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29  ミニスカートといふ暴力

新章スタートです。

 

「モニカ嬢、アルバイトがあるんだ。来てくれるよね?」


 ある日突然、ファットマンが昼休みが始まった商業科に降臨した。

 私は震えた。

 金貸し故、ファットマンは旧都の職人商人から大変恐れられている。

 例えるなら、まだ捕まっていない罪人の近くに憲兵が来るようなものである。


「あの「ありがとうモニカ嬢!」」


 なんとか教室内の空気を良くしようとした私の返事を半ば無視された。

 ズンドコ連れて行かれ、そのまま見慣れた談話室にドン。

 

>出番?


 最近静かだった【記憶】が言う。


>かも…


 相談し合う私達の前で、突然ファットマンは頭を下げた。


「金貸しの僕が行って空気を悪くしたのは申し訳ない」


 貴族の嘆願に私はギョッとする。


「どうしても頼みがあるんだ」


「止めてください!お話聞きますから!」

 

 これこそ見られれば私が詰む。

 貴族に頭を下げられたと知られたら? 想像するだけで恐ろしい。


「ありがとう!受けてくれるんだね」


>このデブ、話しすり替えやがった…


 【記憶】が呆れた様子で指摘する。

 とは言え向こうは貴族。…気をつけねば、私は気合を入れる。


「なあに簡単さ、1週間、我が家でメイドしてくれればいい」


 ファットマンは気楽に言った。

 私は貴族だと知っていても、目の前のデブをぶん殴りたくなった。



▽▽▽



 旧都は歴史の古い町である。

 元々は別の国の王都だったこともある。

 その為、政治の中心が王都に移っても旧都に屋敷を構える貴族は未だ多い。

 社交するなら王都が正しい。

 だが旧都の諸侯からすれば王都は自分たちの王位をかすめ取った現王家のお膝元。

 と言う事実から旧都系の貴族は王都に出向くことも居を構えることも倦厭気味だった。

 この強烈な嫌悪感を歴史的な経緯から紐解くと、どうにも新体制に移行した時に王都側がやらかしたのが見えてくる。

 直接的な所で言えば旧都系の諸侯が冷遇されたことが原因らしいが、大陸に近い王都側が鄙で野蛮であるとの偏見で見てプライドを傷つけたのも大きな要素だろう。

 そんな王都嫌いの風が吹く旧都の貴族街。

 その一等地に、どっかり構えるファットマンの屋敷は兎に角大きかった。

 元々は大商人かつ旧都近くの領地を治める伯爵様であるファットマン家。

 伯爵爵位を金で購入した経緯があり、金貸しと出自から蔑まれつつもある家だけれども、その権勢は本物で、評判通りの大屋敷だった。

 ちょっと見ただけでも、周囲と比較して頭一つ抜けて大きい。

 屋敷も庭も広いと言うのは屋敷を囲う壁だけで、理解できる。


>デカイな


>デカイわね


 そう、【記憶】と言いつつ私は門番に話しかけた。

 話は通っていたらしく、簡単に通され案内役らしい下人を紹介された。

 そこから面接官であるメイド長がいると言う、面談室らしい部屋まで一直線だった。

 部屋に通されると、既に彼女は待っていた。

 私は世話になるのだからかと、40がらみの彼女に一週間世話になると挨拶する。


「若の紹介ですから、期待はしておりません」


 メイド長は表情を動かさず、名乗った後そう言い放った。

 嫌みな人だな。

 そう思いつつも、何も言えない私である。

 とりあえず採用はされるらしい。

 仕事着が与えたるらしく、早速メイド長に連れられ使用人の更衣室に案内された。

 彼女に押し付けられた若い女の使用人用の仕着せに着替えるのだが…


「断言するわ。この制服デザインした奴、変態!」


 仕着せは、私が羞恥を覚えるような破廉恥なデザインだった。

 まず、スカートが短い。

 膝上、太ももを半分出すとか何考えてるんだ。

 いや確かに太ももまでは長靴下で隠れているが、それはそれ。

 スカートがここまで短いのは、叫びたくなるいほど恥ずかしい。


>え? 可愛くない?


 信じられないと言ったていで【記憶】は言うが、私は即座に言い返す。

 

>羞恥心の問題ッ! 絶対見えるじゃない?!


>なにがぁ? おじさん言われないとわかんないなぁ かぁわい~いじゃなーい?


 とっても、いやらしーい感じで【記憶】が返事を返す。 

…ああ、今このクソ男を心行くまでぶん殴れないのが悔しい。


 体は無いが、【記憶】はほぼ成人男性の感性を持っている。

 スカートも恥ずかしいのだが…その他にもこの仕着せの恥ずかしい個所はある。

 ほぼ黒に見える濃紺のワンピースの上着、これも何故かボタン付きの襟があるくせに首元が空いている。更に袖も二の腕の途中でリボンで止めると言う、なんとも着にくいことこの上ない服であった。

 しかし何故チョーカーが制服となってるんだ…??


