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07  酒場にて_後

ついに01の伏線を拾える…

 両者、剣を構えた。

 馬鹿が賭けを始めるなか、両者は剣の切っ先を向け合う。

 私の緊張を察してか、【記憶】が私に呼び掛ける。


>お嬢、出入りか?


 【記憶】―――、“彼”は『ここではない何処かで生きた』男性の記憶だ。

 彼に名前は無い。もちろん体もない。

 ただ心と経験だけの存在でしかない。

 それも、私を通してでしか「世界」を知れないし、私がいなければ即座に消えてしまうような存在だ。

 この忌々しい私の頭の中の同居人は、私の気持ちを知らずに無神経な発言を続ける。


>出番なら、手伝うぜ


 何時も通り、頭の中に『声』が聞こえる。

 この声、実は耳に聞こえてる訳ではない。

 あくまで【記憶】が私に呼び掛けた結果、【記憶】いわく声のように聞こえるとのことだ。


>違うわよ


 私が否定すると、【記憶】は質問を返す。


>違う?緊張してっから、そうだろうなと出てきたが


>あんたね


 思わず苛立つ。

 この【記憶】、私を何だと思っているのか。


>基本、俺は“お嬢”のバイタル以外のログ切ってるんだ

 実質TSなのにプライバシーを守る俺ちゃん的には、今回の事情知らない訳で?

 んで、どったん?


 【記憶】の言葉はよく、理解できないことがある。

 便利だから真似することもあるが、ろぐ と ぷらいばしー ってなんだろう?

 今は言葉の意味を確かめて、彼のウンチクを聞くのを避けたい私は黙ろうとした。

 ただ、それでも癪だったので嫌みを言う。


>呼んでも返事しない癖に随分ないいぐさね


 と、【記憶】は即答した。


>こっちは忙しいんだよ

 お嬢と違って色々ね。今も書庫のライブラリで動画見てたんだけど


 よし、無視しよう!

 【記憶】の経験の一部は、私も共有しているので彼が言う動画は分かった。

 彼が好きな「動く絵」のことだろう。

 私が黙ると、彼は状況を察したらしく言った。


>お、喧嘩か。ふうん…お嬢の彼氏?


>違うわよ!


 私が否定すると、決闘しようとしていたダットとヘリオス様が動いた。


「で、どうすんだ?」


 ダットが決闘方法を確認する。


「流血か降参で決しよう」


「かまわねえ」


 可哀そうに、店長が立会人として駆り出された。

――熱気が二人の周囲を包む。

 ヘリオス様は王道の構え、対するダットは変則的な構えだった。


>ヤンキーそうなパッキンの方が、喧嘩慣れしてんのな


 うるさいぞ【記憶】


>今、お嬢に割り込んでるから考え筒抜けだぜ?


