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44■ 屋敷の戦い_後~無表情と豚の奮戦~

豚と無表情から見た、鎧戦

 鎧の破壊音は続いている。

 既に二階に移動したようで、調度の破壊された跡が廊下に続く。

 扉を突き破り、私兵が飛び出す。

 彼らは、まともな目をしていなかった。

 光魔法にやられたと判断すると、俺は雷魔法で無力化させていく。


 モニカは何処で拾ったか、暖炉の火かき棒で応戦している。

 彼女の剣撃に危なげない個所は無く、安定して私兵を倒していく。


 揺れるメイド服の裾を見つつ、俺も剣を拾い上げながら言う。


「巧いな」


「早くビリビリ!」


 俺はモニカが転倒させた私兵に電撃を与える。

 俺たちは洗脳された私兵を退け、ファットマンの部屋に向かっていた。


「……」


 何か考えているのか、モニカの口数は少ない。

 俺もまた話すきっかけも必要もないため、無駄口をたたくことなく走り続ける。そのまま階段を駆け上がり、二階へと上がる。

 

「…なんだ?」


 違和感から声が出た。

 何故、鎧の音が聞こえない?


「ボイド」


 モニカが俺を呼ぶ。堪らず俺は彼女に質問を投げかけることにした。


「……どうする?」


「待って」


 モニカは俺に制止を提案した。


「どうした?」


「変じゃない?急に静かになった」


 確かに違和感を感じていた。

 これは…


「…目的を達した?」


 俺が言うと、モニカは首を振る。


「悲鳴聞いてない。生きてる筈よ」


「ああ、やつがそうそう簡単に死ぬとは思えないしな」


 俺の目を見て彼女は答える。


「死体は見てない…まだどちらも」


「逃げた可能性は?」


 左手で拳を作って窓を立てた親指で指す。


「…窓の割れる音を聞いてない。あんたもじゃないの?」


 指摘されれば、その通りだ。


「確かに、だが…」


 俺は軽く頭を振りつつ、左右の廊下の突き当たりを見た。


「右か左か?どちらに鎧は出るだろう?」


 賭けだ、それも部の悪い。二階に上がった地点で気付くべきだったが、鎧の破壊した後がプツリと消えている。この意図は何だ?俺は鎧の行動の意味を考えたが、先にモニカは結論を下した。


「…散開は無し」


「ああ」


 断る理由が無く同意しつつ、さてどうするかと俺が思うと…

 ガタリと、音が鳴ると同時に部屋から廊下へとミリベルが出てきた。


「ミリベルちゃん!」


「モニカさん!」


 無事そうなその姿を見て、モニカは駆けだそうとした。


「助けに―――」


 俺は嫌な予感から強引にモニカの手を引いた。


▽▽▽


 モニカとボイドが鎧に絶望的な一戦を挑む少し前、ファットマンは瓦礫の下で呻いていた。

 流血が止まらないばかりか、動くのも容易ではない状況であった。

 コレも窓から襲撃してきた鎧に対応が遅れたためだった。

 窓に鎧を視認した瞬間、咄嗟に頭を庇い最低限の受け身は取った。

 だが鎧の突撃には効果が薄く、結局数多の瓦礫の下敷きになっては意味が無かった。

 さらに運の悪いことに瓦礫は動きを阻害するだけでなく、傷の圧迫もままならない状況をファットマンにもたらしていた。


「くそが…やりやがった…」


 ファットマンの思考は死の可能性を前に加速する。

 犯人を割り出す為、ありとあらゆる可能性を検討するその前に、生きねばならん。

 彼は“術”を発動する。


「ぐぅ…ッ!!」 


 心臓に直に回復を叩きこむ。

 流血を後回しにして強引な強心を行う。

 彼が経験で知っていたショック対処の措置をすませ、彼は次手を考える。


 今、出るのは得策か否か?

 現状を打破するために彼は考察と推理を重ねた。

 先ほど、聞こえた女の絶叫は父が攻撃されたの理由として充分。

 吠える声は私兵であろう。屋敷の中だ、駆けつけるのに5分もかかるまい。

 まだ挽回…いや何故あの鎧は俺の死体を確かめなかった―――?

