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多分乙女ゲームの世界だけども私は本編に興味がないしトキメキたくもない(仮)  作者: こいかわぎすけ
03 本編開始 ドキ!間違いだらけのフィールドワーク!
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61  逆ハーレムパーティーと出会ったせいで……

 迷宮(ダンジョン)に“お手洗い”は無いので、ちょっと苦労する。

 ちなみに水源近くや、安全地帯でいたすのはマナー違反なのだそうだ。

 

 とりあえず全員で警戒しながらお花を摘んだ。

 豚? 知らないけど一人でよろしくするだろ。

 

 安全第一の我がパーティーは、そのまま食事休憩を取ることにした。

 リーダーの豚曰く「王子たちより先に戻ると不味い」らしい。


「とっても美味しいです!ファットマン様!」


 マリアが出来あがった料理を褒めた。

 本音だろう。

 妹がおべっか抜きで称賛するように、意外にもファットマンは料理上手だった。

 どうやら趣味らしい。

 ダンジョン内で煮炊きするなんて自殺行為らしいのだが……

 そこはファットマンが風魔法で上手いことやっていた。

 地味に器用な男である。


迷宮(ダンジョン)で豆と干し肉の煮物が食べられるとは…


>豚 侮れないねえ…


 恐ろしいことにヤツは白パンも用意していた。

 私に迷惑をかけるが出来る男だったな、こいつは。 

 

「よかった、よかった」


 ファットマンは御満悦である。

 そうだろう、そうだろう?

 キレイどころに囲まれ、褒められれば鼻も高くなるさ。

 

「紅茶も淹れるのもお上手なんですね」


 クララも紅茶を褒める。

 そう、ファットマンの淹れる茶は美味しい。

 性格に難はあるが、茶と料理の腕は確かだ。


「いや? そうでもないよ。ちょっと今は手抜きしてる」


 耳を疑う発言が出たものの、私はスルーした。

 その後も和気あいあいと話しは弾んだ。

 意外や意外、ファットマンが野菜好きで驚愕する。

 その肉で野菜好きはないんじゃない?

 その後、クララが話題提供のために実家の貧乏エピソードを披露したのだが、途中でファットマンが止めた。

 私とマリアはクララに共感したのだが、彼としては令嬢の話題ではないとの判断したのだろう。

 えー、釣りとか野草拾いとか良いと思うんだけどな。

 

「さて…行こうか、皆」


 ファットマンが切り出す。

 食事を終え、準備を整えた私達は武器を手にする。

 皆、折り返し地点となる第10階層へと進むことにした。

   

  

▽▽▽



 第10階層から環境が激変…

 なんて事はなかった。

 変化は、ゴブリンに混じって茸の化け物が加わったことかな?

 大きなマッシュルームっぽいソレを棍棒でブッ飛ばしながら、ぼそりとマリアが言った。


「お姉ちゃん」


「ん」


 ゴブリンの眉間を剣でぶち抜きつつ、同意する。

 絶命したゴブリンは砂のように砕けていく。

 風魔法を発動しようとしていたファットマンも異変に気づいた。


「……ゼペットさん、俺の近くに」


 彼の発言はスケベ心からではない。

 警戒からだ。


「モニカ、マリア…どう思う?」


 ファットマンが十字路を指さす。

 そこに突然灯りが灯ったのなら、警戒して当然だ。

 今までの階層に、照明の類は無かった。

 あったとしても、休憩できそうな場所に冒険者が残していったカンテラが大半だ。

 目の前で突然灯るような魔力灯はなかった。

 

「妙だな」


 警戒しながら灯りに近づいたファットマンが、魔力灯を検分する。

 クララが、マップと比較する。


「地図には書かれていません」


「確認ありがとう。出迎え用に点灯ってのは……考えにくいな」


 ファットマンは、そのまま魔力灯に風魔法をぶつける。

 光が揺らめき、魔力灯が消えた。


「高度な闇魔法か光魔法による幻惑だな」


 ファットマンは断定する。

 クララは不安そうにファットマンに聞いた。


「何が起こっているんですか?」


「分からない」


 ファットマンは考え込む。

 そう私達が進むかどうかで迷った時だった。

 一際大きな炸裂音の後、人の話し声が聞こえた。



▽▽▽



「ヘリオス!突出してます!」


「構わない!ミコラ、援護を頼む」


「ほう、では俺も行こうか」


 進むか引くか私達が迷った道の奥、十字路の向こうからゴブリン二匹が逃げてきた。

 そんなゴブリンを追うように飛び出したのは、第三王子とヘリオス様だった。

 二人はゴブリンに斬りかかり、ヘリオス様はゴブリンの首を刎ねる。

 しかし王子はゴブリンに抵抗された。


「小癪な!」


 王子はそのまま「援護!」と叫んだが、援護は来なかった。

 なんとか王子はゴブリンを倒す。

 ちょっと苦労してなかった?


