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50  妖精からの愛の発露

 敵の鎧は今にも壊れそうだった。

 好機とばかりにオハラと呼ばれた年寄りの魔法使いが、後方から土の槍を打ちこむ。

 だが、倒すには至らない。破損しかけた腕でそれでも槍を振い抵抗する。

 ファットマンは、オハラの援護でケリーを抱えて戻ってくる。


 あと少しで倒せる、そんな状況だったが…


「…無念」


 オハラが呟いたのは何ゆえか?

 私はいつの間にか記憶から体の主導権を取り戻していたので、彼を見た。

 戻ってきたファットマンも言う。


「…上出来だな、コレは」


 見れば、オハラは四方から剣を向けられていた。

 あの敵の鎧は、この最後に洗脳して洗脳を発揮していなかった私兵にオハラの無力化を行ったのだ。オハラはファットマンを守らねばならない。だが、囲まれたとあってはソレも難しい。自身を守ればファットマンが死ぬという悪辣な手だ。


「若、手前も老いました」


 オハラは詫びた。


「…言うな」


 ファットマンは敵の鎧を見る。

 私たちの周りにも、操られた残りの私兵がやってくる。

 ボイドは既に意識が無い。

 何故か【記憶】は黙ったままだ。

 私は彼を呼ぼうとするが、一つの最悪な想像に至った。


――まさか…魔力切れ?


 【記憶】がなんで動いているかは私には理解できない。

 だが、彼も魔力を持つと言うのは、先ほどの魔法行使で分かった。

 あの時、確かに私の体からは魔力は抜けなかったのだ。

 初めて魔法を覚えた魔法使いによるある、失敗がこんなところで最悪の結果を産むとは。

 私はどうするか悩んだ。

 ボイドを捨て、自分一人だけ逃げる――?

 そう考えてしまう中、敵の鎧は投げ槍のための動作に入った。

 

「仕留めにきた…」

  

 私は身を固くし、自分を含んだ誰かが死ぬ最悪を想定した。

 けれど、その槍が投じされるより先に、知った声が轟いた。


「ソレをしたら、お前を殺す」


 ぞっとするような声だ。

 瓦礫を蹴りのけ、アルはズタボロにも関わらず鎧に向かい歩いていく。


 彼の背後からはおぞましいまでの魔力が見える。

 目視すら、通常ならば叶わないソレを弟はやってのける。

 周囲に散るのは妖精の鱗粉。

 妖精を目視したのか、ファットマンが言う。


「妖精どもが…」


 弟の相貌は、修羅(オーガ)のごとく。

 突き刺さった剣を引き抜き、焦げた衣を考えずアルは言葉を続ける。


「姉ちゃん、ミリベル、ケリー…」


 アルの現状は動けるような怪我ではない。

 だがアルが一歩進むごとに、その体の傷からドス黒い炎が上がりながら癒えていく。


「俺の周りに手ぇ出したんだ…分かってんな」


 ただ溢れ出る魔力を纏い、アルは剣を両手で構えた。


「歯ァ食いしばれ!!」


 小規模な太陽、あるいは曠野を打つ雷光。

 ソレらに匹敵するかのような膨大な魔力を、身体強化につぎ込みアルは跳んだ。


「?!!」


 次の瞬間、鎧が大きく後退する。

 それは夢物語の終わりだった―――生身で鎧を打倒する。

 英雄譚として吟遊詩人が歌い、それを成す騎士や冒険者を人は英雄(かいぶつ)と呼


んだ。


「まだだ!!」


 魔力を刀身にまとわせ、人の膂力の限界を突破したアルは止まらない。

 二つ目で鎧の左腕がひしゃげた。

 逃げるような鎧の右腕の矛の突きが繰り出される。アルは、それを片手で柄を掴み取り


止めた。

 鎧の手より火花を散らせながら、矛をアルは奪う。 

 鎧の指があり得ない方向に曲がる中、弟は槍を背負うように構える。

 目視できるほど圧縮された魔力が、奔流となって矛にまとわりつく。


―――身の丈を超える魔力を纏った特大剣のさながらの矛を、弟は魔法を発動しながら振


りぬいた。


 小規模な日輪のごとき火魔法。それによる薙ぎ払いが周囲を深紅に染めた。




 轟音の直撃で耳が不快な高音を感じ続けていた……

 余波の熱風が一陣の風にのって流れると、そこに残っていたのは矛の石突きを地面に突


き刺すアルだけだった。

 私は、半壊し炎上する屋敷を背負って立つ彼の姿を見た。


多くの神話において英雄は、加護や祝福を得ます。

ギリシアでも、この日本でも。

しかしながら、それが愛や執着の場合多くは破滅も抱える羽目になります。

ミダス王、反魂香、強請って得たものは人の手にあまるものが多いようで…

怪力もまた、神秘に近しく、怪談で謳われもしました。

はて、では弟君は一体何に祝福されたでありましょうや。

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