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三章

テルトニア王国は、小さいながらも豊かな自然に恵まれた国だ。

ロイ様はこの国の第一王子であり、文武両道、見目麗しく、人徳に溢れた立派な方だ。

対して私は伯爵家の次女で、治癒魔法を使える事以外には特筆出来る点の無い、平々凡々な女である。


私の容姿を描写するなら、黒猫の様な黒髪、大量の血に染められたかの様な赤い瞳、幽霊の如く白い肌とでも書こうか。

黒髪はまだしも、赤い瞳を持つ人は少ない。

その為私は実の家族に怖がられていた。


父も母も、六歳離れた姉も、美しい金髪と碧眼を持ち、その美貌には評判があった。

三人が揃って出掛ければ街の人々はその姿を一目見ようと繰り出し、まだ幼かった姉に恋い焦がれる少年も多かった。

生まれてくる私もきっと妖精の様に美しいと、可愛らしいと、誰もが信じて疑わなかったそうだ。

しかし実際は、テルトニア王国全土を見ても数少ない黒髪と、未だ嘗て存在していなかったであろう赤い瞳を持つ娘が生まれたのだ。

気味悪く思うのも仕方が無いだろう。

何故瞳が赤いのか魔術師に問えば、分からないが治癒魔法を使える事に関係するのかもしれないと言われる始末である。

きっと家族は戸惑っただろう。

それでも、彼らなりの愛の形を私に見せてくれた。


私が持つ治癒魔法とは、怪我人に作用される。

高頻度で使う事は出来ないが、怪我をしている部分に手を翳せば、淡い光にそこが包まれ、たちまち治ってしまう。

我ながら不思議な力である。

ただし、死んだ人を生き返らせる事は出来ない。

魔法の力が残るこの世界では、火を起こしたり雨を降らせる事が出来る人は多くいる。

しかし、直接的に人の痛みを取り除ける力は私の持つ治癒魔法以外見つかっていない為、重宝されているのだ。


私の家族がこの能力を世間に公表する事はなかった。

私を使って金儲けをしなかったのだ。

おかげで私はすくすくと育つ事が出来たのだから、感謝すべきだろう。


この力が公にならなかった理由のもう一つは、ロイ様である。

何故か国王陛下には存在を知られてしまい、トントン拍子にロイ様との婚約が決まった。

それは私が六歳の時である。

わざわざ我が家に足を運んで下さった国王陛下とロイ様。

私は、家族とはまた違うロイ様の華やかさに惹かれ、その性格を知り行く毎に恋心を膨らませていった。

初恋だった。

ロイ様も少なからず私を好いて下さっていると、信じて疑わなかった。


私がデビュタントを迎えたその日に、治癒魔法の事が公表された。

国民は私を聖女に仕立て上げ、尊敬の眼差しを向けてくれる。

ロイ様と私の結婚は、確かに多くの国民に祝福された。


この結婚には意味がある。

もし戦争が起きた時、私はそれこそ聖女としての役目を全う出来るだろう。

ロイ様が国を守り、そのロイ様を死なせない最後の盾となるだろう。

国民はそんな私達の関係を好んでいる。


両親と姉は、この結婚に対して特別な感情を抱いていなかった。

姉は婿養子となってくれた旦那さんと仲が良いし、両親は忙しくしている。

結婚前、家を出る時も皆各々の業務をこなしていた。


私も頑張らないとな。

自殺なんてしたら国民を揺さぶってしまうから、病死が理想的なのだ。

ロイ様の盾など、必要無い。

この国は戦争をする程の資金も欲も無いし、隣国との関係も良好だ。

ロイ様と時間を共有する事が増えれば増える程、私は幸せな気持ちになれた。

好きな人の横に居られるのは、本当に幸福な事だ。

ロイ様にも、それを感じて頂きたい。


断片的な噂を繋げると、ロイ様の想い人は男爵家の三女らしい。

街の視察にロイ様が足を運んだ時に出会ったそうだ。

……噂と言うか、ロイ様の執事から聞き出したのだけれど。

初めて知った時は驚いた。憤慨した。

でも、仕方が無いと思った。

婚約者が決まっているからと言って、その相手に必ずしも惹かれるとは限らない。

ロイ様は優しい。

私を傷付けない様、毎日楽しんで過ごせる様工夫をして下さる。

それだけで十分では無いか。

私は、彼を幸せにする義務がある。


それにどうせ、こんな体では、後継を生む事など出来ないもの。


いつもこの結論に落ち着き、頰を涙が伝う。

私はどうしてこんなにも、弱いのだろうか。

三日間の更新にお付き合い下さった方、ありがとうございました。

三話ずつ連日投稿をしようと考えているので、ここで一旦お休みとなります。

誤字・脱字などのご指摘頂けたら嬉しいです。

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