45 脳筋たる弟
>声帯欺瞞完了 目標点へ ボッド HAKM-RGS-075Tの到着を確認
死の接近を知り視界が戻らない中、【記憶】の声が聞こえる。
>タイムアウトだ お嬢 無表情の声で呼んで正解だった
何時になく冷たい声だった。
>…これより本艦は戦闘態勢に入る 作戦目標は敵対勢力の排除
体は動くが、【記憶】の宣言通りもはや彼に縋る以外対処が出来ないのは事実だった。
>最優先は救出対象の回―――あ?
【記憶】が初めて私と出会った時のような、硬質な口調で命令が下され…なかった。
>ちょ?どうしたのよ?!
私が【記憶】に問いだたすより先に、私のよく知る男の大声がとどろく。
「何やってんだ!!鉄屑が!!」
その声の主を何とか見る。
愚弟は空中に飛び上がった勢いそのままに…鎧のド頭に蹴りを入れた。
視界が戻る中、鎧と弟は激戦を繰り広げる。
「……」
ふと静かだと思うと、ミリベルは目を輝かせて言いかけて――叫んだ!
「アル!!」
弟は返事こそ返さなかったが、鎧の打ち下ろしをただの剣一本の振りで受け止める。
爆破音じみた衝突による音が鳴り、床が抜けなかったのは奇跡とばかりに揺れる。
その中で、弟は的確に叫んだ!
「ボイドぉ!今のうちに、デヴィト様を拾って逃げろ!」
言うが早いか、両者のいた床が崩落する。そのまま落ちて行った弟と鎧。
私は、絶句したボイドの表情が動いていると思いながら、弟が言った言葉を思い出す。
「…出よう」
「あ、ああ」
ボイドはかすれた声で返事を返し、下へ空いた大穴を一瞥した。
「…それよりファットマンだ」
ボイドに頷き、私はミリベルちゃんを抱えたまま駆けだした。
出番を奪われた…【記憶】…おお…ドヤポイントなのに…