31 モブの再会
午後の仕事もお手伝い中心だった。
ケリーちゃんから、別のメイドに代わって今度は食器保管庫で食器を磨いていく。
仕事に集中しているから、当然静かになるのだが…
「やあ、モニカ嬢!会いに来たよ!」
ドラ息子が降臨した。
唖然とする私だったが、視線を感じた。
メイドの女の子が、私をそう言う目で見ていた。
…アレか、このブタ遠回りに私を愛人路線にしようとしてるのか?
「デヴィト様、何かご用ですか?」
私がそう言うと、彼は機嫌良さそうに言った。
「うん、合わせたい奴がいるんだ」
「?」
疑問を覚えつつも、メイドの子に視線をやる。
露骨に行けと視線で訴えられた。
「…わかりました」
「ありがとう」
そのままファットマンに続いて、廊下に出る。
「慣れた?」
随分気楽な様子で、デブは言う。
「はあ、まあ勉強にはなりますが」
「良かったよかった。悪いね、一週間も来てもらって」
「本当です」
言いつつも、私はファットマンの背中を見る。
…愚弟の件、それから決闘の事もあり、何も考えずにやってきたものの彼は何を考えてるのか。
「ところで、デヴィト様」
「何?」
「学園の方はよろしいので?私はこうして働きに来ておりますが…」
私がそのことを質問すると、彼は少し真面目な表情をする。
「謹慎だよ謹慎。根回しもあるしね、君の為でもある」
謹慎は理解できた。
が、私の為?
不思議に思った私は、詳細を尋ねた。
「どういうことです?」
「いやあ、ボイドを倒した君が有名になっててね。その火消し」
ウッ…と返事に困った。
「嫁入り先が武門や武芸者に限定されたくないでしょ?」
「……」
何も言えなかった。
そうして黙っていると、ファットマンは脚を止めた。
「ほら、会わせたいのは彼だよ」
窓の外、庭師とその手伝いが作業している。
誰…?
「行こうか」
私は黙って、デヴィトに従った。
庭師の見習いは、私が知っている人物だった。
「紹介しよう。庭師見習いのボイドだ」
デヴィドはそう言うが、私も彼も黙ってしまった。
何を言えばいいのだろう。私は彼を決闘で倒したし、彼は私のせいで決闘に敗北して家を追い出されたのだ。
当然、良い感情を持たれてないだろう。
何をこの豚は考えてるのかと、やや呆れと怒りを感じながら見る。
飄々として、むしろ楽しそうな豚は私の視線を軽く流す。
ええい、黙っててもしかたないや。
「一週間女中でお世話になります。モニカです」
名乗ると沈黙があった。
「……………ボイド、です」
長いこと黙られた後、ボイドが言った。
ボイドはその後、デヴィドを恨むような目で見た。
「おいおいボイド、モニカ嬢に見とれてたな?」
茶化すように、豚は言う。
私はボイドを見た。
庭師の格好だ。動きやすいズボンに、汚れが目立たない灰色のシャツ、そしてゴツイ前掛けをかけている。
格好からすれば、彼が元貴族だと思えなかった。
「……」
「まあ、言いたいことは分かる。これも君の為だ」
そう言ったデヴィドにボイドは、何も言わなかった。
「とりあえず、顔合わせは出来たね。二人ともよろしく」
何がよろしくだ。何のよろしくだ、ど阿呆。
私は、豚が何を考えているのか全く分からなかった。