60 ハーレムパーティー迷宮を行く
仕事の激化で飛んでました。
再開いたします。
冒険者ギルド前で厳正なくじ引きが行われた。
見ればチーム割はバラバラだった。
が、6名を超えなければ問題とされなかった。
中には単独で潜る猛者もいる。
【記憶】が「ボッチがんばれ」と応援していたのだが、理解できなかった。
さて、リーダーとなった豚が引いたクジの番号はちょうど真ん中。
ちなみに豚の子分である三馬鹿は豚と番号が引き離された為、涙目である。
アイツら等、見るからに荒事向いてなさそうだもんなー。
まあ、がんばれ。
それと……当然の事だったが、私達はハーレムパーティだ。
その為、豚は男女ともに反感を買ったようである。
心なしか男子からの視線の方が厳しい。
そんな具合に無難な番号を手に入れた抽選結果だった。
当日に迷宮に挑戦する私達一行。
実は、一つだけ問題が在った。
「…………殿下達の後ってねえ」
「ちょっと気を使いますね。ファットマン様」
心底嫌そうな豚。
クララも微妙そうだ。
私達姉妹は接点が無いのでよくわからない。
が、貴族の二人は何か懸念があるのだろう。
「ファットマン様?」
私が声をかけると、豚は小声で言った。
「殿下らは、少々好戦的でね。まあ実力もあるのだけど…」
嗚呼、巻き添えを懸念しているのか。
「念の為、回復薬は多めに買っている。けど注意はしておいてくれ」
ファットマンはそう言って締めると、チーム全員を見て言った。
「さて、準備は済ませた。後は潜るだけだな」
私は、全員の装備を見る。
豚は堅実な装備をしていた。
動きやすさ優先のハードレザーの胸当てに、同じく革の手甲足甲を装備し、巨大な背嚢を背負っている。
武器は、短剣二本。
予備武器のダガーは革ベルトでたすき掛けにして胴体にくくりつけている。
ちょっとオークっぽいのが残念だが、鉄板装備と言えよう。
……問題あるのは女性陣だよねー?
私は豚に無言の圧力をかけながら、自分の格好を見る。
黒塗りの鋼鉄の胸当ては良い。
重量を嫌ったので、頭の鉢金も良い。
でもさ、黒インナーで無駄なスカートとロングブーツを選んだのは何故?
理由が知りたい。
趣味か、豚よ。
>おべべ用意してもらって文句垂れる お嬢 俺ちゃんちょっとないなーと思う
>あんたね
>良いじゃん、コスを楽しもうぜ?
スケベ親父モードの【記憶】を無視する。
私はマリアを見る。クララと入れ替わり済みの彼女は魔法使いテンプレのローブを羽織っている。
足元はブーツとスリット入りのスカートで固めている。
なおレギンスは黒だ。
趣味だろ?豚。
クララになり替わったマリアは、私同様の鉄の胸当てに、短パン。
黒い長靴下とブーツを合わせている。
獲物である棍棒(気に入った剣が見つからなかったので本人が希望した)は、ダンジョンに入ってから使わないとクララの印象を破壊しかねないと、今は豚が預かっていた。
よりオーク臭を加速させているが……
豚よ、自覚あるの?
なお、これら女性陣の格好の費用は全て豚の自腹だ。
豚さあ、父親の事を女好きって否定できないぞ。
>豚 下着は黒が好きなのか…
【記憶】がどうでもいいことを呟く。
>ハーレムパーチーだけど、客観的に見るとアレだな 盗賊一行か、オークにくッ殺される女パーティにしか見えん
言わないでよ、気にしているんだから。
あとくッ殺ってなによ?
メイン武器である鉄剣の握りを確かめながら、私はぽっかりと空いた迷宮を見る。さて、どうなることか。
▽▽▽
>課金装備?
と【記憶】が指摘した王子たちの一行が先に迷宮へと消えていった。
教員から最終説明を受けた私達も、後へと続く。
迷宮内部はじっとりと湿気た空気が漂っていた。
ややカビ臭い。
「魔力灯は温存する」
手早く豚は松明を着火した。
その後ろで、クララが地図を開く。
「ファットマン様、戦略は?」
「打ち合わせ通りだ。前衛にフレイザー姉妹」
ファットマンはマリアに棍棒を手渡しつつ続ける。
「中衛は俺、後衛にゼペットさんだ。ゼペットさんは自衛と回復だけに専念してくれ。クララはこまめな回復をたのむ」
おい、豚。
私には無いのか?
「モニカは強化魔法の使用の際に知らせてくれ、切れる時じゃなく切れそうだと分かったら直ぐだ」
「はい」
返事を返しつつ、私も剣を抜く。
腰のカンテラの火を確かめ、軽く振る。
上等な剣だ。
少々荒く扱っても問題ない。
「行こう。安全第一。命だいじに」
見かけはオークの山賊。
なのに、小心者な宣言を豚はして、私達は第10階層までの攻略にかかった。
この迷宮、手入れされているだけあった。
廃坑の雰囲気を漂わせつつも、要所は木材で補強されているし、目印も多い。
進みは悪くない。
時折暗がりから出てくる魔物……ここはゴブリンか?
クララを除いて全員が軽く魔物をノして行く。
安全を確保し、階段を見つけては進む。その繰り返しだ。
>お嬢 休憩っぽいぞ
>ん?
見れば、体力的に限界が近かったクララを甲斐甲斐しく豚が世話している。
私達はゴブリンを群れを殲滅すると、9階層で休息を取ることとなった。
まだ、折り返しのパーティにはまだ出会ってない。
その事を考えると、意外と他パーティーは苦戦しているようだ。
>魔物って何よ?
マリアは棍棒のチェック中だし、私は豚から受け取った水を飲んでいたので若干余裕がある。
だからだろう、【記憶】が質問をぶつけてきた。
>存在を模倣する悪しき魔力の塊とされてるわね
>生き物とは違うのか?
>生きてるんだろうけど、殺すと死体の大半が消えるからね
>はー… ますます怪しいな
【記憶】の発現に私は言い返す。
>存在自体意味不明なあんたに言われたくないし
そう言った後で、私はふと思い出す。
>と言うか、聞くの忘れてた。あんた魔法使って大丈夫だったの?
鎧騒動の後、心配かけたが大丈夫と【記憶】は言ったが、今一つ私は信じられなかった。
>大丈夫だぜ? 俺ちゃん超元気 あとお嬢の体を借りねえと魔法は使えねえから安心してくれ
>嘘くさ
>酷い!
【記憶】との会話が一段落したところで、豚が私を見た。
「どうかされました?」
「ああ、ちょっとな」
ファットマンはクララを見る。
クララは気まずそうに言った。
「少々、気分が悪くて…」
そんなクララに何時打ち解けたのか、気安い感じでマリアは声をかける。
「大丈夫ですか?クララ様」
「ええ、大丈夫ですマリア」
二人を見て私は、本当によく似ていると改めて思った。
一応見分けがついているけど、気を抜くと姉なのに間違えそうだ…
「しばらく待機するか」
ファットマンが提案すると皆賛成した。