22 決闘三回戦~モブ対無表情02~
【記憶】の正体をチラッ
剣を取る。
ボイド機も動かない。
分が悪い勝負だと思う。
――加速の利はこちらにある。が、敵はこの一撃を外しても次がある。
嗚呼、何をやってるのか。
【記憶】は何も言わない。
今出来ることは一つしかない。
「……ふー」
息を吐く。
死にたくなければ降参したほうがいいのも分かっている。
学生同士の決闘とは言え、死ぬ確率の方が高いのだ。
【記憶】の提案を蹴った私だけど、負ける確率の方が高いことは分かっている。
そして【記憶】は決して言わないが、私がボイドを殺すことだって十分ある。
…それでも、意地が私を突き動かした。
先に動いたのはボイド機だった。
応じるように、こちらも推力全開。更に地面を蹴りつけ加速する。
視界が歪む。身体がおいていかれるような錯覚のなか、操作を入れる。
狙うのは、胴上部への突き。
―――このまま兜との接続を断ち切り、視界を奪う!
対するボイド機も同じ突き、ほぼ正面衝突の形で接触するかと思われた一瞬。
私の意識が飛んだ。
▽▽▽
筺体に深刻な損傷発生。
筺体の心肺停止を確認。
管理者の要請により、脳死回避。
筺体内端末を起動。端末から親機へ接続要請。
管理者権限による接続――不正利用者に該当。
接続拒否―再接続を要請―管理者権限の委任を容認。
暫定管理者として接続を許可。
≪おかえりなさい。守護者≫
▽▽▽
女性の声で我に帰る。
私は鎧にブレーキをかけ、反転させる。
胸の痛みに顔をしかめつつ、私は咳き込む。
べったりと血が滲み、何が起きたか覚った。
>死んでた?
>5秒ジャスト お亡くなりになられていた
私は、心臓を触れる。まだ動いている。
周囲の動作が遅い…【記憶】が働きかけてるのだろう。
>今、どうなってんの?
>管理者権限で、本艦の演算領域で筺体の思考を加速させてる
なるほど。
理解できない。
>無茶してるんだからな?勘弁してくれお嬢
>死因は?
>正面衝突で敵機が放った雷魔法による感電死
>ごめん…
ボイド機を見る。
電撃の直撃を受けてなお動く、私を警戒しているようだ。
私は笑うしかない。
…もう「まとも」な手段で勝てない私を何故警戒するのかと。
>お嬢の意見を尊重してきたが、もういいだろう?
【記憶】は言う。
>降参か 負けるのが嫌なら守護者権限での火力支援要請を提案する
私は【記憶】の提案を考えた。
“アレ”なら負けはしないだろう。
代わりに、ボイド機は跡形もなくけし飛ぶだろうが。
>あんたは ここごと吹き飛ばせって?
>お望みならな 軌道上の本艦からの重粒子レーザー砲、純粋水爆、マスドライバーまで申請自体は通る
私は神の業のごとき、“アレ”を思い出す。
>拒否 ピカピカは目立ちすぎる
>あの時みたくココに最大出力で打ちむか!死ぬわ俺らも!
【記憶】は呆れつつも、私に言う。
>流石にお嬢の生命の危機とあれば 一蓮托生の俺としては無視できん
【記憶】は明確に怒っていた。
>クソ度胸はお嬢のいいとこだが…こんだけ機体差、魔法のハンデがあって、ここから
お嬢が勝てるとでも?
私は言い返す。
>ないわね 普通なら
>…まだやんのか?
>これならできると思うんだけど
私が提案すると【記憶】は絶句した。
>…失敗したら強引に体借りるぞ?
>いいわよ
私はボイドに集中する。
泣いても笑っても、これが最終。
私は、【記憶】に言う。
>行きましょう!
ほんとモニカちゃんたら男前…