04 似たもの家族
やっぱり脳筋
04
あれは去年の事だった。
16の夏だ。
勤め先のお店に来た『とってもかっこいい』吟遊詩人の青年とマリアは出会った。
意気投合したマリアは、彼を恋人としてお父さんに紹介した。
私も彼の顔は悪くないと思った。
確かに、色男だったのだ。
だが紹介された瞬間、お父さんは…
「……マリア、忘れたの?あの吟遊詩人くん」
「テッドのこと?あー…」
マリアは顔をしかめた。
「あれは事故よ、テッドもロナウドもパパと合わない人だったから」
私は、おモテになる妹の顔を見た。
この妹、色男好きである。
私もイケメン好きなので、遺伝だと思う。
ちなみに、そのイケメンことロナウド青年は流れの竪琴引きだった。
脱線した話しを戻そう。
そんなマリア好みの色男クン達は、彼女からお父さんに紹介されるたび宙を舞うことになった。
初めて見た時、私は驚いたもんだ。
純粋な腕力と脚力のみで、人が空へ飛ぶんだー…って。
「合わないって…マリア、お父さんの性格知ってるでしょ?」
何が気に入らないのか?
お父さんはマリアを筆頭に、我が子に変な虫がつくのを過剰に嫌っている。
マリアの歴代の男友達は軒並み、お父さんの鉄拳でブッ飛ばされてきた。
もちろん、他の妹も同様である。
実は姉妹で唯一、私だけ彼氏をお父さんに紹介したことがないのは内緒だ。
泣いてないよ?
小さいころから気が強くて、男の子泣かせたって過去のせいじゃないと思いたい。
「うん。だから…やっぱり腕っ節っているって思うのよ、私」
マリアもマリアで、学習したらしい。
そう言えば、腕っ節のない男を最近は連れてこなかった。
「でも…変なのよね、みんな私に負けるもん」
「……………鏡みよっか、マリア」
悲しいことに妹は、私より腕力があった。
おまけに私並みに強い。
「なんで?だって私フツーよ」
「普通の女の子はお給金がイイからって、荒くれが集まる酒場で働かないし、男相手に喧嘩もしないの」
「え?」
「何よ、マリア」
「でもお姉ちゃんも、昔から喧嘩してたじゃん」
「う」
痛いところだ。
「アルとか私が泣かされた時とか相手が大きな男の子なのに喧嘩売って、逆に泣かせた上に「許してください!!」って言われても許さなくて…」
「やめよっか!!」
黒歴史を掘り返された。
「これは護身術だって私たちを鍛えたお父さんが悪いんだからね?」
「わかった。でも甲冑師のくせになんであんなに強いんだろうね」
職人の癖に、気に入らない冒険者にドロップキックを入れて完勝できる男。
それが、私たちのお父さんである。
「…お母さんのためじゃない?」
「ママ、美人だもんね。そりゃあパパも強くなるか」
マリアはぐいと水を飲み干すと言った。
「ごめん、お姉ちゃん。もっと話したいけど、明日早いから体拭いたら寝るね」
「珍し、お昼からじゃないんだ」
「うん。お手伝いさんが産気づいちゃって、仕込から手伝ってほしいんだって」
「了解。じゃあ、洗濯は変わったげる」
「ありがとー!おねーちゃん!!」
大げさに喜ぶマリアを見て私は思った。
やっぱり学園で見た、あのそっくりさんは違うな。
そう思いつつ、私も就寝するため体を拭くことにした