 ふとした疑問、そしてファットマンが己の下策を覚った瞬間、彼の意識を一度激痛が飛ばした。

 絶叫を上げる間もなく、彼の胴を鎧の槍が突きぬいていた。

 ファットマンはソレを見、致命的な失敗をしたのだと再確認した。


―――コレは、死にそうだな。

 

 冷徹に彼は状況を確かめる。

 瓦礫は吹き飛んだが、自身は重傷。敵が止めを刺さなかったのは苦しんで死ねと言うよりも、最早ファットマンが生きながらえるとは疑わなかったからであろう。

 鎧は部屋の壁を突き破った。 

 一人残されたファットマンだが、彼は諦めなかった。

 流血と激痛に耐え、鎧が部屋を破壊した後に立ちあがる。


「………」


 歯を食いしばり、立つ。傷を縫う暇はない。

 彼の耳には鎧の駆動音と人の声を捕えていた。

 闘ってるのは…誰だ…?

 彼がおぼつかない脚で壁の大穴から廊下へ顔を出したその時、何者かが彼の前を駆け抜けた。

 その人影は、ファットマンの目の前で鎧へ踊りかかった。


▽▽▽


 飛び出す私兵を無心で倒すまでは良かったものの、言葉がかき消されるように、炸裂音が響く。

 壁面を突き破り鎧がミリベル嬢と俺たちの間に窓を壊して廊下へと突入してくる。俺はその鎧を見ながら、腕を振りぬく。ほぼすれ違うような形でモニカが下がり、俺は剣を引き抜く。

 

「くっそ!!」


 ボイドはファットマンが刺された事は知らない。

 故に逃げるべきだと言うことも覚れなかった。

 完全なる失策だと悔いる前に、鎧による槍の一撃が彼を襲った。

 モニカから見れば間一髪回避したように見えたが、実は穂先が剣をかすめており、その衝撃に全身が痺れたような状態であった。

 情けないことにひざをついてしまうほどの衝撃と痺れに動けそうもなかった。

 防ぎはした、それが直接の死因ではない。

 だが、詰みのための一手であった。


「…ぐッ」


 だが、そんな死を待つ状況にも関わらずボイドは死ななかった。何故ならばモニカが鎧へと飛び込んだからであった。

 それはミリベル救出のためだとボイドは知っていたが、自分に同じ行動が出来たかはわからなかった。だが、それにより間が出来たのは事実。

 何故、死にたくない、彼女の勇気、己への情けなさ。

 相反する感情がボイドの胸の中に湧きあがる。

 立て直そうとボイドがあがく目の前で、鎧が迷った隙を見逃さず、モニカはミリベルを抱き上げ再度鎧の脇を抜けようとした。

 その姿を見ながら、必死の思いでボイドは魔法を放つ。


…己と、そしてヨロイに。


「!!!」


 抑えたと言え狂いなく電流が体内を焼き、胸を強打したかのような痛みが襲う。

 それでも体は動いた。

…俺がやらねばあの少女達が死ぬと、ボイドは直感で覚っていた。


「!!」


 声の代わりに、血混じりの呼気が抜けた。

 激痛に耐えながら、ボイドは雷球を飛ばす。

 白い閃光の中、彼はモニカの名を叫びたかったが声が出ない。

 だが、何者かがボイドの声でモニカを呼んだ。


「モニカ!」


 モニカはミリベルを抱えてこちらに向かって滑り込む。

 だが雷光を直視したらしく、鎧の薙ぎ払いが見えていない。


――――やめろ!!


 思わず声なき声で叫んでしまった、その時、笛のごとき風切り音を伴い窓を突き破った【何か】が鎧の槍を弾き飛ばす。鎧は槍を取り落とし、無様に態勢を崩した。


「?!!!」


 硬質の何かは弾いた勢いのままその場に落ちる。

 鈍い色で光沢のない、人の腰まであろう球体がごろりと廊下に転がる。


「い――は?」


 やっと調子を戻しつつあった喉が声を紡ぐ。

 モニカはそんなボイドの足を蹴った。

 思わず痛みに顔をしかめた彼をモニカは叱咤する。


「呆けてる暇なんてないって!!」


 そうだ、逃げねば。

 ファットマンではないが、モニカの目標は達した。

 ボイドは雷魔法を三度構え…何者かが鎧に踊りかかるのを見た。



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