18 決闘一回戦~知らぬ存ぜぬで通す豚~
悪だくみの結果は…?
学園の敷地は広い。
かつて存在したらしい大貴族の邸宅をそのまま流用しているのだが、奇妙な施設も多い。
その一つが、この闘技場だと思う。
普段は学生に開放しておらず、どうやら第三王子が無理をして借りた用だ。
私は決闘が始まる前に会場入りすると、闘技場に並ぶ双方の鎧を観客席から見下ろす。
>サッカースタジアムくらいか
【記憶】が良く分からない競技の名前を言う。
私はソレに返事を返さず、自分の鎧を見る。
…なんとか仕上がった青い鎧。
名もなき鎧師の作かつ、流派はバラバラ。よくもまあ組めたもんだ。
>お嬢 感動してるところ悪いけど 俺ちゃん的にはヤラれメカっぽく見える
何故、こいつは水を注すんだろう…
>頑張ったの知ってるでしょ?
私が言うと、【記憶】は言う。
>……まあ頑張ってたと思うっす
>何その言い方
>いや…なんだろ 俺の中のロボ的なものが…やっぱり鎧を認められねえと言うか
>いつもそればっかり
>しゃーねえだろ まだ魔力推進機関はソレっぽい 反射板?魔力紐?
>科学って奴?
>こっちの名称が錬金学で笑ったけどな
私は【記憶】との会話を終わらせるために言う。
>そろそろ始まるわ
>うぃ
【記憶】に言うと私は控室へと向かった。
控室にはクララ、ファットマン、ダットがいた。
ダットマンは控室の奥で、彼の私兵らしい若い成人男性を連れている。
「やあモニカ」
ファットマンはニコニコしている。
逆にクララの表情は硬く、ダットは真っ青だ。
「おはようございます。ファットマン様」
「うん」
ダットはサンドウィッチをかじりながら、続けた。
「僕らは運命共同体だ。悔いの無いようやろうじゃないか」
彼はそう言うと、ダットを見る。
「傭兵も参戦してくれたし」
びくりとダットが震える。
「行こうか」
連れ立って控室を出る。
そのまま、闘技場の中心へ向かう。
王子が審判人らしい。
周囲を見れば、生徒もこのイベントに乗ったようで、多くの学生が観戦していた。
「では…両者、ここに決闘を始める。異論ないな」
殿下がファットマン、クララ…ボイドとソレオ、それからソレオの取り巻きを見る。
「神は勝利で正義を示す――」
私はボイドを見ながら殿下の言葉を聞いていた。
長ったらしい話が終わった後、私たちは闘技場脇の待機室に向かう。
初戦は私の名代であるファットマンの従者対、ソレオの取り巻きの従者の対決だ。
順番は身分で決まった。ソレオに挑むのはファットマン、ボイドと争うのはクララだから、私は取り巻きと戦うことになった。
とはいえ、私がヨロイに乗らなくてもいい。
…何故か前日になってファットマンが鎧と乗り手の無償提供を約束してくれたのだ。
まあ、それでもクララの代理人としてダットは戦うのは変わらなかったのだが。
初戦が始まろうとしていた。
既にファットマンの私兵が乗り込んで準備をしている。
ファットマンが用意した鎧は、王国では一般的でないフルーレ製だ。
数打ちの炉に、オーソドックスな部品を載せている。魔力推進機関は推進式で、主武装は長剣。
予備として手槍を二本背負っている。
対する取り巻きは王国主採用のエピ製。こちらも数打ちの炉、魔力推進機関も推進式。
主武装が剣鉈なのは継戦能力を重視した為だろう。予備の短剣を4本、背負っている。
双方の機体より轟音が上がる。
そして風を巻き上げ鎧が宙へと飛びあがったのだが……?
「…?」
ファットマン側の鎧が飛び立たない。
私はファットマンを見た。
「これは…」
ファットマンの表情が読み取れない。混乱しているのか、それとも。
クララが声を上げた。
「見てください!」
やがてこちら側の鎧が膝をつく。
中からヨロイシタを着た、私兵が出てくる。
「………何?」
ダットが言うが早いか、その私兵は叫んだ。
「棄権させてくれ!!」
私たちは固まった。
「事情を問いただしてくる」と、無表情でファットマンは私兵を伴い別室へと消えた。
闘技場全体でどよめきが起きていた。私は、クララとダットを見る。
クララは顔を俯いたまま震えており、青い顔をしたダットが私を見る。
「ダット、行ける?」
私が問うと、ダットは目を閉じる。
大きく深呼吸して、彼は言った。
「行ける。モニカ、せっかく鎧用意してくれたけど悪い」
ダットの表情が変わる。間の抜けた最近の顔ではない。
「ファットマンの鎧で行く?」
私が確認すると、ダットはコクリと頷く。
「相手が何するか分からない。確実に勝つ」
そう言うと、彼はクララに言う。
「勝ってきますよ、姫様」
クララはそれでも返事を返さない。
私はダットに視線をやった。彼は大ぶりのナイフを掴むと出撃の為、待機室から出て行った。
部屋には私とクララだけだ。
ぽつりと、クララが言う。
「……やっぱりこうなるのね」
私は黙るしかなかった。
「ゼペットは呪われてるから」
何を言えばいいのだろうか、私は言葉を探す。
「ファットマンが助けてくれたけど、無駄な足掻きだったのかも。恥を上塗りして…もう」
クララは静かに泣き始めた。
私は、その姿を見て我慢がきかなくなった。
彼女に近づくと、肩を掴む。そのまま無理やり顔を上げさせた。
…美人が台無しだ。
「それでも、まだ負けてないじゃないですか」
私の問いにクララは怪訝そうな表情をする。
「悪いことは続くのよ」
「そうですかね?」
私はダットを思い出す。
勝ってくれよ、無職。
すみません、ストック切れました…