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16  負け犬、モブにこの世界を説明するの巻

タグが息してません…次章より本気出します。


 私は【記憶】を助けたことがある。

 その事が切っ掛けで、私は彼に体を貸している。

 私の体なので当然だが、私の体を【記憶】が自由に動かすことは出来ない。

 だが例外もある。『生命の危機』と『必要に迫られれば』、無理やりではあるものの彼が私の体を乗っ取ることも出来た。


 だが、そんなこと今まで一度もなかった。


 ボイドの時だってそう。

 彼は基本的に私の意見を尊重する。

 だと言うのに…今回は…


>なんで殺そうとしたのよ!


 体の主導権を取り戻した私は【記憶】を責めた。


>こいつは危険だ


>答えになってない!


 怒りが収まりそうもない私に、【記憶】は冷静に答える。


>俺と【同類】 いいや…もっともっと性質が悪い可能性がある


 私は黙った。

【記憶】の【同類】とは、ロクな思い出がない。


>どうする お嬢? 俺は排除をお勧めする


【記憶】が問う。

 私は、ため息をつくと言った。


「それは、コイツ次第じゃない?」


 私は腰を抜かし、咳き込み続けるダットを見下ろした。




 場所を代えることにして、割と煩い喫茶店に入った。

 ダットはしきりに私を警戒している。


>何したのよ


>ちょっと殺そうかと 首絞めて脅した


>私が止める前もやったんだ…


>コイツ明らかに危険だからな 


 私たちがそうして会話していると、腹をくくったらしいダットが口を開いた。


「モニカさん。俺は、別の記憶があるんです」


「…自分以外の?」


 私にとっての【記憶】みたいなもんか。

 そう考えていた私の言葉をダットは否定する。


「いえ、『俺』が『俺』として生きてた記憶です。俺は【地球】でゲームの翻訳の仕事をしてました」


 私は、ダットを見た。


「地球?ゲームの翻訳って何?」


「え?」


「は?」


 私が疑問を返すと、ダットは恐る恐る聞いてくる。


「モニカさんも…同じ転生じゃ?」


「何を同じっていうか分かんない。私、育ちはこの国だし」


「は…?」


 ダットはポカンと口をあけ、それから否定した。


「何言ってるんですか!さっきのアレ!別人格でしょう!」


「別人格……?【記憶】は私の体の同居人よ」


「え?でも、彼は明らかに僕の事とかわかってますよ!それにモニカさん!俺の英語を理解してたじゃないですか!」


>え、あんた彼に変なこと言ったの?


【記憶】に確認すると彼は言った。


>これは俺っちの手落ち………翻訳サービス常時起動しっぱなしだったから、お嬢はソレを使っただけ


>何それ


>外国語の翻訳をしてくれるんだが…


>あ、なるほどね私が知らない間に訳してくれたわけね?


>そゆこと


 黙った私を見ていたダットに私は答える。


「ごめん、理解したんじゃなくて…単なる【記憶】の能力だと思う」


「…彼は何なんですか?」


「【記憶】の事?」


>セキュリティクリアランスの観点から俺の正体への言及は無理だぜ、お嬢


「……使い魔だって、使い魔。たまたま手に入れたの」


 本当のことは言っていないが、嘘も言ってない。

 ダットは唖然とし、俯いた。


「…え?じゃあ?何、モニカさんはバグ?ってこと……いや…いやいやいや、クララの姉なのに?!」


「クララ?私の妹はマリアよ」


「………理解が追いつかない」


>精神病じゃね? この男


「え、何?じゃあ、モニカさんに『乙女ゲーム』と言っても通じない?」


「何それ?」


>テレビゲームの一種類 疑似恋愛を楽しむって奴


【記憶】から答えを教えてもらう。

 ほう、恋愛か…良いではないか、興味があるぞ。

 イケメンがいい、イケメン。


「…この世界は俺が知ってる『乙女ゲーム』なんだよ!」


>は? アタマ湧いてるんじゃねえか?コイツ?


【記憶】に同感しながら、私は言った。


「で?だから?」


 ダットは崩れ落ちた。

 そして泣いた。私達はドン引きした。




 そこからダットの知っていることを根こそぎ聞いた。

 ダットの話しを要約すると…


① この世界は、ダットの生きていた世界で売られていた【乙女ゲーム】だということ

② その世界の登場人物の一人がダットだと言うこと(彼は自分がサブイベントキャラと言った)

③ そしてクララ=ゼペットを初め、皆ゲームのキャラらしい


 そこまでまとめて私はダットに聞いた。


「んで、なんで泣くの?気持ち悪い…」


 ズゲッと言うと、ダットは言う。


「いやだって、フィクションの世界だし」


「私生きてるけど」


「いや…そうだけど…」


 歯切れ悪いなこの野郎。


「何が不安なの?」


「この旧都で戦争が起こる」


 ダットは言った。

 私は、【記憶】に質問する。


>彼が嘘を言ってると思う?


