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12  決闘相手が令嬢に喧嘩を売った理由

ボイド少年は表情筋死んでる系のイケメンです。

 あの事件から一夜明けて、私は貴族校舎の中を歩いていた。

 マリアは激怒したまま帰宅し、ダッドは目覚めてなかった。

 店長夫婦に阿呆ダッドをいったん引き取ってもらうとの言質を取った。


 ちなみにマリアが激怒したのは、恥も外聞もなく騎士の誓いを酔ったままやったことらしい。

 あと手を振り払えなかった自身へのいら立ちからだったようである。


 やだ乙女…と思った姉の気持ちを返してほしいぞ、妹よ。


 私は歩きながら、昨晩のことを思い出しつつ、呼び出したボイドの意図を考えていた。


 あと残り7日。

 何を考えてワタシを呼び出すのか…


 目的地についた。

 生徒同士の談話室。何時見ても高そうな扉である。

 自由に使える部屋なのだが、貴族の皆さまは自由に使いすぎではないだろうか?

 私は息を吸い込むとノックした。

 

「入れ」


 当然出迎えるのはボイドである。

 イケメンだが、何か違和感がある。


>…コイツ 表情筋が死んでるな


>そう?確かに仮面みたいに表情動かないけど


>お嬢の死んだ目の時にそっくりだ


 私は【記憶】を無視してボイドを見る。


「端的に言う。お前はゼペットを知っているか?」


「浅学故、かの家のことは知りません」


 正直に答えると、ボイドは言った。


「なら教えてやろう」


 ボイドは淡々と言う。


「売女、毒婦、魔女の巣窟のような家だ」


>言うねえ このボウズ


「バンダン様がゼペット家にお怒りを抱いていることは理解しましたが、お言葉の真意が見えません」


【記憶】を無視して質問する。


「あの家はな、ゲデヒトニス公爵家の影だ」


>あ、これ長いな


【記憶】が言う。

 私もそう思った。


「7代かあるいは8代前か。王家とゲデヒトニスの間で何かがあった」


>悪いお嬢 俺ちゃん、彼にフラグ建てたみたい…


>フラグってなに?


>墓穴を掘るとも言う


「今となっては理由も起こりもその結果も分からぬ」


>…お嬢 コイツ コミュ症ぽいぞ


「ただ、ゲデヒトニスは持っていた伯爵位を使い、ゼペットを起こした」


>こみゅしょー?


>会話が下手な人のこった 今も一方的にベラベラしてるだろ?


>あー…


「ゼペットは、いつしか莫大な借金と名前だけの貴族になり果てた。それゆえ、当主はまともに配偶者を得ることはできず、本家であるゲデヒトニスの寄り子でありながら、本家からも侮辱される」


>借金だらけの名ばかり貴族っているの?


>あるあるじゃん お嬢


>へーそうなんだ


 私達は彼の会話を聞く。


「だからこそ、あの家は女を全面で使う。娼婦も顔負けの技術で持って、男に取り行っては裏で動く」


>ほん ゼペット嬢は床上手と


>【記憶】、次ソレ言ったら怒るから


「……でなければ、我がバンダンが選ばれず、あの女の姉が近衛騎士の次席に名を連ねられるものか。そして死したがアレらの庶兄も、女に取り居られなければ近衛騎士としていられたかすら怪しいのに」


