42■ 火薬庫への着火_後
DTはヒロイックに弱い…
庭の小屋に戻ろうとした俺は、轟音と衝撃に胆を冷やした。
何が起きたのか、それを知るより早く、応接間の窓から閃光があふれた。
「何が起きた?!」
そううろたえると同時、人の叫び声が聞こえる。
続いて聞こえた連続した破壊音の後、応接間の壁を突き破って何かが飛び出す。
「?!」
咄嗟に腕で壁材から身を守ると、何かが芝生を滑って行く。
見ると、そこにいたのは…
「モニカ!ケリー!」
庇われるようにかかられた腰の抜けたケリーと、土埃まみれでなお立とうとするモニカだった。
モニカの格好は特にひどく、右手は壁材で切ったらしく少なくない切り傷があった。
俺の叫びが聞こえたのか、モニカが叫んだ。
「ボイド!鎧!!」
言われ、次の瞬間閃光が襲った。
光魔法―――ッ!!
「うぐッ?!」
咄嗟に、利き腕でない左ての人差し指を折る。
その痛みで強引に洗脳を外す。
鎧はこちらを目視し…俺は瞬時に反撃した。
魔術盤を回し、雷魔法を発動させタメなしの雷球を鎧に炸裂させる。
流石の鎧も、即座の魔法での反撃から俺を魔法使いと理解したらしい。
鎧はそのまま攻めることなく、応接間から壁を壊して本館の内部へと進んでいく。
「ッ…」
痛みを耐えつつ、モニカとケリーに近づく。
まだ気は抜けない。
「今のは…」
俺が言うと、恐怖のあまりか血の気の引いたケリーが話す。
「美術商が突然消えて…そして…持ちこんだ彫刻が…実は鎧で…」
しどろもどろで要領を得ないが、ケリーの言うことを俺は整理する。
伯爵が重傷を負った。そして犯人は美術商で、逃走済み。鎧の乗り手は、吸いこまれるように鎧に近づいたメイド長。
俺は判明した情報を確かめつつ、モニカを見る。
「応援を呼ぶ」
「同感」
俺達が、そう言うとケリーが言った。
「ま待ってください!」
俺はケリーを見る。
「まだ、屋敷には若もミリベル様もいます!」
俺は館を見る。
今からファットマンとミリベルを助けに行く…?
今一度、冷静な視点で俺は考える。
いくら雷魔法があっても…鎧の装甲と機動力が相手なら分が悪すぎる。
「……ボイド、ケリーちゃんを連れて応援呼んできて」
俺はモニカの発言に、驚愕した。
「お前、何を言ってるのか分かってるのか」
「死なれたら気分が悪いもの」
そう断言しモニカは進もうとする。俺は、その姿に何かを感じた。
「分かった。モニカ、そしてケリー」
俺は腰が抜けたらしいケリーに、ごくわずかな雷魔法をかける。
ばね仕掛けのようにケリーは立つ。目を白黒させる、ケリーに俺は言う。
「詰め所に行け、それから庭師の師匠を呼んで来い」
「え、え?」
俺はケリーの返事を効かず、モニカに言う。
「俺も行く。勇敢な姿勢を見せられて黙ってられるか」
俺が言うと、モニカは意外そうな顔をしてからにやりとして言った。
「蛮勇の間違いだっての」
「勝手に言え」
俺は右手でこぶしを作り、あげる。
「行くぞ、戦乙女」
返事は無かった。代わりにモニカは俺の背中を大きく平手で叩いた。
思わず前へつんのめってしまいそうになる衝撃と、確かな痛みを感じながら俺はモニカと駆けだした。
バカなことをしていると自覚はあった。
だが、不思議と―――後悔はなかったのだ。