27■ 性悪公爵嫡子の決闘後② ~ソレオの場合 腐女子を添えて~
ストック放出です…お待たせして申し訳ないです…
「…あれから12年、ね」
ぽそりと戻った旧都の邸宅で零すと、侍女のミリオ婆が目を細めた。
「はて、お嬢様。なんの12年でしょう?」
ミリオ婆はくしゃくしゃのお婆ちゃんである。
私の転機のきっかけとなった風呂場で失神事件依頼、何故か彼女がアタシの侍女を務めている。
彼女はお祖母様の代から我が家に仕えており、母に仕えた時にはもうお婆ちゃんだった。
「お風呂で倒れてからよ」
「ああ、そんなこともありましたねえ。あの頃も、お嬢さまは【おてんば】で御座いましたから」
ミリオ婆は紅茶をサーブしてくれる。
アタシは美しい水色を眼で見て楽しみながら、ふっと気になりミリオ婆に言った。
「…まって、【あの頃も】って何?」
「このミリオ、いまだにお嬢様の奇行は納得できかねますので」
アタシはため息をついた。
▽▽▽
アタシことカーミラ=セストラルは転生者である。
思い出したのは自分が5歳の時。よりにもよって入浴の最中だった。
侍女の誰かが嫌いか気に入らなかったか。
で浴室に籠った結果、幼い私は逆上せて倒れた。
……そこから怒涛のように前世を思い出した。
前世のアタシは女子高から私学に進学した大卒だった。
仕事は嘱託の図書司書をしていたらしい。
趣味は腐女子、かつドルオタであった。
ビックサイトと池袋へは何度も通う剛のモノ。友達のみっちゃんとライブで推しに会うため日本全国遠征していた。
ちなみに、当時の容姿はソコソコだった。
死因は…覚えていない。
確かみっちゃんと韓国旅行へ行って、フライト中の帰りだった筈だ。
そうしてアタシは自分が一度死んだことに気がついて大泣きした。
死んだアタシが、この世界【アウトリュコスの花束】だと気付くまで1年かかった。
正直に白状する。
実は死んだショックのせいで、アタシは自分が天国に生まれ変わったのだと信じていたのだ。
イケメンのお父様 美魔女すぎるお母様 男の娘である弟…
やった。生まれながらの金持ち!と、アタシは慢心した。
慢心した結果どうなったか?
もともと我がまま長女だったのだ。元々の自堕落さが手伝い、アタシはデブった。
お菓子が美味しいのが悪いのよ…
あと、皆が甘やかすから…
と、悠々自適な有閑生活してた時だったか。
パパが、「お茶会があるから用意しなさい」と言ってきた。
なんでも『王子様』が旧都に来るんだそうだ。
アタシは社交めんどくさいなーと思いながらも我が家主催のおもてなしなので我慢することにした。
▽▽▽
そうして、お茶会が始まった。
年頃の女の子達と話しつつ、待っていると【ソイツ】はやってきた。
…ん?
彼に何故だかアタシは見覚えがあった。
王子様だから絵姿で見たこと有るのかもしれないな。
と思いつつ「あっ」となった。
コレ、幼少期スチル―――!!!
嫌な予感がして、バッと振り返る。
と、視線が合ったのは我らが主人公。
彼女はキョトンとしていた。
そりゃそうだ。
アタシ、デヴ。未来の悪役令嬢とバレる筈がない。
しかもこのイベント時、主人公とアタシは出会ってない筈だ…多分。
アタシは王子を見る。
イケメンかつ、下剋上カプで妄想していた王子様。
前世では右腕や腹心との熱いラブで楽しんでいたアタシは、彼の顔を見て引きつった。
今のルドウィクはマルチな王子ではない。
アタシを狙う死亡フラグの一角だ…
おのれ、美幼児と美幼女め!お前ら、児●ポってしまえ!
▽▽▽
あの悪夢の出会いを終え、アタシは一念発起した。
ここがゲームなら、アタシは間違いなく悪役令嬢だ。
悪役令嬢とは、主人公にぬっ殺される役割である。
絶対、そんなの嫌だ!!
