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51  終わった後で

「……」


「……」


>おい何か話せ お嬢 コワモテ気味の男女が無言って 俺ちゃんちょっと胃が痛くなる


 私は今、ボイドの病室を見舞いに来て話題に困っていた。

 ファットマンの侍医は町医者も経営しており、その一室をボイドは与えられていた。


「その…」


「うん」


 ボイドは痛々しい姿だ。

 包帯ぐるぐる巻き、右手は完全固定だ。

 回復魔法は、あくまで癒しが主体だ。疲労と痛みを消す。

 もちろん名前の通り回復の効果もある。

 だが流した血肉をすぐさま補うほど強力でもない。

 そこまで至れば蘇生術だが、この魔法の使い手はあんまりにも少ない。

 私は、あれからの顛末をボイドと改めて確認しあうことにした。


「あれから何があったか覚えてる?」


「ざっと聞いた。アルが鎧を倒したんだろう?洗脳解くのが大変だったとも聞いた」


「そうよ…オハラさんがいなかったら不味かった」


 ボイドの記憶はそこまでだろう。

 あの直後は酷い状況だった。アルはそのままぶっ倒れ、ボイドも半死人。

 豚は彼の父上にかかりっきり、命があったのも運が良かったからだ。

 病院に駆けこめたからよかったものの、下手したらボイドは右腕がなくなっていたらしい。


「師匠は強いからな」


 うんうんと頷いて、ボイドは口を曲げる。痛かったらしい。


「で今、その後が問題なわけ」


「ん?当主殿は無事だと聞いたが」


「引退宣言したのよ。豚が当主に指名されて屋敷はてんてこまい」


 ボイドは無事な左手で腹をさすりながら、言う。


「………早い、早いぞ」


「豚と同じこと言うのね」


「アイツもか?」


 私は、豚に思うところがあったのでヤツの絶叫を真似してやった。


「ええ『ざけんな!なんて時期が悪い時に言い出すんだ、あのボケ!屋敷の再建!周囲への釈明?!下手人への対策が必要だってときにやるとか糞だろ!まだ俺は学生だぞ?!』って取り乱してた」


「見えるようだ…」


 ボイドは遠い目をする。


「でしょ?今、四方八方に手を回してるみたいだけど…伯爵さまになるのは確定みたいよ」


「……早いな、王家の承認が出るかどうか」


 ボイドはそう尻すぼみに言って、私の顔を見た。


「何?」


「いや、なんでもない」


「はっきりしないわね」


 私が言うと、ボイドは慌てた様子で言った。


「なっ、なんでもない」


「ま、とりあえず私はこれでお役目ごめんね。長いお仕事だったわ」


 そう言うと、ボイドは軽く咳払いした。


「……そのモニカ」


「何?」


「アルと、メイド長は?」


 ああ、ボイドが気にしていた理由を察した。


「無事よ。もっともメイド長は入院してるけど」


 メイド長はズタボロだった。


「アルは?」


 アルに鎧を任せたことにボイドは負い目を覚えているらしい。

 私は、弟の現状を伝えた。


「豚に呼び出されてる」


「何故?」


 はぐらかそうとしたけれど、私はボイドには教えてやることにした。


「…屋敷の修理費の件で詰められてるの」


 ボイドの目が真ん丸くなる。


「はい?何故?」


「私もアンタも屋敷の意識した破壊まではやらなかったじゃない」


 天井を蹴り割り、壁を一枚ぶち抜いてる私も気分のいい話で無いが続ける。


「でも…愚弟は、まあその色々壊しまくったわけよ、やむをえぬと言え」


 鎧と大立ち回りすれば当然の話だが、アルが叩かれるのは訳がある。


「あんたも、基本魔法を発動する時、発火しないように抑えてたじゃないの?」


「ああ、火の手は危険だからな」


「だよね。でも、鎧に止めを刺す時の愚弟は違ったわけよ…

 倒した功績は大きいけど、魔法の余波で屋敷の残骸が延焼したわけ」


 ボイドはうめくように視線を下ろした。


「……まさか」


「そ…賠償金出せって叩かれてる訳」


 ボイドは言う。


「り理不尽じゃないか?」


「でも叱責は必要でしょう?オハラさんと、執事が宥めてるんだけど、豚が屋敷の再建費を計算したせいで…」


「アル…」


 二人して沈黙する。

 私は姉として弟の借金がつらい。

 ボイドも片棒を担いだようなものだから、いたたまれないのだろう。


「…俺が貴族だったらなぁ、ファットマンの力になれるんだが」


「元でしょ。と言うか、貴族のままだったら私とここまで絡まなかったでしょうに」


 そう上げ足をとると、ボイドは私を見た。

 何故? こいつ私をよく見てねえか?


「違いない。けど、モニカとこうして話せる今は悪くない」


 私は、目の前の少年を見た。

 自然体に口説き文句的な事を言われ、正直驚いた。


「……ボイドさ、私のことなんだと思ってんの?」


 自分が変な気分にさせられたので、聞いてしまった。

 ボイドは、答える。


「気なる相手だ、出来れば友人になりたい」


 さらりと答えて、ボイドは固められた右手を上げた。


「剣の稽古もしたいな、馬を遠乗りもしたい」


「……私、武芸者でもなんでもないんだけど」


 友人になりたいと言われて私はびっくりしていたが、なんとか言い返した。

 ボイドは言う。


「そうだろうな。でも、俺は友人としてモニカのいろんな顔が見たい」


 顔が熱くなる気がした。




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