十一章
自室に戻り、すぐさまベッドの上で横になる。
体の調子が悪い。
少し前から気付いていた。
それが治癒魔法を使っているからだという事も。
時々、呼吸すらも苦しくなる。
このままでは死んでしまうかもしれない。
そんな死に方は絶対に出来ない。
国民の病を治した事が原因で死ぬ事など出来ない。
こんな恐ろしい見目をした私を、完璧なロイ様と結婚させてくれた国民達。
彼等に私の死を担わせたくない。
苦しい。コルセットを外したい。
ベッドから落ちる様に降り、鏡の前でドレスを脱ぐ。
仕事の為にラフなドレスを着ていて良かった。
ひとりでも容易に脱ぐ事が出来る。
身に纏う物を全て取ると、鏡には醜い体が映る。
痣だらけの体は、母と姉からの愛情の印。
叩かれ、殴られ、蹴られた日々の記憶。
「久し振りに、自分の体を見たわ」
マリアにしか見せないこの姿。
ロイ様も、こんな女との子供を育む気にはならないだろう。
「私も、綺麗になりたいのに」
黒い髪も、赤い瞳もいらない。
こんな、こんな見た目じゃなければ。
瞳から涙が溢れる。
汚い。本当に私は、汚い。
こんな姿、見たくなかった。
私だって、愛されたかった。
この痣は、本当に、愛された証なの?
ああもうお願い、見たくないの。
手元にあったお菓子の瓶を投げつける。
パリンッ
音を立てて割れる鏡。
ああもう。うるさい。
「メグ様っ、どうなさいました!?」
扉が開かれ、飛び込んでくるユーリ。
「女性の部屋に、ノックもせず入ってきては駄目でしょう」
顔だけ後ろを向き、ユーリに微笑んで見せる。
「その体は……」
私が裸である事に動揺したユーリはしかし、体中の痣に気付き眉を寄せる。
「誰か城の者にやられたのですか」
そうだと頷いたら、ユーリはその人を殺してしまうのではないだろうか。
ただでさえきつい印象を与える彼の目に、憎しみの感情が灯っている気がする。
「違うわ。母と姉よ。私を愛しているから、こんな印をつけたの。素敵でしょう?」
「そんな……」
絶句、とでも言わんばかりのユーリ。
彼は本当に、表情が豊かだ。
「着替えるから、出て行って。マリアを呼んで下さる?」
「……かしこまりました」
何かを堪える様に一礼し、部屋を出て行くユーリ。
私に対して、特別な感情を抱きつつある彼は、少し厄介だ。
ロイ様にこの傷の事がバレてしまったら。
どうしてこうも上手くいかないのだろう。
ノックの音の後、マリアが入ってるくる。
「メグ様、何故その様なお姿に……」
「私にも、よく分からないわ」
弱々しく笑って見せると、マリアは辛そうに俯く。
ごめんなさいマリア。
あなたを悲しませる気はなかったの。
「ねえ、私、たまには自分の為に力を使っても良いと思わない?」
ふとした思い付きを口にする。
私の能力を、私の為に使う。
それって、悪い事ではないわよね。
なんだかもう疲れたの。




