37 アルの本心_前~レベルアップしながら~
弟の真意を問い質そうと私はヤツを呼び出した。
ところが、レベルアップしたいと愚弟はダダをこねた。
「友達のいない姉ちゃんの話しをきいてやるからレベ、ぶは?!」
右の拳を弟のみぞおちに入れつつ(ボイドと弟へのモヤモヤがこれでスッキリした)、
私は弟の要求突っぱねようかとも思ったが意外なところから弟への助けが出た。
>…お嬢、レベルアップって何よ? 魔法は流したが…
>そっか、知らないもんね
私は、【記憶】に答える。
>私みたいな資格持ってないと上げられないのよ レベル
>…待てぃ!
>なによ
弟が悶絶する中、【記憶】は呆れたような口調で言う
>ステータスとか、ターンとか言いださないよな?
>ステータスはあるよ?
【記憶】も呻いた。どうせいっての。
≪我の元に 汝の輪を開示したまえ≫
【記憶】がやかましいので、結局アルのステータスを開いた。
祝詞を上げると、半透明の板がアルの前に浮かぶ。
私はアルに言う。
「後悔ないようにね」
「わーってる」
アルは自分のステータスをあーでもない、こーでもないと弄っている。
【記憶】の反応が無い。どうやら絶句しているようだ。
>……お嬢、この目の前のバカみたいなことに俺はどう反応すればいい?
>嘘みたいな存在を抱えてる私はどう反応しようか?
そう返してやると、【記憶】は黙る。
この、ステータスと言うのは良く分かっていない。
宗教家は神の力だと言う。また古い人は、大昔の魔法使いの呪いとも言う。
学園の研究者は世界の一部だと言い、私は物が落ちるような現象だと理解していた。
だが、確かに存在する現実には違いなかった。
>どう見るんだ?これ
復活した【記憶】がアルのステータスを見て疑問を投げかける。
私は、自分のステータスを開けつつ答えることにした。
≪我が輪を開きたまえ≫
祝詞を読む。
…協会で尼さんから習ったものだ。思えば修道女も使えない方もいたっけ。
そう思いだしていると、私のステータスが顕れた。
何時見ても不思議な、ガラス板のようなものにいびつな八角形と半透明の数字と文字が書き込まれている。
それらは水に揺れる影のごとく揺れている。
>………わざわざヘブライ文字ね
>読めるの?!
逆に私が驚いた。【記憶】は不愉快そうに読む。
>膂力 敏捷 体力 機敏 知恵 神性 悟性 獣性
>凄い 坊さんや尼さんじゃないと読めないのに
>教養だよ でPOWとSANは薄い灰だけど?
>この二つは自力強化が不可なの
>精神と正気なら自然だな…
位階
生命桁
気力桁
ってのがまあ…なんとも…
【記憶】は忌々しげに言うと、次の項を読み上げる。
>次は、特典か?
魔法だと…
身体強化
運動補助
自重操作
うん お嬢の魔法は自己申告通りだな
>嘘ついてどうなるのよ。私、魔力を動かせるのは自分の中だけ 与えることしか出来ないし
>あ…? I/Oの欠損? …しかしこれ
>アイオー?
>まあ、お嬢が知らないことだよ んで技量&能力か
>私なら…剣術C 騎乗C 鎧操作B 家事一般C 訓示F だけ
>訓示?
>このステータス開くことね
>仮にAとかSになるとどうなる?
>それこそ私以上に細かく見れるし、秘めた才能とかも起こせるんじゃないかな…?
協会…お布施や奉仕以外で信仰を獲得できるのも、貴族がステータスを重視してるからだし
あと技量&能力のSなんて人外よ、天才でAだもん Bでも珍しいんだから
>……そう言われると納得する。お嬢、こと鎧や飛行機を飛ばすことは天才だからな
アルが振り分けたらしい。
「姉ちゃん、頼む」
「わかった」
≪汝の輪が小さく閉じぬように 力が廻らんことを≫
祝詞を唱えて、ステータスを確定させる。これで経験がアルの力になった筈だ。
>このステータスのポイント?これを振り直しは出来ないのか?
>私じゃ無理。協会で偉い人なら出来るかもね…伝聞だけど、それでも今まで生きて生きた経験を振り直すだけしか出来ないらしいね
私が答えると【記憶】は考え込んだ。
私は、本題に入るかと弟に向き直る。
「アル、それで話なんだけど」
「あ、そうだよ。話ってなにさ、姉ちゃん」
私はアルに尋ねる。言うか言わないか、迷いはあったが私は言い切った。
「正直聞くわ、アル、あんたミリベルちゃんの事好きなの?」