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05  イケメンは眺めるもの

 朝の鐘で目を覚ました。

 手早く寝具を整えると、隣で寝ているマリアを起こす。

 そのまま朝食と弁当を仕上げ、チビどもを起こしにかかる。

 朝の弱い、カメリアとジーンに私がキレかかっていると、その横をウェルキンがマナの手を引いて洗面所へと連れて行くのが見えた。

 

 ウェルはマジ天使だわ…

 

 慌ただしく全員に朝食を配膳していると、お父さんがいない。


「……」


 嫌な予感がして工房へ向かうと、お父さんがぶっ倒れていた。

 血の気が引いたが、寝息を立て寝ているのが分かりホッとする。

…本当に徹夜したようだ。毛布は母さんがかけてあげたのだろう。


 鎧の納品は今日の筈だ。


 何度か揺すったが起きないお父さんに業を煮やした私は、容赦なくお父さんのお腹を踏んで起こす(娘の生足ハアハアと言う寝言が聞こえた)。


 あんまりにもキモかったので、お父さんを放置したまま私が戻ろうとするとマナの泣き声が聞こえた。


「おねえぢゃんのばああああがぁー」


 妹のどちらかが、やらかしたらしい。

 そんな中、バタバタとマリアが出ていく。


「お姉ちゃん!私行くから!」


「行ってらっしゃい」


「目が死んでるよ!じゃあ行ってくるね!」


…そうか目が死んでるのか。

 私はそんなことを考えながらリビングへと戻った。

 マナの皿に自分が嫌いな野菜を盛ったジーンとカメリアを叱り、服を汚したマナを着替えさせる。

 ウェルキンにマナを託して協会教室に送り出す。

 それからジーンとカメリアを初等学校行きの辻馬車に乗せ、私は洗濯を行う。

 全員分の洗濯はしんどいが、やるしかない。

 学園遅刻するかもなと、私は絶望的な気分になった。




 寝ているだろう、お母さんに洗濯の取り込みを任せ、学園に登校する。

 ギリギリ間に合った私がドカリと教室の席に座ると、知った顔が声をかけてくる。


「おはよ、モニカ。今日はぎりぎりじゃない」


「おはようセリーヌ」


 私はふっくらとした見た目の彼女に返事を返す。

 セリーヌは私の友達だ。

 お父さんがこの旧都平民街のパン屋ギルドのトップの為、実は彼女はそこいらの貧乏令嬢よりもお金持ちだったりする。

 けれど、そんな金持ち自慢はほとんどなく気さくに付き合えるいい子だった。


「……家事が溜まってたのよ」


 私が思わず愚痴をこぼすと、セリーヌは同情する。


「大家族だもんね、モニカん家。……アスタおじさんもマルガレータおばさんも稼いでるのにね」


「…貯金が趣味だから、お父さんお母さん」


 私はボヤく。

 本当はハウスメイドを雇えるくらい、お金に余裕がある両親なのだ。

 が、二人は断固として、メイドやお手伝いさんを雇うことをしなかった。

 未だに、その理由が分からない私が一番割を被っていた。


「教育熱心だと思うんだけどね?長女や長男以外も初等学校に行かせてるんでしょ?」


 否定できなかった。

 この国だと6~8歳で通い始める協会教室。

 それから、もっと勉強したい子供は12から初等学校に通い出す。

 15の成人を迎えると16歳から私学や王立学校で学び、本格的に官僚や軍人を目指すものが大学の門を叩くことになる。

…基本勉強しようと思うと協会教室から金がかかる。うちは例外であろう。

 この国は識字率はあまり良くないし、学びというものは高いものである。


「本人たちは何も思ってないみたい。薬屋とギルドでバイトするくらいだもん」


 とはいえ、それを当たり前と思う我が妹たち。

 奴らは、あまり感謝していなかった。

 なので思わずセリーヌに愚痴ってしまった。


「商業化で学ぶ、姉のモニカに似たんだよ」


 そう言われて私は笑った。

 ちなみに私たちのクラスは、商業科である。

 通っている学生の多くは商家や職人の子弟が多い。

 だからだろうか?まじめな生徒が多い気がする。


「かなぁ?」


 自信が持てなくて、そう言うとセリーヌは笑ったまま言う。


「モニカは家族愛が深いからね」


「恥ずかしいって」


 照れていると、予鈴が鳴った。

 遅れることなく、お爺ちゃん貴族である数学の先生がやってきた。

 私は鞄から石版とろう石を取り出すと、授業に集中することにした。



 数学、簿記、外国語の授業を終えると終業の鐘が鳴った。

 商業化は基本、昼には終業することになっている。

 これも商人・職人の子弟が多い為だった。

 基本的に、親の家業を手伝えるスケジュールで組まれている。

 

 セリーヌが遊びに来ないかと誘ったが、買い物が在った私は断った。


 そのままセリーヌと分かれ正門に向かう。

 すると間が悪くランチか何かで学園を抜けようとする貴族の生徒たちの列に出会ってしまった。

 馬車寄せに大量の馬車が並んでいる。

 どうやら迎えのラッシュだったらしい。


 あー…めんどくさいな…


 と思いながら、貴族の皆さまと視線を合わさないようにして抜けていく。


「そういえば聞きました?」

「ええ、ゼペット嬢がまた…」

「顔と体で続けているような家ですもの」


 断片的に聞こる姦しい女子たちの声を聞き流していたが、嫌でも耳に入ってしまう。

 そうして門の近くまで来た時だ。

 背後で「わっ」と声が上がった。

 なんだろうと振り返って見ると、見るからに仕立ての良い馬車が並びを無視して横付けする。


…どうやら素晴らしく高貴な家の馬車らしい。


「ヘリオス様の御迎えだわ」


 ソレを聞いて納得する。

 そういえばこの学園、けっこう偉い人の子息が通っていた。

 

 第三皇子 大将令息 枢機卿嫡子 遠い西国大貴族の嫡子 魔法学校学長実子…

 侯爵令嬢も3人いるんだったか?

 

 私は足を止める。不敬と言われるのはたまったものではないからだ。

 記憶が正しければ、ヘリオス様は貴族のクラスである教養科の在席。

 更に現国軍大将である公爵の長男と言う、何処から見ても貴公子だ。

 そんな王の縁戚でもある貴人は、真っ赤な髪の毛のイケメンさんだ。


…眼福やー 


 今はいないけどアル(上の弟)や、天使のウエル(下の弟)とは違ったイケメン。

 その美貌にニヨニヨしていると、彼は一人の少女をエスコートしだした。


「まぁ!あの人は!」


 後ろの姦しい三人娘が声を上げる。


「レーレロイ準伯爵の養女のリリシアさんですわね」

「あんな人がなぜ…」

「市井育ちの、もの知らずを無垢と誤解されてるんですわ」


 私はリリシア嬢を見る。

 ピンクオレンジ髪のかわいい子だ。

 クリクリの目に守ってあげたいオーラが半端ない。


…一部分はすげー凶悪なものつけてるけどね。あれ、男の子がドギマギするアカンやつだ。


 二人はそのまま馬車に乗り込む。

 私はいいもん見たと思うと買い物して帰宅することにした。


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