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26■ 性悪公爵嫡子の決闘後① ~ソレオの場合 腐女子を添えて~

性悪貴公子と愚腐腐


「負けた。すまない」

 

 それだけ言うと、俺の友人は寮を去った。

 貴族の次男とは思えない少ない荷物と、古い剣だけを持って。 



▽▽▽



 ボイドが学園から去った。

 俺とて父上からの叱責があった。

 思えば、ファットマンの献策と献金が無ければどうなっていたか分からない。


「…豚め」


 口ではそう嘯くものの、俺はアレが嫌いでなかった。

 芸術と歌劇狂いの奴の父と比べれば、マトモさが更に際立つ。

 代官の業務さえ奴が見ているのだろう。

 今後、ぜひ身内に欲しい人材だ。


「消しましょうか?あんな金で爵位を勝った奴なんて」


 ボイドが去ったことで、俺の周囲はにわかに騒がしくなった。

 ベラドンナさえ、もともとの相性の悪さから婚約の取りやめを匂わせてきているのだ。

 俺の取り巻きが、俺と俺の家の権力の為に争うのは自然なことだった。


「やめろ」


――お前が、あの豚に勝ってるのは何もない。


 出かけた言葉を飲み込んで、俺は学園内を取り巻きを連れ、食堂に向かって歩く。

 一人の方が気楽なのだが、学園で何が起こるか分からない以上、盾は何枚かあったほうがいい。

 爵位が低ければ、あるいはボイドのように次男だったら…俺は楽に生きられただろうか?

 我ながら馬鹿なことを考えたが、すぐに否定した。


 長子でなかったら俺を家臣が担いだだろう。

 また爵位が低ければ今よりは楽だが、周囲が見えてなかったかもしれない。

 

 そこまで思って考えるのを止めると、俺は取り巻きと共に食堂に入った。




 貴族専用の食堂である。

 学園外で食事も出来るが、のんきな王都派のような事をしたくはない。

 取り巻きに食事の注文をさせにいくと、騒がしくなる。


「ん?」


 見ると、女が一人こちらにやってくる。

 セストラルのカーミラだった。


「どうした、取り巻きも連れずに」


 俺が言うと、彼女は笑った。


「一人だっていいじゃない」


 俺の前に、彼女はすっと座る。

 洗練された動作だった。


「お前の子飼――ガキの頃からの肝いりはどうした?」


「別に良いでしょう?」


「まあ、良いが。で何の用だ?」


 俺が言うと、カーミラは言う。


「二人で話がしたいの」


「………耳がおかしくなったらしい。第3王子の婚約者のお前が、俺と?」


「縁戚になるのだから、お話がききたいの」


 俺にカーミラは言う。


――母で無く、俺と話したい?


 しばらく考え込もうとすると、取り巻きが言った。


「カーミラ様、いくらなんでも…」


「煩い。お前は黙れ。はッ…いいだろう、談話室を確保しておく」


「有難う」


 カーミラはそう言うと、席を立った。


「…食べないのか?」


「ええ、ダイエット中なの」


「?」


 何処の言葉だと俺が頭を捻ると、カーミラは去っていた。

 変な野郎だ。



▽▽▽



 談話室で待っていると、一人でカーミラがやってきた。

 本当に一人で来たのかと呆れていると、カーミラは言う。


「一応、ソレオはレイパーじゃないから」


…レイパーってなんだ?


「話ってなんだ」


 どっかりとカーミラも卓に着く。


「レーレロイの事」


 俺は決闘の時のブタからの使者を思い出した。


――セストラルで無くカーミラが動いている。今回は無理だ。


「あれか。なんだ、殿下に遠まわしに別れるように伝えろってか?」


 俺が言うと、彼女は首を振る。


「違うの。むしろそのままでいい」


「…お前の家としてはどうなんだ?」


「嫌がるでしょうね。父も母も許してはくれそうだけど、家臣や寄り子が嫌うわ」


 当主の判断としてはどうなのだろうか?