私はあらがった。
多分、主人公回避は出来ると思う。
アレでしょ?
男の子が大好きなヒロインピンチ状態に主人公をすればいいんでしょ?
と言う訳でアタシは、お小遣いを使って冒険者にオークとゴブリンと触手を探させた。
奥の手としてである。
主人公をアヘェ…させればいいのだと思ったんです。
結果から言うと全部存在した。
けど全然エッチくは無かった。
ゴブリンはゴブリン同士で繁殖してた。オークも同様である。
触手に期待したものの、単なる魔物であった。知能も無かった。
はあ…現実でBLの触手攻めが出来なくて残念。
ちなみにアタシの中の名著は、【学校主席のヌルヌル実験室】である。
▽▽▽
「オークもゴブリンも触手も駄目とは…ならゴロツキなんてもっての他ね」
とりあえず18禁や犯罪な手段での主人公撃退を諦めたアタシは、作戦を変えることにした。
だってゴロツキ雇ったらお家の迷惑になるし。
やはり手っとり早いのは、下剋上受けとアタシが婚約しないことか。
簡単じゃないか…
「お父様!アタシ、ルドウィク様と結婚したくない」
と、アタシが持てるだけのブリっ娘、媚び力でお父様に頼んだが…
「許してくれ、カーミラ。お父様はお前の力になりたいけど、王家とはまだ難しいのだ…」
と、ゲームの強制力はなんともしがたく、執務室からアタシはポイされた。
▽▽▽
そのような具合に勝手に婚約は決まった。
ルドヴィクはゲーム中の設定通り、旧都にはほぼ来なかった。
婚約者として王子と文通しつつも、
『拝啓。元気です?僕元気。では』
みたいな糞つまらない手紙しか来なかった。
アタシの文才が低い高いを考えるまでもなく、王子は私に興味がないと分かってしまう悲しい手紙だった。
ままならないゲームの強制力に、アタシは焦り始めていた。
……このアタシが転生した【アウトリュコスの花束】はSLG寄りの乙女ゲーである。
ストーリーはごくごくシンプルだ。
異世界の辺境アンケルト大島を舞台に、主人公とヒーローが乱世の中で愛を育むと言う内容。
ゲームはヒロインの学校入学から始まり、アタシの断罪は中盤の山場になる。
どのルートでもアタシはヒーロー陣営にぶっ殺され、ラスボスであるゲデヒトニス家と主人公はヒーローと共に闘うことになる。
旧都の反乱、ヒーローとの脱出、そして王都でのクーデター。
主人公は困難を乗り越え、そしてラスボスであるゲデヒトニスを討つ。
ついには恋人を新王として自身は王妃となる…
「…中盤が17~18歳だと仮定すると、残り12年か」
アタシは、ゲーム内の時間を計算しながら自室に籠って対策を考えていた。
この頃には長女であっても嫡子で無いアタシに取れる手段は限られて来ていた。
色々とゲーム回避の手段はあれど、有効なのが次しか思いつかなかったのもある。
①実家から家出
②戦乱を治める
③ストーリーに関わらない
①は論外だ。庶民の暮らしは出来なくもない。が、家出なんて出来そうもなかった。
②は微妙だ。我が家は大きい。けど戦争で勝てるほど強くもなければ余裕もない。
③…これが一番楽であった。
そのためにアタシは主人公の下半身を狙う為だけに触手とオークとゴブリンを探したし、ルドウィクとの婚約の回避を狙ったのだ。
けども、ことごとく失敗している。
「おまけに…弟も攻略対象になるのよね…?FDだと」
アタシは何気なく思い出し、ハッと気付いた。
「そうじゃん!だったら、3ロと隠しキャラを引きこめばいいじゃない!」
追加攻略キャラ、そして隠しキャラ。
彼らを攻略できるのは2周目からだ。
ならワンチャン、アタシにも勝ち目がある!!