「ええいミコラ! 珊瑚! お前は闘わんのか!その杖やら弓やら腰の剣はなんだ!」


 どうにも、それが面白く無かったらしく、王子はプリプリと怒った。


「信じておりますから」


 珊瑚が真顔で即答し、ミコラ様はそんな珊瑚に呆れているのか眉間を揉んでいる。

 

「まったく、さぼりか!」


 王子は(なじ)るように続け、ミコラ様が宥めた。


「申し訳ありません。先ほどの状況ですと、殿下にも当たりますから」


 ミコラの謝罪で溜飲が下がったのか、王子は言う。


「むう、それはスマン…しかし何時まで私達は同じところを…お?」


 王子がこちらに気づく。

 と、後ろからリリシア様、クライストス様が走ってきた。

 どうやら追いかけていたらしい。


「ちょっと、殿下達…先走りすぎ…ってあ!!」


 リリシア様がファットマンとクララを見て声を上げる。

 驚き、そして出会いたくなかった、なんて表情に見えた。

 あ、リリシア様、豚のこと嫌いなんだ。


「悪い悪いリリシア。魔物を倒すのは貴族の義務故な…」


 王子はリリシア様に謝罪しつつ、こちらを見た。


「ファットマン、ゼペット、良いところに来た。力を貸してくれ」


 うっぁ、面倒なことになった。

 


▽▽▽



 殿下達の話をまとめると、どうやら第10階層の構造が完全に変化したらしい。

 おまけに進行ルートも変化するようだ。

 なんだそれ、あり得るの?


「はっはっは、迷ったんだ!」


 殿下はあっけらかんと言う。

 豚は、無言である。

 けど内心呆れているんだろうと、その背中を見て私は思った。

 事実豚の手は、握りこまれ真っ白だ。


「それは大変でしたね」


 豚は返事を返しつつ、ちらりと視線を私にやった。


……警戒しとけってね、はいはい。


 私は王子一行を観察する。

 ヘリオス様は剣から手を離していないし、無言でこちらを見定めていた。

 ミコラ様も杖を下げてはいない。彼も私達を警戒しているようだ。

 クライストス様はリリシア様の横で守るように立っている。

 珊瑚様は、……小石を足でふみふみしていた。


「殿下!」


 あ、リリシア様が諫めるように言った。


「すまん、リリシア」


 あれ? スゲー素直じゃん王子。


「でだ」

 

 王子はファットマンとクララ(入れ替わってるのでマリアだだ)に言う。


「ファットマン、ゼペットにも力を貸してほしい。どうにも高度な魔法のようでな」


 王子の発言を受け、ミコラ様が補足する。


「光か闇魔法による広域認識汚染です。正直、この階層で起きる現象ではありません」


 彼らの見解はファットマンと同じか。

 ココでファットマンは口を開く。


「ご説明ありがとうございます。このブタ、殿下らに協力すること吝かではございません」


 自分より偉い奴にはトコトン腰低いな、ファットマン。


「しかしながら申したいことが」


 ファットマンは言葉を止めた。

 具体的には、私とマリアに視線をやった。

 

……動けるようにしろって訴えられた。

 わかってるって、見るからに怪しいじゃん。


 私は魔法を準備し、マリアも棍棒の柄に手をやる。


「殿下ら、7人に協力すればよろしいので?」


 7人。

 そうハッキリと、ファットマンは言った。

 

「7人?何を言う、ファットマン」


 殿下が言った瞬間だった。

 ファットマンが声を張り上げる。


「殿下、無礼をお許しください。モニカ!マリア!クララ! 撤退する!」


 その巨体から放たれる大声を合図に、私もマリアも動いた。

 マリアはクララを強引に引っ張り棍棒を肩に背負う、私も剣を構え背後へ飛ぶ。

 おそらく直感だろう。

 ヘリオス様、珊瑚様が武器に手をかけた。



 瞬間、世界が反転した。



 リリシア様、クララが悲鳴を上げる。

 文字通り、私達がいる場所の天地が逆転したのだ。

 周囲の照明が一気に消え失せる。

 完全な闇の中…私達は落ちていくこととなった。



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