66 忍者は全裸、半裸は変態
※汚い表現が出てきます。する―しても大丈夫です。
そうして地道に階層を上がること、数階分。
私達は標準よりも随分小さいスライムを撃破した。
それから、あちこち足が欠け触覚が折れた衛生害虫の群れを倒した。
私達がそうして次の階層を進んでいると変態と出会った。
それは清浄を嫌う馬の魔物バイコーンに襲われる半裸の一行だった。
「何故!俺を!執拗に!狙う!!」
聖職者らしい少年、クライストス様?がバイコーンの角で突かれる。
そのせいで服を破られ、彼はほぼ半裸になった。
彼の仲間を見る。
魔法の直撃を受けたのか、これまた焦げた半裸のヘリオス様。
何故か脂ぎっている半裸のミコラ様もいた。
>……おっえ、おぞましい
【記憶】が言うとおりだ。
切羽詰まっている状況だから、多少緩和されているものの酷い有様であるのは事実だ。
加勢するのか?
とアナベルと、リリシアを見るとリリシアが大声を上げた。
「クライストス!ミコラ!ヘリオス!」
クライストスの表情が明るくなる。
「リリシア!良かった!」
>バカか、アイツ
【記憶】の指摘通り、クライストスは回避に失敗。
角の直撃こそ避けたが、角でかちあげられ服が破られた。
あー…こいつも完全な半裸になんのか…
「モニカ、お姫様のお願いだ」
アナベルが厭味ったらしい口調で言う。
最悪だ、本当。
「ええ」
剣を抜き、バイコーンに挑む。
バイコーンは私とアナベルを視認し、先に私を狙った角でのかちあげを繰り出す。
私は魔法を発動する。
自重操作、身体強化を同時発動。
そのままバイコーンの首を狙った。
「?!」
誰かの驚きの声の通り、首の切断は成功しなかった。
私の剣とバイコーンの角ががっつり噛みあう。
「流石だ!」
背後から金魔法を発動させながら、アナベルが杖を投擲する。
鎖に切り替わった鉄の杖がバイコーンに絡みつき締めあげる。
返事を返す間もなく剣を引き、反転させバイコーンの脳天に剣を突きたてる。
…バイコーンはそのまま消滅する。
「やるな、戦乙女」
「御冗談が上手で」
嫌みを流していると、リリシアが赤面しながら半裸族を手当てしている。
「騎士は行かなくていいのですか」
ふと、何故か嫌みの一つが口を出た。
…その時アナベルの表情が確かに変わった。
「ああ、不要だろう。従者を手当てする姫サマも良くはないか?」
私は不敵に笑うアナベルから目が離せなかった。
防御は一切期待できない。
が、パーティーメンバーの増加で迷宮の進行速度は大きく上がった。
そしてやっとのことで第一階層まで上がった彼らが見たのは。
超嬉しそうな第3王子だった。
「おお!リリシア!」
「殿下…」
あ、リリシア様が若干引いている。
「そうか、お前は俺のことを案じてくれたのか」
え、怖ッ?!
なに殿下、今の引きを嘆息だと勘違いしたの?
「ちが」
「……お前はやっぱり俺の天使だ。あの蛇みたいなカーミラとは違う」
うわー、婚約者にそんなこと言っていいのか?
そう私が引いていると、クララ様とモニカが近づいてきた。
「お姉ちゃん」
モニカは私を見てホッとしている。
ただ私は何処か暗いクララの顔を見て、嫌な予感を覚えた。
「…ゼペット様」
「ファットマン様は…まだ…」
そうか…
「待つしか出来ませんね」
クララの指摘通りだ。
どうすべきかと考えていると、王子の声が響く。
「しかしお前らどうしたんだ?揃いも揃って裸とは…恥ずかしくないのか」
あ、まともなこと言ったな殿下。
別に良いじゃん半裸。
「…申し訳ありません」
不本意そうにヘリオス様が謝罪する。
裸族は納得してない空気を出している。
が、自分が恥ずかしい格好をしていることに理解はあるのだろう。
ちょっと挙動不審だ。
「まあ、いい。ところで、珊瑚は何処だ?」
「殿下らと同行してたのでは?」
ヘリオス様でなくミコラ様が聞き返す。
殿下は悩んだ様子で、言う。
「いや…同行していない。残念だが、珊瑚とファットマンは…」
暗い空気が漂う。
名前の挙がった二人の生存は絶望的、その時だった。
「入り口近くで避難されていたのか。リリシア殿、殿下、大事ないか?」
よっこり無傷の珊瑚が現れた。
殿下ですら小傷を追って、砂塵まみれ。残る三人は半裸、対比があんまりにも酷かった。
「……珊瑚、お前」
「すまない。結構深くに落されてな。皆を心配して天井抜いて脱出したのだが。入れ違ったらしい」
謝罪こそすれ、悪びれた様子はない。
実際、珊瑚は恐ろしく強いのだろう。
聞けば、西国は領主が強くなければ下が従わず、弓馬に秀でて当然らしい。
「して、ファットマンは如何した?見ればあの御仁がいないが」
場は何とも言えない雰囲気になった。