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47  神秘の再現

 私たちは屋敷から脱出し、庭園に集まっていた。

 ケリーちゃんは応援を呼ぶことに成功したらしい。

 私兵に囲まれながら彼女はミリベルちゃんと共に私兵に説明している。

 その脇では、駆けつけた医者が当主デヴィド=シニアの応急処置を行っていた。

 すこし痩せたように見える豚は、庭師と私兵の頭を呼びつけ情報をまとめているようだ。 

 ボイドの姿は、見えなかった。

 振り返れば私の後ろでへたり込んでいた。

 場の緊張感は薄れていなかったが、戦いのなかのわずかな小康であるのは間違いなかった。


>ちょっと


>………


 気になることがあった私はこの隙に【記憶】に問い合わせるが、彼は返事をしない。

 ボッド、あの変形する金属の球を放置したからだろうか?


>ねえ


>……すまん ちょっと考えてた 


 【記憶】が詫びる。


>ボットでアルを助けられない?


 私が問うと、【記憶】は返答する。


>助ける必要があるか? …いや見せるのが早いわ ちょっと、視界の端に配信繋ぐ


 言うが早いか、何時もの記憶プレイバックのように画像が見える。

 そこで見えたのは、善戦する弟の姿だった。


>……お嬢 質問だ


>良いわよ


 私は闘う弟の姿を見ながら返事を返す。

 姉としては気が気でないが、あの激しい戦闘についていける自信は無かったからだ。


>弟君の あー…なんだ?爆発する魔法が敵の鎧に効いてるように俺は見える


>でしょうね


>じゃあ何故 無表情の魔法が効果なかったんだ? いや そもそも決闘の時にお嬢を鎧ごとぶっ殺した実績があるのになーんで効果が薄い?


 私は【記憶】に説明する。

 

>炉の拡大効果が無いからでしょ


>拡大ィ? なんじゃそりゃ


>鎧を通して魔法を放つと、生身より強化されるの。鎧は杖の機能もあるから


>…昔聞いたが、魔法が魔力を消費して放つのは分かる 


 私も【記憶】も弟の魔法を見ていた。

 私が推測するに、弟は身体強化(フィジカルブースト)と魔力を直接動きに変える動力変換モーションチャージャーを重複使用して膂力を底上げしていた。そして剣戟そのものを火と水の混合魔法で打ち出すという、自爆覚悟の魔法行使を行うことで打撃力を稼いでいた。

 

>んじゃ弟氏のアレは何よ?


>魔法ね


>……物理法則に反してら 無表情は通らなくて弟君は通るってか…


 なんとなく【記憶】の気持ちを察した。

 彼は基本魔法に対して懐疑派だ。

 何もないところから何かを出すのが信じられないらしい。

 で、また彼の常識が混乱したのだろう。


「あ」


 声が出た。

 らちが明かぬと鎧はアルを無視したのだ。

 光魔法の行使で視界が白く飛んだ直後、屋敷の壁が崩落した。


「出るぞ!!」


 用意された鎧と私兵が敵の鎧に殺到する。

 迎撃の態勢を取られたなか、鎧がこちらを見た気がした。


「?!」


 再度の光魔法。視界が潰れる中、【記憶】が言う。


>逃げろお嬢! やっこ、なんでか知らんがお嬢を狙ってる!


>はあッ?!


 視界が回復すると同時、鎧が視界いっぱいに飛び込む。

 既に鎧は槍の不利に入っている。これは…まず…


>悪い!


 記憶の宣言と同時、体の感覚が消え失せる。

 主導権を記憶が奪い取ったようだ。だが、余裕がないのか目は動かせないものの私の意識は残っていた。


>筺体の負荷許容の限界を撤廃 かつ 記憶の復元を実行 暫定観測動作身体強化(フィジカルブースト)運動補助(モーションアシスト)自重操作ウェエイトコントロール


 私の驚愕は如何なものか。【記憶】は、私の体で完全に魔法を操った。

 何時もならば魔力が失われる感覚があるのだが、それすら感じない。


 驚く私の意識とは間逆に、私の体は神技めいた動きを行う。


―――振り抜かれる槍が接触するその前に、自分では決して出来ない体さばきで私は飛び上がった。【記憶】は零す。


>なるほど


 何に対しての納得か。

 私が問い質す暇もなく、私の体は疾駆する。

 鎧の攻撃に当たれば私達はひき肉確定である。その攻撃を私の体は何度も避ける。

 突きを避け、薙ぎ払いを飛び越え、打ち下ろしを見切る。

 既に四度を超える連撃を【記憶】は私以上の動きで捌き切った。


>来るわ!


 直感から【記憶】に叫んだ。

 光魔法が放たれる。しかし、【記憶】は私の腕で顔を覆って回避する。

 その後のフェイント混じりの突きすらも、捌いて見せた。

 これは――行けるのではないか?

 私の視界は敵の鎧がファットマン家所有の鎧に斬りかかられるのを捕えていた。

 【記憶】も視認していたはずだ。

 だが、意外な声が轟いた。


「モニカ!」


 ボイドの声がする。

 鎧は捌いた筈だが? 首だけ振り返ると、私を突き飛ばそうとするボイドと…

 剣を持つ、ミリベルちゃんの姿が見えた。


「え?」


 バッと、私の前で鮮血が散った。

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