62 主人公とモブと転生者
落下は短く、床に叩きつけられた。
身体強化を使っていたので、筋とかは痛めていないが、状況は最悪だ。
何処?
何が起きた?
混乱する中、誰かが魔法で照明を確保する。
「いたたた…何よこれ、最悪!」
見れば、リリシア様だった。
私は周囲を見る。
…マリアもクララもファットマンもいない?
「誰…?あ、ファットマンといた女の子!!」
リリシア様は、私に気が付くと慌てて周囲を見た。
第10階層の環境が、激変していた。
先ほどまでの廃坑の雰囲気は消え失せ、何処とも知れぬ洞窟と言った趣だ。
リリシア様も状況を察したのか、彼女は恐る恐る私に声をかける。
「…ねえ…貴方は?」
名乗るか、悩んだ。
>名乗ってもいいんじゃねえか? 怖がらせてるし
【記憶】が助け船を出す。
私はリリシア様にひとまず名乗ることにした。
「はじめまして、レーレロイ様。商業科のモニカ=フレイザーと申します」
若干面食らった様子だが、リリシア様も名乗る。
「どうも、私はリリシア=レーレロイよ」
お互いにそこから何を話すか迷った。
パーティーとは離れ離れ。
状況もわからない。
何を話すか迷っていると、第三者の声がした。
「おおーい!誰かいるのか!?」
中性的な声。
私とリリシア様は顔を見合わせた。
私が何か言うより先にリリシア様が言った。
「いるわ!二人よ!」
やや遠かった声だったが、距離的には近かったようだ。
松明を持った少女が走ってきた。
その人物を見て私は驚いた。
…あの視線の主だ。
「ああ、良かった。人がいて…リリシアさん?それと、君は」
冒険者のような格好をしている少女は私を見た。
彼女はリリシアと面識があるらしい。
あの飛行船舶にいた以上、彼女も貴族なのだろう。
「モニカ=フレイザーと申します」
私が名乗ると、少女は答えた。
「アナベル=ローエン、辺境伯の娘さ」
私はアナベルを見る。
彼女は怪しい。
怪しいが、何も言えない。
ただ面識があるリリシアは安心したらしい。
彼女はアナベルに確認した。
「アナベルさんも巻き込まれて?」
「うん、パーティーが分断されて…首飾りを手に入れたのに…」
「そうなんだ。私達も手に入れたんだけど…」
リリシアとアナベルは互いに首飾りを見せあう。
「……状況が状況だし、喜べないや」
アナベルはそう言い、私を見た。
「君もかい?」
「いえ、私達は手に入れる前に巻き込まれたので」
「なるほど」
アナベルは残念そうに言い、私達に提案する。
「…これからどうすべきだと思う?」
「私は…」
リリシアは言い淀む。
私も別れたパーティーが心配だが…正直何が出来るかわからない。
>…お嬢 俺はこの場所からの脱出を進言する
【記憶】が言う。
>出れるの?
>距離は観測している…本艦との距離は10階層から大きく変化はしていない。脱出の手段はあるだろう
その見解を聞き、私はアナベルとリリシア様に言った。
「私は、脱出したいです」
私が言うと、アナベルは目をつぶった。
さあ、どう出る。
「私も、先生に助けを呼びに行った方がいいと思う」
先に答えたのはリリシア様だった。
「…僕はもう少し待機してもいいと思ったんだけどね。多数決だ。二人に従うよ」
確かに安定した一つの手だ。
仲間との合流を待つ。
それは悪くないが…
「じゃあ、行きましょうか?」
空気的に流れを読んでか、リリシアが口を開いた。
私達は空気の流れの元を辿り、ゆっくりと進み始める。
皆は無事だろうか…
▽▽▽
私はアナベルに不信感を抱いていた。
そんな信用できない相手を含んだ即席パーティーだったが、思いのほか相性が良かった。
「噂になるだけある。確かに剣の腕が立つようだ」
アナベルから私に声をかけてきた。
襲いかかってきたゴブリンとコボルトの大群を退けた直後だからか、彼女の顔は紅潮している。
彼女は金魔法で己の武器である鉄の杖を変幻自在に変化させてて闘う。
出来れば、今は敵対はしたくない。
私は無難な答えを返した。
「あくまで平均です」
「鎧斬りをやって、ずいぶん自己評価が低い」
アナベルは、薄く笑いつつ言った。
値踏みするような目に、嫌悪感を覚えるが黙るしかない。
「女で武など不要でしょう」
「……そうかな?草刈でも有名な女がいるんだ。無駄ではないだろう」
同性と言うより、異性から見られてるような気がした。
「それは、アナベル様も同じでは?」
失言だと気付いたが言ってしまった。
アナベルは何も言わなかったが、空気が悪くなる。
そうとは知らず、リリシアが声を張り上げた。
「ちょっと二人とも!!遊んでないで警戒してよ!」
彼女は、怯えながら周囲を見ている。
どうやら先ほどの魔物の大群に心理的に圧倒されたらしい。
普通に、リリシアはクララより強いんだけど……?
「やれやれ、お姫様が御機嫌斜めだ。戻ろうか」
「ええ」
そう言ってアナベルは私に背を向けた。
>お嬢
【記憶】が呼んだ。
>何
>……最悪の最悪まで、あのアナベルって女と敵対するな
【記憶】が個人を警戒するのは珍しい。
私はその忠告を有り難く聞いた。
>もちろん。なんか嫌な女なのよね
>絶対だぞ
【記憶】の念押しを聞きながら、私はリリシアとアナベルの後を追った。