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23■ 決闘三回戦(傍目から見たモブ)

ナカマサイードの視点です。

 クララ=ゼペットは理解できなかった。

 上手くいかない自分の人生で、これほど納得できないことに出会ったのは初めてだった。


「どうして」


 空を翔る二機の鎧。

 片方は武門の名家バンダンの次男。

 対するのは、名もなき甲冑師の娘。

 どう考えても勝てるはずのない勝負に挑んだあの女の子。


…彼女を愚かだと、クララは思ってしまった。


 家業を馬鹿にされたからと、自分を助けたのもファットマンの采配だと思っていた。

 だが、どうだ?彼女は、自分で私の為に鎧乗りを見つけ、鎧を用意した。

 そして今は、その鎧を駆って戦っている。

 クララはファットマンを見る。彼は何も言わずに闘う鎧を見ている。


「どうして?」


 返事は無い。

 けれど問わずにはいられなかった。

 何故彼女は、私の為に戦うのだろうか。


…答えが聞きたい。


 知らずクララはモニカの勝利を願っていた。



▽▽▽



 ボイド=バンダンは、得体の知れない焦りと感情を覚えていた。

 額の汗を拭いつつ、彼は集中する。


――侮った奴から死ぬ 老若男女関わらずだ


 何時か酒の入った兄から聞いた戦場の教えが、思い出される。


「なんなんだ?」


 最初は魔法を使用する気などなかったのだ。

 だが、対戦相手はそんな考えを吹き飛ばしてきた。

 軽く落とすつもりが、今はどうだ?

 俺は何度、彼女と撃ち合った?それも…鎧の性能に差があるのに。


「……はは、上等」


 自分ボイドは強い。

 それは事実だ。アストリオのアイツより、ソレオより、ファットマンより。

 こと鎧なら負ける気はしないし、事実そうだった。兄の薫陶を受け、鍛錬を欠かさない自分が対戦相手に劣るとは思わない。

 では何故、彼女モニカを討てないのか?

 

――あの女は、純粋に鎧乗りとして巧い

 

 数度の接触で理解した。

 高度有意の鎧戦の基本を抑えるばかりか、攻撃時防御時の切り返しもこなれてる。

 素人だったらば癖の出る右旋回も難なくこなす。そしてクロスボウの狙いも的確だ。

 高度優位から、攻撃に転じる。捻りこみつつの一打。


――アレを避けるか!


 回避された驚き。

 そしてボイドからみても鎧に負荷がかかる挙動を実行する胆力。

 鎧が破損すれば、文字通り墜ちるのにも関わらず、勝利を狙う動き。

 ボイドは震えた。

 もはや出し惜しむ必要は無い。ボイドは自分の魔法である、雷を構える。

  

「これは、どうだ?!」


 魔力が削られる感覚と同時、雷光が走る。

 当てる自信も、落とす勝機もあったが…


――彼女はそれすら回避した


 その瞬間、感情が分かった。

 嗚呼、コレは高揚感だ。

…ボイドは知らない。

 己が楽しそうに笑っていたことを。



 その後、数度の雷の応酬があった。

 確実に詰めた一撃を剣の投擲で回避し、そのままクロスボウで殴打された時、ボイドは確信した。

 彼女モニカは、己の全力出すにふさわしいと。

 故に、彼はモニカとの最終衝突で自身の切りおくのてを切った。


――収束した雷魔法による感電


 火、水、土、風と比較すると雷は使い魔法系統である。

 直に生活に役立つ属性ではなく、威力は高いものの制御が困難である。

 故にソレを逆手に取る。

 武器が敵に当たるその瞬間のみ発動する一撃。

 当たれば、無事で済むはずがなく…事実一度は敵機は崩れた。


 だが…


「そうか…まだ来るか」


 ボイドは敵機を見る。

 まだ、モニカはやるようだ。

 


▽▽▽



 ファットマンは、闘う二機を見ていた。

 予想外の出来事に彼は頭を悩ましていた。

 ボイドの出陣はソレオの仕業だろうし、鎧の故障はもどうせ同じだと、予想はつく。

 ソレオより連絡が来ない以上、予定調和だ。


…が


「……ほんと、何者だろうね」


 思わずつぶやいてしまうほど、前の試合は異常だった。

 ボイドの操縦は予想がつく。

 バンダンの予備だ。兄が死んでも衰えないだけの武威を次男に求めるのは予想がつく。

 だが…


「姉まで、弟と同じ…か?」


 モニカの操縦は予想を超えた。

 あの弟の姉故、多少の心得があると予想はしていた。

 だが、魔法抜きでボイドに食らいつくのは想定外だ。まだ汚い傭兵ダッドだったらありえたろうに、モニカの操縦はそこいらの鎧乗り並みである。

 ただの平民の子弟では絶対にあり得ないことだ。


――家庭事情、洗う必要があるな


 ファットマンは、そう判断を下しつつ私兵が戻るのを待ちつつクララの背中を見る。

 祈る背中に、ふと思う。


――勝ったら、どうなる?


 出来る範囲で、彼女の力になろうとした。

 けれどそれは、決闘に負けること前提で動いていたのである。

 カルナデル公爵への根回しも、遠まわしなゼペット伯爵への説明も全ては決闘の敗北を見越してだ。ソレオは疑わなかったが、レーレロイさえも半ばダシにした形であるのにだ。


「…思い通りにならないや」


 つぶやきが、抑えられなかった。

 ファットマンは、そこで思い出す。


「……無駄銭がでないかもな」


 この決闘の賭けが成立しないと、胴元に無きつかれ自分側の勝利に賭けたのだったか。

 なんにせよ、ファットマンはこの決着がどうつくのか見届けるため、再度二機を見た。 

次回決着

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