四章
お風呂や着替えは、幼い頃から面倒を見てくれていたマリアが手伝ってくれる。
こればかりはどうしてもマリアが良くて、ハンナには無理を言ってしまった。
しかしおかげで、実家を恋しく思う頻度も少ない。
やはり慣れというものはあるだろう。
眠る前に白湯を飲むのが習慣の私は、それを持って来てくれるマリアと部屋でお話をするのが、一日の最後を締めくくる楽しみだ。
「ねぇマリア。あなた、元の家とこのお城、どちらの方が住みやすい?」
ソファに横並びに腰を下ろし、温かいカップを両手で包み暖を取りながらマリアに問う。
内緒話をするかの様に、声を小さくして。
メイドとソファに座る事はあまり無いだろう。
いや、無いに等しいかな。
けれど私にとってマリアは、専属のメイドである前に、姉の様な存在であり、一番の友なのだ。
家族にもよく思われなかったこの習慣は、今もひっそりと続けられている。
「メグ様は意地悪な質問をされますね」
ふふ、っと優しい微笑を浮かべながらマリアは言う。
「最初は勝手の違いに戸惑いもしましたが、慣れて来ましたからね。何より、こちらにいるメグ様の方が幸せそうですから。私はここに来れて良かったと思っています」
「……私、幸せそう?」
「少なくとも、ここにはメグ様を傷付ける人はいません」
「別に、元の家でも傷付けられた覚えは無いけれど。それに私は……」
旦那さんに愛されていないのよ?
なんて、流石に言えないわよね。
「でも私は、マリアがいればどこも住みやすいと思うの」
「嬉しい事を言って下さいますね」
「もう眠るわ。ありがとうマリア」
「素敵な夢をみられます様に」
カップを受け取り、そっと目を閉じつぶやくマリア。
「きっと見られるわ。おやすみなさい」
せめて夢の中だけでも、ロイ様に愛されたらいいのにね。
ベッドに横になり、毛布に包まる。
目を閉じて作られる暗闇は、私を孤独にさせるけれど、目が覚めたって、孤独感を覚えているのだから、あまり変わらないだろう。
一日を振り返っている内に、意識が遠のいて行く。
おやすみなさい。また明日。