アタシの前に、希望が開けた。
▽▽▽
「お嬢様、聞いておられますか?」
アタシはハッとなってミリオ婆を見る。
「今でこそ大人になられましたが…昔は無意味にロラン殿、ローレンス、ロイハルト殿を引っ張り回して…」
うっと、気まずくなる。
「どろけい?やら喧嘩凧、めんこ、ベーゴマ…男の子の遊びばかり開発するばかりか遊び呆けた姫様に、私は眩暈を覚えずにいられませんでしたよ」
ミリオ婆の指摘にアタシは何も言えなかった。
今のところ、アタシは少年のハートを掴むグッズ開発と遊びの開発しかしてない。
「だって…」
言い訳しようとして、アタシは返事をするのを躊躇った。
何せアタシがやったのは、3ロの捕獲の為でしかない。
まず、旧都最大の空賊ローレンスをアタシは探し出した。
彼を捕まえるとラグビーやサッカー、スポーツで骨抜きにした。
続いて、裏ギルドで暗殺者の教育を受けていたロランを保護し、前世の悪人に容赦しない殺人鬼アメコミヒーローの話しを聞かせまくって遠巻きに殺人衝動を抑えつつ騎士に取り立てた。
最後に旧都の財務大臣の令息であるロイハルトを、コーラと模型で骨抜きにした。
「だってもありません!ロランこそ、凶暴性が落ち着き立派な騎士となりましたが…ご当主様とロイハルト様の模型狂い、そしてローレンスの競技馬鹿っぷりは全てお嬢様のせいではありませんか」
うん、ミリオ婆の言うとおりだ。
でもさ!
ドハマリすると思わなかったもん!
何処の誰が、ラグビーを教えたらさぁ!
いつの間にか開発してたフリスビーと組み合わせてアルティメットすると思うのよ?!
あとさ、自分の人形を見て「鎧の人形も売れない…?」って提案したら、何がどうして古今東西の名甲シリーズが我が家から発売されることになるのよ?!
お父様も、
我が国の名馬車シリーズ(有名馬車の有名馬付きの模型)、
船舶シリーズ(領海を有する貴族の旗艦の模型)、
そして俺の城シリーズ(賛同者いっぱい)を出すし…
あ、相変わらずロランはスプラッタ大好きの困ったちゃんだったわ…
ブレないな、アイツ。
「…殿下との仲もあまりよろしくないようで」
ミリオは私を睨むように見た。
「このミリオですら不安に思っております」
そりゃ…アタシの死亡フラグだからな。あの王子は。
本音を言うと、アレと仲良くするつもりは絶対無い。
奴の801穴の開発は気になるけど。
「ごめん」
謝りつつ、私はミリオ婆を見た。
こう言う時は話題を変えるに限る。
「ねえ、ミリオ」
「なんでございましょう?」
私は何気なく質問した。
「フレイザーって聞き覚えがある?」
ミリオ婆は考え込む。
「…ございませんね。貴族様でしょうか?」
「ううん、平民」
私が言うと、ミリオ婆は不思議そうに尋ねた。
「そのフレイザーがどうしたのです?」
「甲冑師の娘なんだけど、ボイドと戦って勝ったの」
私の説明に、ミリオ婆は驚いた様子で言う。
「それはそれは…傭兵や草刈りでも難しいことを……過去の戦巫女のようですね」
「戦巫女?」
「戦乱が続いた時代、従軍した女の戦士でございます。古い旧教の習いです。かつては戦神に祈り、仕える女をそう呼んだと」
知らない単語だ。
…いやゲーム中にも一度は出たか?
「そっか、じゃあ知らないのね彼女を」
「はい」
ミリオ婆との回答を聞きながら私は考える。
現状がシナリオから外れていると言う確信はない。
けれども新キャラが出てきた以上、私がシナリオを変えてきているのは事実なのだろう。
「……絶対負けないんだから」
私は小声で呟いた。
主人公に負けてたまるかっての!
もしもしで書いてるので、訂正あります。
明日は未定です…