 こいつ…

 私が【記憶】に腹を立てると、いよいよ決闘が始まった。


「初め」


 店長がフライパンをオタマで叩いた瞬間、両者動いた。

 先手はヘリオス様だ。斬り込んで勝敗を即座に決する積りだろう。

 傭兵の対応は、それに対して…


「!!」


 剣を受けると同時に、ダットは前蹴りを放つ。

 避けたヘリオス様も大したものだが、ダットはそのまま距離を詰める。

 上段からの打ち下ろし、ソレをヘリオス様は防ぐ。

 二人は組み合う形になり傭兵が口を開く。


「鎧着てねえのに、やるな」


「言ってろ」


 二人が離れ、両者撃剣せずに向き合う。

 ぬるりと、ダットの剣が突き出される。


 ヘリオス様はそれを払うが、ダットは剣をねじる。打撃で無く、傷を狙った一撃。

 ソイツをヘリオス様は剣のハンドガードで防いだ。


>お上手だな、赤毛


 そんなヘリオス様をダットが再度蹴飛ばす。

 回避に失敗し、たたらを踏んだヘリオス様。

 そこ目掛け流れに乗った渾身の一発をダットは繰り出す。


 私から見ても全力の横薙ぎ、それを避けるのは至難の業だ。


 避けられない流血に私が顔を強張らせた時、変な気配がした。


「…ん?」


 違和感は一瞬。

 “魔法”の発動はなかった。


 ヘリオス様やダット以外からの気配に、気を取られた私が見たのは想像を裏切るような光景だった。

 ダスンと、何処かのテーブルに何かが刺ささる。


 それは、ダットの剣の半身だった。





 ヘリオス様は剣を断ち切り、ダットの喉笛に剣を突き付けた。

 彼は言う。


「私の勝ちだ」


 どっと店内が沸いた。

 だが、私は警戒したまま【記憶】に質問する。


>ねえ、アレできる?見たやつをもう一回確認するアレ


>お安いご用さ、お嬢


 軽い【記憶】の返事の後、視界の一部に小さな窓が出来る。

 普段は、チビどもが忘れ物したり物をなくした時に重宝する力だ。


>スーパースローのプレイバック。リピートつきでござい~


 そんな【記憶】の宣言の後、先ほどの景色が映る。

 ダットの剣をヘリオス様は断ち切るような動作はしていなかった。

 ゆっくり動く中、どう見ても神技めいた動作は始まらない。


>オウイェ、こいつはスゲエ 


 【記憶】が嘆息する。

 私も同感だった。


 ダットの一撃が当たる瞬間だ。

 そこから「ヘリオス様はまるで事前に行動していたかのような」剣の振り下ろしを始めていた。

…どう考えてもあり得ない。

 私は静かに【記憶】に質問した。


>これ、あんたと同じ存在みたいなのがやったの?


>ちゃう。お嬢の言う奇跡的な物理法則であるとこの魔法だと俺は判断した

 ちな お嬢の違和感は皮膚に記録あったぜ。お嬢の言う魔力の気配だ


 それでも生身で鉄で鉄を斬るからスゲーわ、と【記憶】は〆た。

 私は、違和感を覚えつつも黙った。


>山場終わたっぽいから消えるわ……お嬢 気をつけろよ


 【記憶】はそう言うなり、返事をしなくなった。


 当面の危機は去ったのだろうと、やっと私は安堵した。

 けれど、嫌な感覚はずっと残った。





 閉店準備を軽く手伝い、マリアと二人で帰宅することになった。

 お互いに疲れていたので口数が少なかった。

 どうでもいい会話が終わった後、ボソリとマリアが言った。


「お姉ちゃん、あの貴族様どう思った?」


「ん?」


 マリアは納得してなさそうに、続ける。


「あたし……傭兵のダット君が勝つと思ってた。多分貴族様より経験上だもん」


 私は何も言わない。

 ほぼ同感だったから。

――あの、意味不明な事態さえなければ。


「運かな?剣が切れたのって」


 マリアは不思議そうに言う。


「魔法感じなかったしね」


 私は返事を返す。


「だったら、あの貴族さんすごいね」


「そうね」


 そう妹に言い聞かせるように答えつつも、私はまだ気持ちの悪さを感じていた。


…何故、ヘリオス様があんな場末の酒場にいたのだろう?


 リリシア様とあの傭兵達の関係は?

 疑問は尽きなかったが、私は考えるのをやめた。

…私には関係のない話なんだもの。

 【記憶】が引っ込んだのも危険性がないと判断してだろう。

 あんな奴だが、私の危険には誰よりも頼りになるのだから…


「なんだけどさー、あの貴族様、顔は良いのに女にデレデレしてさ」


 そう思っていると、マリアは消化不良の気持ちを私にぶつけてきた。


「まあまあ…逆の立場だったら嬉しくない?」


「私、彼氏に喧嘩させないし!」


「…ちょっと家近いから静かにしてよ、お父さんが聞いてたらヤバいから」


 私はそう妹を宥めつつ、帰り道を急いだ。

 ただ不幸かな、お父さんは【ばっちり彼氏のくだり】から話しを聞いていた。


 フル装備のお父さんは静かに、「彼氏はコロス」と繰り返した。


 その直後。

 マリアに「お父さんの、そういうところ嫌い」と言われ、お父さんは絶望した表情を浮かべ倒れた。

…私は悪くないと思いたい。



【記憶】はいい加減な男性です。正体はまた…

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