38■ アルの本心_後~モブのおせっかい~
スゲえ短いスカートを履いた姉が口にした言葉に、俺は固まった。
美人で気が強い姉が冗談を言っているとは到底思えず、俺は姉の顔を見た。
真剣な目だった。
何を言うべきかと、俺は悩んで前髪を掻いた。
俺はミリベルに好感は持っていた。
そりゃそうだ、ずっと昔からの友達だ。
おままごとで理不尽な目にあったけれど、何時も遊んだのは彼女達だ。
それは理解できるし、自分にそう言った感情がないかと言ったら有るにきまっていた。
ズキズキと頭が痛んだ。
姉が言うのは、異性としての好意のことを言っているのだろう。
ただ、それがミリベルと上手に結び付かなかった。
可愛いとは思う、友情も感じている。だけれど、極力考えないようにしてきた事だった。
悩んでいたのも、親しくしていた友人から無視されて悲しかったからだ。
そこに好きかどうかは意識出来ていなかった。
いや、下手に自分に女兄弟が多いものだから、そうした性的にも取れる感情を無意識で抑えていたからかもしれない。
「俺…」
姉になんと言うかと悩んだ。
姉はきっとミリベルから気持ちを聞いている。
俺は、受けるべきだろうか。わからなかった。
「まだ、わかんねえ」
そう言うと、姉はため息をついた。
「まだって?あんたさ」
そんな姉に、俺は少し苛立った。
「姉ちゃんに、何がわかる」
キツイものいいに、姉も表情をキツクする。
「…ケリーちゃんのせい?」
低く感情を含ませ、姉は言った。
俺は頭を振る。
「違う」
「じゃあ何よ」
俺は、言い返そうとして言葉に詰まった。言うべきか、言わないべきか。
汗が流れるのが分かる。姉は責めていないし、悪くないのも分かっているけど俺は言ってしまった。
「……将来と身分を考えてだよ。ミリベルは、貴族となったほうがいい」
「はぁ?!」
姉が驚きの声を上げ、俺の胸倉を掴んだ。
「何言ってんのよ?!ミリベルちゃんがソレを望んだとでも?!」
「その方がいいじゃねえか!」
俺も大声を上げる。姉は怯まないが、きつい視線を投げかけた。
「あの子の気持ちを聞いたから分かるけど、あんたの態度が原因でしょうが!」
「俺の気持ちだってあるんだ!」
俺はそう言うと、姉は手を話す。ばつの悪そうな顔を姉はする。
「姉ちゃんとミリベルには悪いと思ってるよ。けど」
過去の出来事が脳裏によぎった。
笑う二人の幼馴染、それから死んだ目で俯くミリベル。そして、何もできなかった自分。
「俺だって思うところがあるんだ」
そう言うと、姉は質問をぶつけてくる。
「だからってミリベルちゃんが貴族になれとかって、あんた意味分かってんの?」
「分かってるさ。貴族のお妾になれば安泰だ。ミリベルは人気も実力もあるんだし」
姉は反論する。
「正規の結婚ではないでしょ」
「平民よりも何倍もマシだ」
俺が言うと、姉は首を振る。
「……だったら」
「俺が貴族になれるわけないだろ」
国軍への従軍や、名を馳せて騎士爵への叙勲を言おうとした姉の言葉を先回りして止めた。
姉は、睨むように俺を見る。
姉の部屋を俺は出ることにした。今は、話したくなかった。
「まって、アル」
姉が呼び止め、俺は脚を止めた。
「最後にはっきりさせて。ミリベルちゃんのこと、あんた好きなの?」
俺は姉を見ることなく、答えた。
「好きだよ。友情や家族愛なんだろうけど」
姉は何も言わなかった。
俺は、外に出た。寒々とした廊下を歩くが、気持ちが落ち着かなかった。
ああ、なんて日だ。