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十六章

これが愛に狂った男の末路なら。


返り血を浴びながら冷徹な目を私に向けるユーリを見つめながら、私は自分の愚かさを思い知る。

なんて愛とは重く、痛いのだろう。

私はそれを求めていたけれど、抱えられそうにない。


兵に囚われ、荒い呼吸を繰り返すユーリ。

ごめんね。

私のせいだ。


私の部屋を出て行ったユーリは、そのまま国王陛下と女王を刺した。

優秀な兵であるユーリ。

厳重な警備も、絶大な信頼を寄せられていた彼を前にすれば無いに等しかったらしい。

私がメイドに呼ばれた頃には、彼は人殺しと化していた。

それも、国のトップ2人を殺した。


城の者が私に期待の目を向ける。

けれど私の力で人を生き返らせる事など出来ない。


人がいるのが嘘のように、静かな空間だった。

抵抗をしなくなったユーリを囲み、皆が戸惑いの色を浮かべる。

国王陛下が亡くなったのに、みな、唖然としているばかりだ。


「ユーリを、殺せ」


そんな沈黙の中、重々しい声が響く。

ロイ様だ。

ユーリを睨み付け、命令を下す。


……いたんだ。


目に入らなかった。

その美貌も、この空間ではなんの意味もなさないのね。

ユーリが殺される。

私の為に人を殺した彼が、私の目の前で殺される。

そんなの、おかしいわ。


「ロイ様、彼は……」


一瞬の出来事だった。

私が口を開くと同時に、ユーリは兵を引き剥がし床に落ちていた剣を拾い、ロイ様の腹に刺しかかる。


あらまぁあらまぁ。


血生臭い匂い、頰にかかるロイ様の血。

そして首を刺されるユーリ。


地獄絵図じゃないの。

なによこれ。


国王陛下と女王は殺され、ロイ様は重傷、ユーリは倒れ、そして死に行く。


「ひどい光景」


宰相によって床に寝かされたロイ様を見下ろし、ふと思う。

彼が死ねば、この国は私のものとなる。

私の腹の子が全てとなる。

それは、私が望んだ事ではないか。


「メグ様、どうぞお力を……」


思考回路が追いつかない中、皆が私に縋り付く。

私はもう力を使えないのに。


意識を手放したロイ様。


私は彼のそばに座り、そっと耳元に口を寄せる。


「皆があまり鬼気迫っていないのは、私がいるからなのでしょうか」


ロイ様の腹に刺さった剣を勢いよく引き抜く。

溢れ出る血。

上がる悲鳴。


「あなたが子に愛されているならば、助かるでしょう」


ロイ様の傷口に手を当て、そっと目を閉じる。

私はもう人の傷を癒せない。

人の命を奪うだけ。

でも奪えばその分、力を使えるようになる。

私にはもう力がない。

けれど私の中には、子供が一人。

運が良ければ、ロイ様は助かる。

これは私の意思ではなく、あくまで我が子の気持ち次第。


私は別に、ロイ様が死のうと生きようと、もうどうでもいいのだから。


頰を涙が伝う。

私の命もあなたにあげるわ。

私はあなたと結婚した時からずっと、死にたいと願っていたのよ。

こんな混沌とした世界、生きてる方が辛いもの。

私の全てをあげるから、私を死なせて。


ロイ様の瞼がぴくりと動く。

私の記憶は、ここまで。

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