 私は、そこにボイドの隠れた本音が透けていたのを感じた。

 嫉妬、それから格下のゼペット家の侮りが混じっているように思える。


「ソレを伝えた上で問う」


 なんだよ、お貴族。


「確かに私はお前の家族の職を軽んじた。が、だからと言ってゼペットの肩を持つ必要はないのではないか?」


>あ、俺ちゃんも同意


 私は、やや考えてから答えた。


「ファットマン様に失礼ですので、ご容赦いただけませんか」


「肥満の彼か」


 ズケっと言ったなこの、イケメン。


「肥えてはおられますが、ご本人のお耳に届けば…」


「構うものか。金で爵位を得た、麦商人上がり、酒屋を買って成り上がった家だ」


>あのデブ、やり手そうだったけどそゆこと


「はあ」


>煩いぞ【記憶】


「……女に金をやっているくせに、金を貸しては取り立てる愚物だ」


「確かに」


 商人へ取り立てる出入りの時に弟が鎧着てった事もあったな…


「武家であるバンダンによくぞ喧嘩を売ったものだ」


 全能感、少年特有の向こう見ず、そんな感想が頭の中に浮かんでは消える。


「同意します」


 ただソレを言葉に私はしなかった。

 ボイドは私を見る。

 表情は動いてない。

 イケメンだが「何だコイツ」と私は思いつつ言った。


「ボイド様、話しは以上ですか?」


「ああ、これだけだ」


>ほんっっとコミュ症だな…コイツ


【記憶】が呆れる中、ボイドは言う。


「何故、お前はゼペットの肩を持つ?ファットマンとお前に何の縁がある?」


「ファットマン様は愚弟の勤め先です。ゼペット様を手助けしたのも、妹に似ていたからです」


 隠さず事実を言うと、ボイドは目を見開く。

 初めて表情が動いたな…


「それだけか?」


「はい」


 ボイドは頭を抱えた。


「そうか…てっきりお前はファットマンの愛妾かと…」


「いえ、ありません」


 ファットマンの妾だと?

 ないな、ない。

 贅沢させてくれそうだが、私は普通の男子と家庭を持ちたいのだ。

 貴族なんて御免だ。


「はっきり言うな」


「ファットマン様は良く知りませんので」


 事実だし。


「お前は、レーレロイの娘のような事を言うのだな」


 意外な名前が出た。


「お嫌いですか、リリシア様」


「……好きでも嫌いでもない」


 その間はなんだ、ボイド。


>おっぱいが気になるんだろ?


>黙ろうか【記憶】


「が、よくわからん。王子やヘリオスに媚を売る理由が分からず不気味には思っているが」


 ヘリオス様を呼び捨てにしたのに、私は知らず反応していたようだ。

 ああ、とボイドは補足する。


「ヘリオスの家と我が家は争う中だ。レーレロイの娘にうつつを抜かさずとも、いずれは我が一族が軍を率いる」


 ふぅん。


 興味が湧かなかった。

 リリシア様ってのは私にろくな縁をもたらさないなと思いながら、私は言った。


「それでも決闘ですから」


 ボイドは私を見る。


「ボイド様の胸を借りたく思います」


 暴力礼賛に聞こえるかな?

 早い話が力があるし、【うぬぼれた】としか思えない彼にこの言葉はどう響くか。

 やああって、ボイドは言った。


「尚武の志は受け取った。争う相手ではあるが、お前の心意気は認めたい」


 そういうと、ボイドは私に退室を促した。

…意外とマトモかもしれない。

 私はボイドにそんな感想を抱いた。





「…肥満ねえ。うーん酒樽体形って言われ方が我が家としてはあってるんだけどね」


 ファットマンはカラカラ笑う。

 貴族の教室には平民は行けない。

 けれど下人を使って、ファットマンは様子見のため私を呼び出した。

 今は、貴族向けの食堂のテーブルで彼と面会していた。

 私が彼にクララの騎士を見つけたこととボイドとのやり取りを報告すると、ファットマンは笑った。


「クララ女史には私が伝えるよ」


 そこまで言ってから、彼は私を見た。


「で、自分の代理人は見つかったのかい?」


 痛いところを突かれた。

 私は彼を見る。


「それが…」


「それとなく、弟君や使用人に声を掛けておくよ」


 私は甘えてしまったことを少し悔いた。


「ところでヨロイはどうするんだい?」


 ゲッと私は思いだしてしまった。


「……さすがにヨロイの貸与はねえ」


「…ですよね」


 個人のヨロイ持ちは少ない。

 あのダッドも傭兵団が保有するヨロイに乗っていた筈だろう。

 高いし。


「紹介状を書こう」


「…?」


「ヨロイ愛好会だ。そうだな、ゼペット女史と行くといいかな。僕の友達どれいがいるはずだから」


 ファットマンは笑った。


ファットマンはデブです。

ファットマンは友人とはお金の縁が切れない笑いの絶えない関係です。

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