20 決闘二回戦~負け犬の本気~
ヘタレ飛翔!
ダットの機体と、ボイドの子飼いの機体が向き合う。
ボイドの子飼いの機体も取り巻き同様のものだった。
「…勝ってよ、無職」
個別の決闘でなく、3対3の決闘だ。
ここでダットが負けると、私たちの敗北である。
クララが暗くなる理由も分かる。
「……」
無言のクララそして私が見守る中、両機飛び上がった。
鎧同士の戦闘は、基本空中戦だ。
何らかの要因で、魔力推進器を傷つけた場合を別とすれば、鎧が討たれるのは空しかない。
>苦戦してるな
淡々と【記憶】が言う。
私も同感だ。
ダットは、初手で失敗を犯していた。先に攻撃を試みたのは間違いではないが、相手は回避と高度を稼ぐことを優先していたため、一手目でダットは出遅れてしまった。
敵は高度を稼ぎきると、より有意な位置でダットを追う。
螺旋や輪を描きつつ、二つの鎧が撃ち合うが、ダットの不利は目に見てとれた。
>敵、撃墜狙いだわ
鎧を落とす方法は多くあれど、落とし方は大抵が2つに集約される。
ヨロイ乗りを絶命させ魔力を断つ。
炉や魔法推進機関を破壊して墜落させる。
>そのようだな
鎧の装甲を抜くことは、同じ鎧でも容易ではない。
その為、鎧乗りは鎧と戦う時は手足よりも胴を狙う。それは手足を狙っても致命傷にならない事がままある為だ。逆に、胴を狙えば鎧乗りを絶命させられるし、仮にそれが叶わずとも、鎧乗りの魔力を鎧の全体に循環させる炉や飛ぶための魔力推進器を傷つけられる。
故に、鎧同士の戦闘では自機の手足を損傷せず、敵機の胴に被弾させるかが胆となる。
>落下の速度を乗せれば、より装甲を抜きやすくなるから
>にしては…敵さん、ダットの上を抑えてダットが尻向けてるのに仕掛けないな
私も【記憶】の指摘は理解している。
現在、ダットは上昇の機会を奪われている。上昇しようにも、敵機が上空に控えているからだ。
>騎士は背中に傷を与えるのを避けるからね
>ああ 騎士道精神か
「ああ!」
クララが叫ぶ。
ダットが仕掛けたようだ。ダットの機体が宙返りを行う。
当然そんなことをすれば、敵機と激突する。
>被弾したな
ダット機の左腕が動いていない。
先ほどの衝突、単純に飛行していた敵機が有利だった。
いくら渾身の力でダット機が攻撃しようと、速度も高度も足りなければ競り負けるのは当然だ。
>ジリ貧ね
これで高度差は無くなった。互いに上昇しつつ攻撃の応酬が行われる。
片手一本のダット機の被弾が重なる。
やがて、剣撃の押収でダットが競り負けた。
「…もう、おしまいよ」
クララが顔を覆う。
私は、何も言えないままダット機を見守るしかない。
敵機は勢いそのままに上昇高度有意を保つ。
そのまま地面に向かって急降下しながらダット機に攻撃を放つ。
…ここまで両機共に魔法を使用していない。使えないものだと私は思っていたが、違った。
「ダット!!」
思わず叫んでしまった。
敵は風魔法を発動、自機を鎧の性能を超えて加速させつつ、さらに剣に風を纏わせる。
確実に落とす為の一撃。
―――ダット機に無慈悲にそれは炸裂した。
壊れた左腕側で受けたのだろうが、装甲やら部品やらが零れ落ちる。
一発で落ちなかったのは、ダットの操縦だろうが継戦はほぼ不可能。
見れば推進器も停止している。
「いやぁああああああああああああああああ!!」
クララが絶叫する。
無理もない、ダット機を叩き斬った敵機は急降下から急上昇に切り替える。
そのまま落ちるだけのダット機にトドメを入れるのだろう。
私もダットの撃墜を覚悟したが…
「?!!」
ダットは諦めなかった。
残った右腕で回転、そのまま停止した推進器を吹かす。
これで高度差はダット優位、そしてダットが魔法を行使する。
―――誰もが落ちると思ったダットがやったのは、先ほどの再現だった。
>あいつ…
【記憶】さえも驚いていた。
私も目を見開く。
風魔法で加速したダットは敵機の推進器を切り落とし、そのまま駆け抜ける。
先に落ちたのは、敵機。
遅れてダット機も落ちる。
闘技場に大歓声が響いた。
やれば出来るコなんです。