02 女学生は見た(誰を?)
しばらくストックです
02
学園の中庭だった。
その日は晴れで、初夏の気持ちのいい風が吹いていた。
多くの学生が日向に出て日光を浴びている。
中には私のように弁当箱を広げる学生も少なくない。
ごうと風が吹いた。
邪魔な髪を縛ろうとしていたリボンが、指の間から抜けた。
風に乗ったソレは、私の座っていたベンチからガゼポを超えて何処かへと飛んでいく。
安くないリボンである。
いわゆる平民の私はソレを追い掛けて、ベンチにバケットを残して歩き出した。
第二校舎と室内運動場間までリボンは飛んで行った。
走れば一発でキャッチできたが、この学園の生徒の大半は上級国民である。
そんな、「はしたない」真似は出来なかった。
…うっとうしい風だなあ、そんなことを考えながらやっと止まったリボンを拾う。
オシャレ好きの妹がくれた青いリボンを握った時だった。
「…あれ?」
私は妹を学園で見つけた。
私は甲冑師の長女だ。
家族は父母に妹4人弟2人の大家族。
なので、本当は学園に進学できるような家庭ではない。
けれど、うちの父が造った鎧を『いたく気に入られたお貴族様』がサプライズとして私を入学させてくれたのだ。
ただ、入学できたのは私だけ。
勉強が好きじゃない双子の妹は入学を断った。
なのにだ、その私の双子の妹であるマリアが学園内にいた。
「ええ?」
驚いたのは、それだけじゃない。
まるで、貴族の生徒のように彼女は制服を改造したドレスを着ている。
普段は酒場【豪傑の庵】で給仕をしているマリアの…ありえない格好に私は混乱した。
家族から見てもマリアは目立つ容姿をしていた。
金髪に赤い斑点の散る鳶色の目、目鼻立ちも綺麗だ。
黙っていれば、良家の娘に見える。
が、マリアが学校に入り込んでる筈がないのだ。
なんせ彼女は今日も仕事の筈である。
今頃は昼食を取りに来たゴロツキの相手をしてるはず。
…あのガサツが何故?
と私が混乱していると、そのマリアのそっくりさんは声を出した。
「……本気ですか」
声まで同じじゃないか。
私がさらに驚いてると、そんな妹のそっくりさんに向き合っていた赤毛の少年が口を開く。
「もちろんだとも。ゼペットの女は得意だろ?」
マリアのそっくりさんに話しかけた少年、見かけは嫌な感じはしなかった。
ただ、どうやら彼も貴族らしい。豪奢な改造制服を着用し帯剣までしていた。
顔立ちもソコソコ整ってる。
ニキビが無ければもっと好ましい奴である。
「お断りします。そんな不埒なことはできません」
そんな彼に、妹のそっくりさんは明確な嫌悪を顔に浮かべて返答した。
「婚約者もいないくせにか」
「関係ないでしょう!」
声を荒げ、彼女は少年を拒絶する。
「おい」
少年の声が低くなるが、少女は無視して歩き出した。
私は二人から見つからないように、さっとその場から離れた。