>カチューシャわすれてるぅ


 【記憶】はノリノリである。

 めちゃくちゃノリノリである。


>…あんたも着ればいいわ


>俺氏、体ありませぬし? お嬢が美少女だから萌えるだけだしぃ? ふくれっつらイタダキっす


>本気で気持ち悪い


「ちょっと前かがみで両腕で胸を挟んでから鏡見てウィンクようか?」

 と、妄言を吐きだした【記憶】を私は無視する。

 何時までも試着で待たせてはいけないだろう…私は根性で羞恥心を刺激する格好のまま外に出た。

 メイド長と比較すると自分の格好のトンチンカンさがより際立つ。

 何故彼女だけ普通なのだ。


「着替えましたね?では…ここからは先輩となる彼女が案内します」


 メイド長は、私の格好をスルーした。

 彼女の嫌がらせかと疑っていた私は、メイド長の態度に混乱するしかない。

 するとメイド長の影なっていた箇所から、自分と同じ仕着せを着た少女が出てくる。


「はじめまして。ケリーです」


 彼女はちっとも恥ずかしそうじゃなかった。

 私は、自分の常識が崩れるのを理解しながら返事をした。


「…モニカです。よろしくお願い致します」


 元気系のブラウンヘアーのショートカット美少女、ケリーを私は見る。

 すると【記憶】が「嗚呼、眼福眼福、絶対領域とチラ見せのコラボレイトゥ」と妄言を吐いた。


…死ねばいいのに。


 私が死んだ目になっていたのにも関わらず、ケリーは元気よく私に言った。


「一週間のお手伝いですけど、こちらこそよろしくお願い致しますね!」


 私はケリーを別世界の住人のように思い始めていた。

 これで恥ずかしくないって…


「それでは、まず顔合わせです」

 ケリーの笑顔が眩しい。

 彼女も、この恥ずかしいメイド服だったのに!


 だが悔しいかな。彼女は身長低いから、似合ってるっちゃ似合ってた。

 けど私は…姿見で見た己の姿を思い出しつつ後悔した。うん、言わない方がいいダメージないから。

 私もメイド長と同じ普通な奴の方が良かった…と遠い目をしながらケリーの話を聞く。


「それが終わったら、お掃除と御給仕の仕方から行きましょう!」


 元気だ、私の何倍も。



▽▽▽



 私は期間限定のメイドだが、ケリーの手で家中の女中メイドズに紹介させられた。

 そして私は絶望していた。なぜなら私の予想が悪い方向で的中したからだ。


 うん…知ってた。

 そうだろうね、ケリーちゃんと私だけの嫌がらせのはずがないよね?この仕着せ。


 今私の目前には、この屋敷で働く女中達(メイドズ)がいる。

 若い彼女たち(20代半ば)は、私とケリーと同じ仕着せを来ている。


 分かっていたとは言え、かなりへこむ。


 この屋敷の主、そしてファットマンの父、デヴィト=シニア=ミンチ=ハムブルグ=ファットマン。彼は、美術狂いで有名な貴族だ。また彼は女性作家への支援でも知られていた。

 思い出せば、この仕着せが変と言うのも自然な話だ。

 美を愛好する貴族、そんな人物の屋敷なのだ。仕着せは凝って当然のことだろうし、当然働く女中も美人ばかりでそろえる筈だ。メイド長も、私と同類のキツイ系の感じだが綺麗な人であったし、若い女に美しい仕着せを着せると言う彼の発想は…貴族らしくある。


>…俺は今、感動している。生アイドル近くに会えなかった俺だけど美人いっぱいで嬉しい


 この時ばかりは【記憶】を心底ウザいと私は思ってしまった。

 彼はお母さんと初めて会った時も女優さん?と言っていたし、阿呆な成人男性の宿命として彼も美女好きであるのは間違いないだろう。


>綺麗な女性に国境も民族もないッ


 黙れ、女の敵。

 本人は格好良く言ったつもりだが、スケベ親父と何の違いも無い。

 内心で【記憶】に悪態をつきつつも、私はメイドさんらに名乗る。


「モニカ=フレイザーです」


 家名を名乗るとザワってした。


「アルくんのお姉さんです」


 ケリーが何故か弟の愛称呼びをしつつ補足したが、これが良くなかった。


「アルのお姉さん?…身長は姉弟共に高いのね」

「アルジャーノンと違って優しい顔ね」

「アルジャーノンは強面コワモテだから」

「いや、アレはメカクレじゃない?」

「メカクレだけど目つき悪くてチンピラみたいじゃない」

「目元はモニカさんにも似てるわね」

「取り立ての出入りを手伝わされてるから、アルはチンピラでしょ」

「ああそうね。そう言えばなんでアルはお屋敷で働いてるんだっけ?」

「ほら歌姫のミリベル様を追い掛けてよ。ドンパチやらかしたじゃない」

「あ~覚えてる覚えてる」

「え?うそでしょ?アルがそんなことする?ミリベル様と会話しているところ見たことない」

「アルは残念だからね。ミリベル様の前だと言葉足らずになるもん」

「そっかー残念かー残念だもんねー」


 ほぼ愚弟の悪口だった。

 が、ちょいちょい私への風評被害も混じる。

 とりあえず、速やかにアルジャーノンに話を聞かねばと私は誓った。


「…でも良いところも?」

「ポンコツなとこ?」

「雑な所あるよね、アイツ」 


 まだ愚弟への悪評は止まらない。

 ふと見ると、私の隣でケリーがプルプルしていた。


 これは…?


>その子、弟君と何かあるんじゃね? ホの字の相手がディスられて苛立ってんじゃないのか?


「…後で聞かなきゃならないか」


 ぼそりと独り言をつぶやいてから、私はつとめて明るい笑顔を作った。

 再度私が注目を集めるとケリーが軽く咳払いして、やっとメイドズの会話が止まった。


「1週間のお手伝いですが、よろしくお願い致します」


 頭を下げることで、有利になると私は判断した。

 そうぺこりと頭を下げつつも、私はこの一週間が長くなる予感がしていた。

 具体的には、嫌な方向で。



砂糖増し作業のため、明日明後日とお休みします。

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