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43  屋敷の戦い_前

盆対応で遅くなりました

 ボイドの加勢は意外だった。

 だが、悪くはない。


>お嬢 いい加減にしろ


 【記憶】が低い声で私を止めようとするが、私は即座に反論する。 


>幼馴染が殺されるのを黙って見てるなんて…絶対ごめんだわ


>だから? 死にに行くような事は推奨しない


 【記憶】は言葉を止めない。


>決闘の時はまだ鎧があった。最悪逃げることも出来た。が今回はばかりは反対だ


>ここまで来て逃げろと?


>その可能性が高いから忠告してるんだ


 【記憶】に体の主導権を奪われてはたまらない。

 私は【記憶】に答える。


>鎧の狙いは多分ファットマンだと思う


>で?


>ミリベルは目標として低い 殺す理由が無いもの


>で? ほお、それだけで死地に飛び込むと?


>豚の死体を見たならその地点で逃げるから お願い


 私の嘆願に、【記憶】は折れた。


>90秒後 ボッドを上空へ転送させる 本艦(おれのからだ)は呼んだ 補給は出来んがやむをえん 突入は限界まで待機させるが…不味いと感じたら秘匿無視で突入させる ここまでだぞお嬢 俺が譲歩出来んのは


>ありがと


 私はそう返事を返し、ボイドの背を追った。

 走りながらもボイドと方針を決めた。

 ごくごく単純なルールが二つ。

 ファットマン、ミリベルの回収 どちらかの死亡を確認したら逃走。

 鎧と出会っても戦闘は避ける。


「わかった」


 ボイドはそれだけ返事をすると駆ける。

 私も、彼を追い屋敷へと向かうが…


「?!」


 直後錯乱した私兵が窓から飛び込んできた。


「邪魔だ!」


 頼もしくもあるボイドの声と剣閃が彼らを討ち払っていく。

 私も、襲い来る私兵を回避しながら武器を拾わなかった失態を恥じた。


「行くぞ」


 ボイドがいればなんとかなるのではないんじゃないか?

 私はそんなことを考え始めていた。


▽▽▽



 洗脳された私兵とまともな私兵が争っているらしい。

 炸裂音と争う男たちの怒号が聞こえる中、やっと私たちは二階へ上がった。

 しかしその異様な静けさに、二人とも足を止めざるを得なかった。


「…なんだ?」


 怪訝そうにボイドが言う。私も同感だった。

 あれだけ騒ぎまわっていた鎧の音が聞こえない。

…何かが可笑しい。

 二人してソレを理解した。


「ボイド」


 確認のために声をかけると、彼は半眼になる。


「……どうする?」


「待って」


 愚策だが彼を呼び止める。


「どうした?」


「変じゃない?急に静かになった」


「…目的を達したか?」


 彼の指摘に私は首を振って否定する。


「悲鳴聞いてない。生きてる筈よ」


「ああ、やつがそうそう簡単に死ぬとは思えないしな」


 私に意見を求めた彼の目を見て答える。


「死体は見てない…まだどちらも」


「逃げた可能性は?」


 ボイドは剣を握らない左手で拳を作ると、窓を立てた親指で指す。


「…窓の割れる音を聞いてない。あんたもじゃないの?」


「確かに、だが…」


 何かを感じるように、ボイドは首を振って左右に長い二階の廊下の突き当たりを見る。


「右か左か?どちらに鎧は出るだろう?」


 無表情はここまで来ても変わらない。

 私は、ボイドに言う。


「…散開は無し」


「ああ」


 二人の意見をすり合わせ、無言の一歩を歩きだすと同時だった。

 右奥の部屋の扉が突然開く。

 出来すぎにも思えるタイミングで出てきた人間は…


「ミリベルちゃん!」


「モニカさん!」


 ミリベルちゃんだった。

 無事そうなその姿を見て、思わず私は駆けだそうとした。


「来ないでください!モニカさん!」


 駆けだそうとした私に、ミリベルが叫んで警告する。

 咄嗟のことだったが、何故かボイドに手を引かれた。


「何を?!」

 

 私が見るボイドの顔は険しい。


「はなれ――――」


 そんな私とボイドを見てミリベルが最後まで言葉を言いきることは無かった。

 彼女の手前の部屋から洗脳されたらしい私兵が、見計らったように二人飛び出す。


「…ッ!!ボイド!」


「怪しいが行くしかないだろう!」


 懸念を口にししつつもボイドとミリベルちゃんの救出へ向かう。

 相変わらず、なめらかな動きだ。雷魔法を帯びた剣でボイドは私兵を薙ぎ払う。

 私もまた、一階で倒した私兵の取り落とした剣を手に応戦する。

 流石に、一階のように火かき棒ではもう無理があった。

 袈裟切りを防ぎ、止まった軸足を蹴りで刈り取る。 

 そうして咄嗟の襲撃を防いだ私たちが見たのは、ミリベルの背後の壁がはじけ飛ぶ瞬間だった。

 出てきたのは―――血に濡れた槍を握る、あのヨロイ。


「くっそ!!」


 私より前に出ていたボイドが悪態と共に剣を構え直すと同時、ミリベルを飛び越えて廊下の天井を破壊しながら鎧が迫る。突きだされる槍の刺し、それをボイドは間一髪回避する。

 私もまた鎧から距離を取りたかったが…ミリベルを捨ておけない。

 発動したままの身体強化(フィジカルブースト)を引き上げ、私はボイドの状況を確認する間もなく、特攻じみた形でミリベルちゃんのところへと飛び込むしか手が無かった。

 私と鎧が交差するが、鎧は私に追いつけず幸運にも鎧の反対側へとたどり着く。

 また私の飛び込みでほんの一瞬ではあるものの、鎧は三人のうち誰を狙うかで躊躇した。

 その刹那を掴んだ私は鎧からを更に距離を取り、ミリベルちゃんの元へたどり着く。


「モニカさん!」


「今は後!」


 背後を取った鎧に私は正対しながらミリベルちゃんを強引に横抱きにする。

 それとほぼ同時だ、鎧は女の私達を狙うことを決断したようだ。唸りと軋みを上げて鎧はこちらへと振り返る。

 ボイドは見えない…生きているかさえも分からない…

 その槍が再び突こうとした瞬間、雷球が鎧の背面に炸裂する。


「モニカ!」


 視界が潰れた中、ボイドの声が響く。

 その声を頼りに、私は踏みこみ一発でミリベルちゃんを抱えたまま鎧の間横を滑り抜けた。視界が回復しない中、風を切る音が鳴る。


「まずッ」


 薙ぎ払いか、振り下ろしか?!

 鎧の膂力に真正面から撃ち合えるなんて―――

 私は明確に死を意識した。

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