなたに会われたのですか?」


「知人のお家にお邪魔したんだ。サヴォンリー男爵をご存知かな?」


「……ええ、お名前だけは」


「彼の家で、大分話し込んでしまった」


話を変える事に成功しつつ、自分で自分を落としてしまった。

そこには、あなたの想い人もいたのでしょうね。

なんて、口が裂けても言えないのに。

こんなにも胸は痛くなる。

分かっていた返答でしょう、メグ。

表情に出してはダメ。


「そうだ、これ。サヴォンリー男爵の娘さんが、是非君にと。そしてこれが私からの土産」


ああ、ああもう。どうして。

私は必死に笑顔を貼り付け、差し出された包みを受け取る。


「まあ何でしょう。ありがとうございます」


男爵の娘から!私宛に!

包みを開くとそこにはクッキーが数枚並んでいた。


「手作りかしら?」

「彼女が自ら作ったらしい。私も食べたが、とても美味しかったよ」

「凄いですね。明日、紅茶と頂きます」


今すぐにでも、捨ててしまいたい。

どうしてこんな物を。

ロイ様は何も分からないのかしら。

これは宣戦布告なの?


「娘さん、お名前はなんとおっしゃるのですか?」

「リノン、だよ」

「……なんだか、甘美な響きですね」


遠回しな嫌味。

語感ではなく、あなたの言い方が甘いわ、という意味。

しかしロイ様は微笑むだけ。

完全なる負け戦。

暖簾に腕押し。


私は溜息を堪え、もうひとつの包みを開ける。


「まあ……」


綺麗な青い雫型の宝石が、キラキラと輝いていた。

小振りな宝石がひとつ付いただけの、シンプルなネックレス。

とても綺麗で、私は惹き込まれてしまいそうになる。


「これは……」

「私の瞳の色を、君の身につけて貰いたかったんだ。君が私のものであるという、証拠にもなるだろう」


彼の言葉が耳に入る。

しかし私は、心が冷たく凍り付いてくるのを感じ、それどころではなかった。

何故。何故。


「付けて見せておくれ」


そう言いながらロイ様は私の首にネックレスを付けて下さる。

それはまるで。まるで、首枷の様で。


「綺麗だ。よく似合っているよ」


宝石と同じロイ様の目が、私を見つめる。

そしてその美しい顔が近付いてきて、何か生温かいものが、そう、まるで唇の様なものが、私のそれに触れる。


ああどうして。

私は本当は、もっと嘘が上手なのに。


「ロイ様……私は……あなたが好きなんです……」


心が震えて、声が震えて。


「私の名前を呼ばないで。好きでも無いのに優しくしないで」


傷だらけの体は、好意を持たれていない人を、受け入れる余裕がないの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