 婿として第3王子は、値千金の価値がある。

…セストラルがウラージを気に入らない理由があるかもしれない。

 が、下策も下策だ。王権は既にウラージにある。


「現王家との縁戚無ければ…」


「それを分かって言ってるの。あと、言いそびれた」


 カーミラはこちらに近づく。


「初動が遅れたから私のミスだけど…あんたらはゼペットには今後、一切関わらないで」


 とっさに腹芸をやるべきだと、俺は覚った。

 無論、レーレロイの件は知られてはいるだろうが。


「何故?」


「あんたが動くとこじれるからよ。ファットマンも厄介だけど」


 カーミラの言葉の意味を検討する。


「旧都派は黙っていろと?」


「そう。それに、ファットマンは狡猾だから嫌い。あんたは力もあって陰険だからだめ」


 俺はカーミラの表情から、考えを読み解こうとした。

 何時も通りの無表情に俺は判断に悩んだ。

 何故レーレロイへの干渉を止めさせるのか?

 こいつからしたら、リリシアは自分の婚約者が入れあげる女だろうに。


「そうか。なら旧都派を黙らせることを約束しよう」


 その言葉を絞り出すと、カーミラは満足したらしい。


「助かるわ」


 そう言うと、彼女の表情がやや表情が柔らかくなる。

 

「ところで」


 と、美しいカーミラの唇が動く。

 

「あんた、男の恋人はいないの?」


――動揺した。


「聞き間違いか?俺が男と?」


「あら?女あさりを止めたから、てっきり切り替えたのかと」


 いやみだと気付いて俺は返答する。


「男同士だろ?」


 指摘通り、最近は遊ぶのを控えていた。

 女性軽視と謗りを受けたのもあるが、ゼペットの件が地味に効いていた。

 決闘で負けが、俺の評判に瑕疵をつけたのである。だから控えたのだし、男だと?

 俺は、考えた。

 もしも、ボイドとそうなっていたら?


「絶対にあり得ない」


 俺が断言すると、カーミラは答えた。


「なんだ、残念。LGBTに理解は無いんだ?」


――????


「意味が分からない」


「そうね、失言だったみたいね」


 カーミラは髪を弄りつつ、俺に謝罪する。


「以上か?」


 俺が聞くと、彼女は首を振って否定する。


「あの黒髪の美人の情報、全部教えて欲しい」


 俺は、黙った。

 ファットマンが助力し、ボイドを討ったあの少女。

 俺は彼女を何も知らなかった。


「え?」


「…知らん」


 本音を話すと、カーミラが呆れた。


「アンタが?」


「どういう意味だ…」


 俺がげんなりしながら答えるとカーミラはこちらを責めるように言う。


「美人なのに知らないってのが意外だったの。当て馬だし、種馬キャラのアンタがよ」


「キャラの意味はわからんが、馬鹿にしてるな?」


「してるわね、ヤリチン」


 飛び出した下品な言葉に俺は腹が立ってきた。


「余計な御世話だ!」


 第一女遊びと言ってもガキを作るへまはしてない。

 有閑なご婦人がたにお知恵を借りようと思えば、色々手っ取り早いのである。

 それに女遊びが好きと知られるのは案外悪いことで無い。

 楽しむものだと割り切れば気楽なもので、情報も入る繋がりも出来ると利が無いわけではないのだ。


「癇癪治ってないのね」


 カーミラはそう言う。

 幼いころから良く知るこの女を俺は改めて見た。


 カーミラ=セストラル


 公爵家の贈答品である彼女は、奇行で知られていた。

 得体の知れない子供を拾ってくる。

 訳のわからない遊びを始める。

 極めつけは、自領での不思議な商品の作成だ。もっともこちらはあまりうまくいっていない様子だが…


「ふん」


 いらだちからそう答えると、彼女は笑う。


「そろそろ、ベラドンナがしびれを切らしそうよ。気をつけてね」


 そう忠告すると彼女は去っていた。

 

  

後篇に続きます。明日の投稿は未定です。

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