>……奇妙な言い方があるが、おそらく前世ってのは事実だろう と俺ちゃんは判断する


>奇妙って?


>俺ちゃんや【同類】ならまだ分かる 俺とお嬢みたいな例が過去なかったともいえない だがなあ…


【記憶】は言いにくそうだ。


>言ってよ どうせダットには聞こえないんだし


>コイツの言う通り そんな虚構フィクション通りに進むかと思ってな


>どういうこと?


>考えてみ 俺ちゃんは理由があった。お嬢とは事故だ


>うん


>こいつに俺ちゃんみたいな理由が感じられない


>…なるほど 


 私はダットを見る。

 前世がある。別世界の記憶がある。

…と言っても、奴には『この世界に存在しなければならない』と言う【記憶】のような理由がないのだ。


>けどま


【記憶】が言う。


>狂人の空想にしては妙にリアルだ 


>確かに


>お嬢とこいつは学園の話しをしてない 


>そういやそうね


>が、こいつは『キャラ』って言い方で はっきり言うが、情報を知りすぎてる お嬢の近くの人間の名前 地位 をな


>…すとーかー ってやつ?


>単なる元傭兵が、だ おかしくねえ?


>言われれば


>それにな、なんだかんだでコイツが悪い人間に思えねえわ


>ソレ言う?


>言う


 ここまで私が黙ったからだろう。彼は私を見る。


「…クララが死んで、彼女の姉が旧都を焼くんだ。で、ソレを止めるのがリリシア様なんだ」


 マジか。


>お嬢 コイツに洗いざらい吐かせろ


同感だ。私は、身を乗り出す。


「全部話して、これからのこと」


「お?おう。リリシアが攻略キャラとフラグ建てる過程でライバルポジのカーミラ…ヒロインと悪役令嬢のイザコザで、クララが濡れ衣を浴びるんだけど」


「うん」


「どのルートでも、カーミラの派閥に入った彼女は死ぬ」


 重たいな。


「で?それがなんで、彼女のお姉さんが旧都を焼くの?」


「王家とカーミラへの復讐だよ。妹も殺されてるしな」


「…理由は分かった、けど出来ると思わない。旧都の守備部隊はどうしたの?」


「ゲデヒトニス家の工作だよ。王統は我が手にありってな」


「…?」


 ダットは声を潜めて言う。


「この国の成り立ちは知ってるだろ?」


「50年前に2つの国が一緒になったってこと?」


「そうだ。で、その際ウラージ王家とゲデヒトニスに降嫁した姫がいて…」


「それが旧都の王族。ゲデヒトニスが王家に成るってこと?」


「あたり」


 なんてこった。




 ダットの意見は色々衝撃的だった。

 私は家事あるからと言い、彼と別れた。

 もちろん、『決闘からは逃げんなよ』と釘を刺しておいた。

 そうして帰宅しながら、私は考える。


>……あれだ お嬢 元気出せよ


>意味分かんない? クララ様ってリリシア様とカーミラ様のせいで死ぬわけ


>あの自称『転生者』を信じたらな


 私は無言で、自宅に戻った。

 何時も通りに家事をして、弟と妹を寝かせるとマリアが帰ってきた。


「どしたの?お姉ちゃん」


「え?……なんでもないよ」


 マリアにそう言うが、彼女は私を離さない。


「何悩み?決闘嫌だとか?」


「違うけど」


 目の前のマリアと、クララ嬢が重なって見える。


「ねえ、マリア」


「ん何?」


「お芝居の話よ。自分が読んでた本の内容が、現実でも起こるの」


「…そんなお芝居あったっけ?」


「いいから。でさ、主人公は本を知ってるから、不幸な未来が分かるの。どうすればいいと思う?」


「未来を知ってるみたいな?」


「そういうこと」


「じゃ、変えるでしょ。未来って決まってないんだから、同じ通りにしなくていいじゃん」


 私は、妹を見た。


「だよね」


「変なお姉ちゃん」


 マリアが笑う。

…それでいいじゃないか、私は腹をくくる。


 ダットが何だ、ボイドがどうだ? 私は私のやりたいようにする。

 普通の生活を脅かすなら、やり返すだけだし。




ああ!PCに!PCに!ストックが…!!

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