24 決闘三回戦~モブ対無表情03~
完結
大きく息を吸いこんで、止める。
操縦杖を倒し、私は鎧を加速させる。
大きく踏み込み初速を稼ぐ。
――想像の中、体内に回る【何か】を引っ張り出す。
熱が失われ、明確な冷たさが全身を走る。
気を抜けば、この神秘は私を殺すだろう。
だが、私は躊躇うことなく更に何かを汲み出す。
冷たさは痛みへ転じる。
それでも私は魔法を先に二つ完成させた。
『身体強化』『運動補助』
それらを同時に発動しながら、私は躊躇なくボイド機に突っ込む。
無論、やつも馬鹿ではない。私を迎撃する為、動かないまま雷魔法を放つだろう。
だから、私は操作を続ける。
――鎧には痛覚が無い。
残った右手で私は迷いなく、自機の両足を切り飛ばす。
ボイド機は私の定石外れの行動を受け、反応が遅れた。
荷重が減り、更に私の鎧は加速する。
迎撃に転じたボイドが魔法を発動する前に、続けて私は自機の動かない左腕を斬った。
斬ったそれを、私は剣で突きさすとそのままボイド機目掛け投げつける。
――魔法が放たれる。
だが、雷は投げられた腕に吸い込まれ私を止められない。
衝突する直前、私は機体をねじり込む。
天を見上げるように仰向けになりながら、軽く剣を投げる。
そのまま、私はショートソードを左手に掴み操縦席から飛び出した。
運動補助が生きる。自分では不可能な動作で、鎧を蹴って宙に飛びあがる。
ボイド機は私の鎧の特攻で動くに動けない。
私は宙に浮く、鎧の剣を右手で握る。
握力で強引に掴んだそれを私は構える。
>やったれ!お嬢!
【記憶】の激励の中、私は最後の魔法を発動する。
鎧戦で使うような剣だ。その重量は私の体重よりも重いのは必然。
――人は自分より重いものを振れるか?
答えは可であり、否だ。
持ちあげるのと、振るのは別だ。
まして今からやろうとすることを、生身で出来る人間がいたらそれは英雄だ。
けれど…
「はぁあああああああああああああああッ!!」
魔法有りなら、それは叶う。
体は動く、動きも出来る。
そして最後、鎧を叩き斬るための重さは無理やりでっちあげる。
体内に三重となる神秘、『自重操作』が奔る。
約5倍まで引き上げた自重、そして身体強化による怪力、更に振りを補正する運動補助。思いきり体を捻った私は、必殺の一刀をボイド機に放つ。
――振り下ろされた一閃は、ボイド機の推進器と炉を断ち切った。
▽▽▽
大歓声が沸いた。
私は鎧の剣を捨て吐き気をこらえつつ、立ち上がる。
>…うっぶ
>やめい、やめいやめいやめい!美少女が衆目集める中キラキラしようとするな!
急加速、そして魔法マシマシの必殺技、着地の衝撃。
それらが私の吐き気を…すごく刺激していた。
>あ?楽になった
>消すわ!吐き気え!
【記憶】が煩い。
私は立ち上がりこちらを見て固まるクララを見た。
ファットマンは満面の胡散臭い笑みで拍手している。
勝ったのだと思う…
が、背後で音がした。
見ればボイドがふらふらとしながら下りてくる。
「平民、名前は?」
>Gか、あいつ
【記憶】をシカトしつつ、私はボイドに言った。
「モニカ=フレイザー」
ボイドは両手を上げて降参した。
何処までも、晴れた青空だった。
ストック完全に切れました。
閑話や行間挟んで、次回より新章です。
リリシア氏、ヘリオス氏のフラグ。
性悪デブと傲慢野郎のネタは閑話で回収します。