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06  酒場にて_前

 買い物は無事に終わった。

 食糧庫に野菜やパンを仕舞こむ。


 ふと見ると、衣類が恐ろしく綺麗に畳まれていた。

 お母さんの、謎の家事スキルを見せつけられつつも(驚くことに私よりも家事全般がプロ並みに上手い)タンスに収納する。

 そのまま部屋でも掃除するかと思っていると、ウエルが来た。


「モニカねーちゃん」


「どうしたウエル?」


「今、豪傑の庵のコック見習いさんから伝言あったんだ」


あら、珍し。


「マリアねーちゃんが、モニカねーちゃんにお店に手伝いに来てだって」


 店に来い?

 変なこともあるなと思いつつ、私はウエルに質問する。


「ウェーターが足んないの?」


「うん。そうみたい。マリア姉が言うには、夕飯はジーン姉かカメリア姉がやれってさ」


「……ウエル、お小遣い戸棚に入れとくから。あの二人が作んなかったら、それでお父さんとウエルとマナの分は買ってきて。余ったらお釣りは好きにしていいから」


「わかった」


 私は、お金を戸棚に入れると豪傑の庵へと向かった。


 


 スラム街と平民街の境、宿屋【愚者で荒くれ】の酒場【豪傑の庵】。

 私が店にヘルプに入った時は確かにピークだった。


 ひたすらに忙しかった。


 どうやら敵国に戦勝した辺境伯の子飼いの傭兵団が一気に流れ込んだらしい。

 厨房も店内も慌ただしく、比例してお客は楽しそうである。

 私もお仕着せの制服そっけないスカートとブラウスにエプロンを着ると、ぺっぺと配膳していく。


 セクハラ野郎には脛に蹴り。

 スケベ爺は言葉であしらう。

 お待ちのお客はさっさとエールを注いでいく。


――終わりが見えないほど忙しい!


「アリガト!おねーちゃん!」


「早く2番テーブル!」


「はぁい!」


 三角巾にポニテ姿のマリアを急かしつつ、年増のウエーター陣に混じってサバいていく。

 宿の方を担当している女将さんも、店長の嫁さんも、今がピークだと分かっているようだ。

 店にいる全店員が忙しそうにしている。


…こりゃ私も、気を抜けないな。


「黒髪の別嬪さん!こっちに蒸留酒!」


「あいよ!イケてる兄さん、瓶でいい?ジョッキは何個いる?」


「4個だ!」


 ゴリゴリ筋肉の傭兵に蒸留酒を渡しつつ、私は厨房へ料理を取りに下がった。



 夜も深けてきた。

 食事の客は部屋に戻り、飲兵衛どもも注文が減ってきた。

 どうやら山を越えたようだ。

 と、思っていると、氷水を片手に妹がやってきた。


「はいお水」


「気がきくね、妹よ」


「いいってことよ!」


モニカはそう笑ってから言った。


「来てくれて、ありがとお姉ちゃん」


「いいよ、別に」


 氷水を片手に落ち着く。

 

「美人二人ー、こっちきてお酌してくれよ!!」


 訂正。酔っぱらいが鬱陶しい。


「私たち高いから、ごめんねー!!」


 マリアがおっさんらに返し、どっと笑いが上がる。

 「振られてやがんの」そう茶化す声が聞こえる。


「お姉ちゃんいなければヤバかったよ」


「そう言ってくれてるだけでも、うれしいね」


 そう私がグビリと水を飲んだ時だった。

――怒声が上がった。

 喧嘩か?そう思った時にはテーブルの一つがひっくり返る。


「……なんつった」


「彼女へ謝罪しろと言ったんだ」


 若い傭兵と、これまた若い男が向き合う。

 その若い男を見て、私は血の気が引いた。


「ヘリオ…」


 ヘリオス様と、リリシア様である。


――待て待て待て…!!なんでこんな庶民店に、御曹司がいるんだ!!


「忍びで来て黙っていた。が、彼女と彼女の家族への侮辱は謝罪してもらおう」


「レーレロイ準伯爵の軍の批判で食いつくってことは、縁者か?」


「近しいものだ」


 ヘリオス様に向き合うのは若い男だった。

 プラチナの髪をした色男だ。顔つきは繊細だが、顔に傷が残り男らしくはある。

 そして傭兵稼業で鍛えた体は厚みがある。いい筋肉だ。


 隣でマリアが、


「かっこいい…貴族の方も、ダット君も」


 と胸キュンしていなければもっと良かった。


 なるほど、彼はダットと言うらしい。

 そんなダットはヘリオス様に噛みつく。


「発言を取り消して謝罪しろと?」


「そうだ。貴様が言うように、レーレロイ殿は腰ぬけでもないし、女好きでもない」


「はっ…事実戦下手だろうが?時代錯誤の突撃でどれだけ被害が出たか!それに、防御から攻勢に転じるまで時間がかかったのは事実だろうよ。で、そのせいで俺らに被害が出た。言って当然のことだろ」


 若いダットは物応じせず、貴族への批判を続ける。

 ダット…それに同意する傭兵の話を信じるなら、確かに事実なのだろう。

 が、貴族相手にはとんでもない悪手だった。


「言ったな。抜け」


 ヘリオス様が、帯びていた剣を抜く。


…おいおいおい、場末で決闘か?!


 私が目を剥くと、相手も買った。


「望むところだ。女にええかっこしいのクソヤロウ」


 ここにいるのは酒の入った馬鹿ばかり。

 相手が大貴族の子弟だと知るのは私とリリシア様だけの酒場で、こうして決闘が始まった。


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