六章
抜いてきた植物を綺麗に洗い、髪を結い直す。
自分の部屋に戻り、早速薬作りに取り掛かる。
マリアが手伝いを申し出てくれたが、流石に遠慮した。
机の上に薬草の本を広げ、古めかしい茶色の鍋に、指定された植物を入れて行く。
煮込む為の火は魔法で付ける事にした。
私は治癒の他に、火魔法と風魔法を使う事が出来る。
パチン、と指を鳴らせば、宙に炎が上がる。
その状態を維持し、炎の上に鍋を置いた。
宙に浮く炎と鍋。
重力を無視したこの光景は、なんだか酷く愛おしい。
椅子に腰掛け、パチパチと鳴る炎を見つめていると、ふとロイ様の事が頭をよぎった。
私が彼を好きな様に、彼は男爵家の娘が好きなのだろう。
どうしてこんなに複雑になってしまうのだろう。
立場とか、政略とか、治癒魔法とか。
私がロイ様と結婚した事は、この国の人々が望んでいた。それは確かだ。
彼もそれを分かっていたから、婚約破棄なんて目立つ事はしなかった。
髪をそっと撫でながら、目を閉じる。
男爵家の娘……一体どんな人なのだろう。
一目見てみたい。
惨めな気持ちになるだけだろうけれど。
それでも会ってみたい。
私の好きな人が、好きになった女性に。
「ん?」
ぼんやりしている中、何かが焦げた様な臭いが鼻に届いた。
しまった、と思い顔を上げると、そこには何故か鍋から溢れんばかりに膨らんでいる薬草の姿が見える。
そして。
鍋ごと大きな音を立て、中身が爆発した。